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マッチャーな彼女

昨日の仕事で

独り暮らしのおばあちゃんの自宅へ、医師の往診があるために私が付き添いに行くまえに、事務所の女の子が

先生も(ケアマネの私と)他愛ない話したいでしょ!と言った。

ほーーー

私は、お医者さんというのは『忙しい』『時間のない人』だと思っていたので、病院への受診のときも、自宅への往診の時も、患者さんや家族さんはともかく、付き添いの私が余計な話を一切したことがなかった。(もちろん必要な相談は遠慮なくする)

お医者さんによっては全然関係ない話をされる方もおられるが、それはその先生のやり方であって、相応の応答はするけれども
往診を依頼しているケアマネの立場で、医師の貴重な時間を奪いかねない『関係ない話』はこちらからはしないものだとルール的に持っていた。

しかし、往診を行う医師というのは少ない。
なるほど、他愛のない話が嫌いなお医者さんは、そもそも自宅へ出向いての定期往診もされないだろう。

私がその日付き添うのは、独り暮らしのおばあちゃんで、おばあちゃん自体も話をされないので、必要事項以外は話しないばかりでは、医師にとっても味気ないかも…と思えた。

ならば、今日は以前から気になっていた、医院のキャラクタースタンプ(戦国武将に扮した医師のほのぼのとしたイラスト)について尋ねてみよう、という気持ちになった。

ミッションは成功して、往診は笑顔で終了した。



この、「あの先生は他愛のない話したがっていると思うよ」という助言をくれた、事務所の女の子は、他愛のない会話の達人で
とくに、オバちゃんおじちゃんの、聞いてほしい話したい訊いて!という空気を掴むのが、べらぼうにうまい。

相手がお喋りをしやすいように、答えやすい問いかけをする。
顔をみてまず挨拶なんかしない。彼女は挨拶よりも問いかけをする。
急に問われてもすぐ答えれるような簡単な話題、相手が「そうそう、聞いてくれる~?」となるスイッチを押す。
ここが非常に絶妙だ。

気にしていたあの件、どうなった?
今日はスムーズにいった?
相手の状況に合わせた問いかけのチョイスがうまい。繰り出せるカードを持っているのだ。

相手は自分の痒いところに手が届き、嬉々として彼女に報告をする。(そしてカードがまたストックされる)

会話で相手の心を柔らかくする。乱暴な言い方をすると、手なづけるのが巧いのだ。

この能力すげーなと感心しているのだが(もちろんこの能力だけではないけれど)

いかんせん、彼女は、本人曰く「人嫌い」で「なるべく人と会いたくない」うえ「性悪説で生きている」のだそうで…

すなわち、その高きコミュニケーション能力は自己防衛のために磨かれたものであるようだ。

自己が敏感で傷つき易いために自分のテリトリーを安全地帯にしなければ、おちおち過ごせない。安心して生きるためにその能力を駆使している。
どういう相手か、自分を追い詰めないか、相手を軟化させてある程度掌握している必要性があって、だからこそ手持ちのカード枚数を揃えている。
電話の会話や仕事の割り振りまで、細かいエピソード記憶が超発達している。
周辺情報に長けていると、まわりの動きも把握しやすいためと推測する。

彼女が苦手とするのは、軟化があまり効力をもたないほど『激しい気性の人』と、予測不可能でカードが思うように通用しない『ド天然系』かもしれない。

自分が傷つくかもしれない(安全の確保が出来ない)状況下では、彼女はペッちゃんこにしぼむので、まじで使えたものではないが

自分に被害が及ばない所では、彼女はほぼ完璧な調停者となる。

ビジネス書で知れわたる「ギバー、テイカー、マッチャー」のなかの『マッチャー』である。

アダムグラントの「give&take」を読んだとき、彼女の洗練されたマッチャー性を思い出した。

マッチャーは、ずるさを嫌い、してもらった恩はとにかく返したいし、してあげた事にも相応の見返りが欲しい。公平性を重んじる人である。
相手の能力や意思を見極めて、これは公平な取り引きか、ということを瞬時に計算する。
公平でなければ取り引きは行わない。

良くいえば、正義、平和を保つという働きをする。悪く言えば、私を含むマッチャーは皆どこかケチ臭い。

対して、私の勤める事務所の代表は『ギバー』である。

与える人ギバーは、自分のことよりも人の喜びを糧とするので、他の人もそうである方がいっそう喜びが循環すると思って仕方がない。

ギバーから見ると、自分の能力を出し惜しみするマッチャーの振る舞いは発展性がなく、もどかしいことだろう。

自己犠牲を恐れていては伸びないことを、我らマッチャーに理解して貰おうと一生懸命、一所懸命に力説するギバーの気持ちもわかる。

公平や平和では、発展性が薄い。
そして、いま世の中を占めているのはマッチャーの精神性であるため、世論は停滞しているのではないかと感じる。
しかしながら貴重なギバー(利他的な人)を支えているのも、じつはコミュニティ空間の調停者であるマッチャーだと言われている。


勝手に(笑)事務所の女の子を取り上げさせてもらったけれど(怒られる)
次は、実際のギバーってどんななのって話ができればと思う。

ギバーが代表をしている介護事業所に興味を持たれたかたは、ホームページをご覧になっていただきたい。

http://www.dear1.net

注釈
誰もが相手(家族、恋人、知り合いなど)によって、ギバーやテイカー、マッチャー性はその濃度を変えると聞く。親切や愛情は「対峙した相手」により変化するのは当たり前のことだろう。

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