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【社会探訪】「グレートジャーニー」が語る日本人の物語

1.人類のグレートジャーニーのユーラシア大陸東岸の終着地、日本

ユーラシア大陸の東端、その先の海に浮かぶ日本列島。

遡ること2千万年前、大陸から千切れる様に形成され、2万年前のその姿は、今の日本地図とは大きく異なっていた。大陸と樺太と北海道は陸続き、瀬戸内海も陸地、津軽海峡、対馬海峡も糸ノコで切ったかように狭い。大陸との人の往来は、北からも西からも容易であったに違いない。沖縄とは繋がっていない。南からの渡海は、大変であったろう。

【「日本列島は大陸と陸続きだった」という言い方には注意が必要(金平譲司)(図はNakazawa 2018より引用)】

2万年前の日本列島

http://www.jojikanehira.com/archives/13606952.html

その後、温暖化で海面が上昇し、大陸から切り離されて列島となった。日本に渡って来た人々は、大陸から遮断され、列島に閉じ込められたりもした。寒冷期から温暖期にかけて、海面は120メートルも上昇したという。

そうした歴史と地理が、日本、或いは日本人に対するロマンを掻き立てる。日本人は、何かと日本論が好きだ。特に日本人のルーツは盛り上がる。

勿論、僕も例外ではない。日本人は単一民族、それが故の単一文化。少なくとも特殊であり、だから外国人には、わからないーそんな思いにマイノリティーのダンディズムを覚えたり、わが国の歴史や伝統に想いをはせ、司馬遼太郎「この国のかたち」に夢中になったりした。

最近では、昨年「ニッポンの人口を巡る空想大冒険」の執筆の際に、「少数民族になることは悪いことか、民族とは何だろうか」という哲学的な疑問(?)が生まれ、以来、「日本人とは何なのか」を自分なりに考えてみたいと思ったりしていた。

【自作でお恥ずかしいですが・・・】


そんな最中の昨年末、NHKのBS番組で「フロンティア 日本人とは何者か」の再放送を視聴した。ゲノム解析技術の発展が今までの定説を覆す、僕にとっては衝撃的な日本人のルーツを巡る新事実と仮説が紹介されていた。それは、気候変動、そして日本が人類のグレートジャーニーの東端に位置する島国であることに絡む壮大な物語だった。

【NHK フロンティア 「日本人とは何者なのか」】

https://www.nhk.jp/p/frontiers/ts/PM34JL2L14/episode/te/XRL92XPWX2/

 
2.古代ゲノム解析から見える日本人のルーツのパラダイムシフト

(1)その粗筋を記すと、次の通りだ。ゲノム解析技術の進歩により、世界の民族の遺伝子レベルでの遺伝的な遠近の比較が可能となった。それによると、アジアの諸民族は遺伝子相関マップ上で一直線に並び、連続的に近しい関係であることが示されるが、日本人は、その直線から飛び地のように離れている。その原因は、今は存在しない縄文人の遺伝子が現代日本人に引き継がれていることに因るという。

【全ゲノム解析法を用いた縄文人と渡来系弥生人の関係の解明(国立科学博物館)】

縄文人、弥生人、現代日本人とアジア諸民族のゲノム解析

https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-25251043/25251043seika.pdf

(2)更に、その縄文人は、現在のどの世界の民族よりも、現在のタイ南部の山奥の30人程度の少数民族マニ族に近いという。マニ族はその周辺から発掘されたホアビニアンという古代人の遺伝子に近い。と言うことは、縄文人の風貌はマニ族に似ている可能性が高い。マニ族の風貌は、アジア人とは相当に異なリ、むしろアフリカ系に近い印象だ。

6万年前、我々の祖先は人類誕生の地アフリカを出発し、グレートジャーニーと呼ばれる移動を行い、世界に人類の生息圏を拡大していった。東南アジアに到達したのは4万年前。彼らはホアビニアンと呼ばれ、狩猟採取民族であった。その後、農耕民族がこの地域に侵入、彼らを押し退け、現代の東南アジアの民族に繋がっていく。マニ族はそのホアビニアンの残存者というのだ。

【NHK ”最初の日本人” その「親戚」がタイの密林にいた】

「最初の日本人」の親戚のマニ族

https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/feature/2023/12/04/36270.html

(3)農耕民族に支配される前に、一部の冒険心溢れるホアビニアンが南シナ海・東シナ海・中国海岸沿いに北上し、更にその一派が日本に到達してきたと言う。その数は1千人程度とまで推定されている。これが現在1億人の「最初の日本人」、縄文人の先祖と言うのだ。その縄文人のDNAが現代日本人に残っており、東京は1割、沖縄は3割、アイヌ人では6割を占めるという。
地域差が大きいのも特徴だ。

【日経サイエンス 2024年2月号】

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC223660S3A221C2000000/

(4)縄文人は26万人程度にまで増加したと思われるが、その後、大陸から農耕とともに渡来人が押し寄せ、混血が進み、弥生人となった。この弥生人が、今までは現代日本人の祖先であると言われた。遺伝子的には縄文人と渡来人の二重構造を構成するというのが通説であった。

ところが、ゲノム解析による新たな発見で、実は弥生時代の終わりから西暦3~5世紀の古墳時代にかけて、第二の渡来人の波が、ベトナム、南中国、北中国、モンゴル、朝鮮半島北部、遠くはベーリング海峡付近に渡るアジア全域各地から押し寄せたという。

現代日本人(東京)の遺伝子において、縄文人のDNAが1割、第1次渡来人が3割に対し、この第2次渡来人の遺伝子がなんと6割を占めるという。古墳時代の日本の人口は約540万人というから、百万人単位の規模の流入があったのだろう。古墳時代の人骨の遺伝子と現代日本人の遺伝子の構成は非常に近く、この古墳時代の古代人が現代日本人の直接的な祖先になるという。

(5)こうなると、日本人は多民族人種というしかない。これもユーラシア大陸東端に位置することのなせる技だ。日本の東には太平洋が広がり、その先に行けず、狭い島国で融合せざるを得ない。日本は、グレートジャーニーの終着駅の一つなのだ。

渡来人の第二波の時期は、中国大陸で戦乱が続いて不安定な時代であった。後漢が衰退し、三国時代、五胡十六国時代、朝鮮半島も三国時代だ。日本では、邪馬台国が被る。戦乱から逃れる為に日本に渡ってきたのだろう。東アジア広域にわたる多民族の移民は、当然、多文化、多言語であったが、この狭い島国で並存して生活していたという。おそらく長い間、日本では言葉が互いに通じなかったに違いない。その様な状態が中世まで続いたという考え方もあるという。

以上のゲノム解析が明らかにした2万年にわたる日本人成立の時間軸から見ると、日本人が単一民族、単一文化であるというのは、つい最近のことであり、現代日本人の信仰なのかもしれない。むしろ我々は、多彩な国土において、多民族で、多文化の状態を消化し、多様性を包摂してきた歴史を認識すべき、と考えることもできる。

3.経済力から見た日本の人口問題と多様性

(1)話を変えるようだが、つい数日前に、日本の有識者グループから人口問題を正面からとらえた提言が公表された。微妙な課題にも踏み込んでおり、勇気ある提言に思えた。内容も合理的な展開で、専門的な裏付けがあるのだろうが、素人の自分にも分かりやすい主張であった。

【人口ビジョン2100(人口戦略会議)】

https://www.hit-north.or.jp/cms/wp-content/uploads/2024/01/02_gaiyo-2.pdf

とは言うものの、人口減少の止まる目標出生率2.07は、現実からは遠く感じる。経済発展による少子化は必然に近い。子供は収入を補う子宝ではなくなり、遺伝子を残したいという自然な本能は残るが、これを満たせば、重い教育費と社会的責任を伴う経済的・心理的な負担が勝る。

人間の性からすれば、人口減少の緩和はできても、減少は避けられないだろう。事実、先進国で経済が成熟化した後で出生率が恒常的に2.0を超えた国はない。

つまり、日本人が現在の日本人しか日本国民と位置付けられないならば、人口減少は止まらない。このことを将来の現実として受け止めざるをえない。

【合計特殊出生率の推移(日本及び諸外国)社会実情データ図録】

1970年以降の経済成熟期から出生率2以下へ

https://honkawa2.sakura.ne.jp/1550.html

因みに、日本の出生率が2.0を超えたのは、高度成長期後期の1975年頃までである。もう50年前の話だ。

(2)経済学的には経済成長のドライバーは、労働力と投資、全要素生産性の3要素に分解される。全要素生産性は簡単に言えばイノベーションだ。投資は成熟した経済では大きな伸びは期待できない。多くの家庭で車も家電も持っている。

労働力も投資も今のままでは増加を期待できない以上、イノベーションで新しい産業を起こして付加価値を創出し、それに伴う新しい投資を喚起することで、労働力減少によるGDPの減少を上回るしか手はない。

従って、イノベーションこそが経済力再生の起点だ。イノベーションは、日本がグローバル競争から落伍しない為の必須の条件である。そして、そのイノベーションには、多様性が必要だ。

イノベーションを行うのは人間である。創造力、自由な発想、活力が必要だ。それには、人が人生に希望を持ち、米国の経済・社会学者T.ウェブレンの言う「製作本能」など、人が持つエネルギーを開放して働ける環境を整備していく必要があるのではなかろうか。

【T.ウェブレンの製作本能と産業技術(高橋宏幸)】

https://www.eco.nihon-u.ac.jp/wp-content/uploads/2023/05/86_0203_10.pdf

(3)さて、先に述べた日本人の辿ったルーツに照らすと、我々は単一民族、単一文化という思い込みに、自らの可能性を縛っているのかも知れない。日本人としてのアイデンティティーを「多様なDNA・言語・文化の統合民族」と捉え直し、歴史と伝統に裏付けされた魅力ある日本文化を求心力として、日本の可能性を柔軟に追求する、という考え方もある。

(4)ここで、何を「人口」の対象と捉えるべきか。それは、日本民族なのか、日本国籍なのか、日本居住者なのか。日本人として、誰に、どこまで、どの様な権利と義務を認めるか、を検討しなければならない。

日本生まれで日本国籍を持つ人間だけに日本人を限っては、日本の社会の維持は質的にも量的にも限界に来る。グラデーションを付けた「ニッポン人」という柔軟な概念が求められるのではないだろうか。

以下の研究レポートでは、日本はこのままだと、2040年には1100万人の労働力不足(不足率はおおよそ20%)が起きると試算している。現在の日本における外国人労働者数は180万人である。

【未来予測2040(リクルートワークス研究所)】

https://www.works-i.com/research/works-report/item/forecast2040.pdf

例えば、ゲノム解析が明らかにした日本人のルーツからすれば、「ニッポン人」とは、

「日本の伝統と文化に共感し、ユニバーサルな世界観を尊重する人びとの複合的な集団」

と新しく定義してもよい。

(5)以上、経済再生の観点からすれば、少子高齢化に対応する労働力や、イノベーションで先端技術を担う高度人材と多様性の確保が課題であり、そうなると移民が解決法としてテーマに上がる。

1990年台以降の大学等の公的機関における基礎科学研究の縮小、民間における中央研究所の閉鎖などで、日本の科学技術力は衰退、特にAI、医療画像診断などの情報系先端技術者は海外人材に早急に頼らざるえないという残念な状況にあるという。

移民の受入れは、一方で、社会秩序維持に向けた異文化との共生や同化の取り組みとともに、その家族の社会保障や教育など、財政的にも社会的にも負担を伴う。移民を受け入れた場合、日本社会の貢献として何を期待し、どのような権利と義務、身分をどの規模・構成率で与えるのかを明確にすべきだろう。

移民政策は、思想的にも、行政的にも、財政的にも個々に重い課題を抱えるだけでなく、相互に関連し、難易度が高い課題なのだろう。

しかし、日本経済の岐路に直面する今、「ニッポン人」のアイデンティティーに照らし、移民の可能性と課題に向き合い、何を選択するのか、議論する時期に差し掛かっているのかも知れない。全て良いところ取りはできない。

尚、移民大国と言われる米国の移民の人口割合は14%程度である。フランスが10%、ドイツが27%、カナダは23%。日本は、伝統・文化の共感を求心力とするならば、受入能力、許容力からして、10~15%で限界だろう。それでも、現在の外国人居住者数320万人に対し、1000万人以上に相当する。2040年の1100万人の労働力の不足に対し、ロボットとAIによる自動化率の向上と合わせれば、何とか乗り越えられるイメージはつきそうだ。

例えば、現在の労働人口は6900万人、自動化率を10%向上できれば、690万人相当の労働力が浮く。仮に移民が人口割合10%強の1200万人として、内、労働者が5割の600万人ならば、現在の外国人就労者180万人に対し420万人増となるので、合計1110万人となり、1100万人の労働力不足をカバーできる。その後の日本人の減少は、自動化の継続的取組みで補えれば、労働力不足は持続的に回避できそうだ。

それでも、相当な規模であり、移民政策の仕組みをしっかり整備しておく必要があるだろう。上記「人口ビジョン2100」も外国割合を10%と想定している。

4.ニッポン人とは何か。それが始まりだ。

(1)「国力の方程式」がいくつか考案されている。クラインの方程式が一般的と言われるが、そこでは、

国力= [(基礎要素(領土・人口)+経済力+軍事力] 
   ✕(戦略目的+国家意思)

としている。領土は与件であるから除くと、我々の取り組める国力の構成要素は、

①人口、②経済力、③軍事力(防衛力)、並びに
④戦略目的と国家意思を合わせた、言わば、
「国家運営力」の4要素となる。

【人口減少と総合国力に関する研究(総合研究開発機構 神田玲子)】

https://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/keikaku/lifestyle/3/shiryou3-1.pdf

国家運営力については、民主主義、国民主権のわが国においては、我々自身がどう取り組むかの話なので、他の要素の在り方が固まってからの話であり、他の論点を先に考察したい。最終的には、財政との整合性、税金のあり方、延いては、国民の社会生活との整合性を検証する必要があるのだろう。

(2)となると、激変するわが国の内外環境の変化を踏まえれば、日本の国力再生の主要論点は、

①人口減少・少子高齢化対応、
②第四次産業革命対応、
③安全保障力改革、

と考えられる。

第四次産業革命について補足したい。 国も「Society 5.0」を提唱しているが、工業化で決定的に国家間の経済格差のついた第二次産業革命に匹敵する、「第四次」産業革命に現在、直面しているように思う。生成AIの登場が、一連の技術革新が第四次産業革命を引き起こすことを決定づけた感がある。

今回の産業革命は、経済発展による少子高齢化、技術革新の方向性やSDGsの浸透と言った流れからすると、
「電脳空間社会化+脱炭素循環経済化
 +新エネ転換(再生・水素・原子力)×電動自動化」
に則して、進んでいると考えられる。

とすると、行きつく先は、まるでSFの世界だ。第二次産業革命のインパクトを超える経済格差を生む産業革命かもしれない。経済力に関する課題としては、DX、GX、EX等と個別要素を認識する前に、大きく「第四次産業革命対応」と括ってみた。早くに個別要素に分解すると、本質を見誤る気がしたからだ。

(3)これらの論点の中で、最初に議論すべきは人口問題と思う。人口は、日本人という概念の再確認とも関連し、経済力、安全保障力のあり方の前提条件である。
つまり、この国のあり方の根本的なIssueである。

また、全てのテーマが国民的議論となるのが望ましいが、人口問題や日本人の定義については、比較的とっつきやすく、議論がしやすいのではないだろうか。残された時間は少ない。効率的、効果的な議論が必要だ。
第四次産業革命の進行は、日本を待ってはくれない。

まだ課題や論点が残るが、自分なりに順次勉強し、自分なりに考え、やはり自分なりに納得したいと思う。

以上、少しでも参考になればと願いつつ、皆さんに順次、報告できたらと思ってます。

最後までお付き合い頂き、有り難うございました。

補論)残された論点のヒント:
無駄になるかも知れないが、執筆中の雑感として。

(※)安全保障環境も、台湾有事を他人事では許されぬ状況になってきた。真剣に考えなければならないのだろう。日米安保条約には極東条項があり、日・台・比で戦争が起きた場合、米軍が守る代わりに、日本が米軍に基地を貸すことになっており、中国による台湾封鎖における交戦区域を台湾島の周囲200kmと想定すると、沖縄の先島諸島が被るという。
沖縄が戦禍に巻き込まれたら、わが国も傍観はできない。単独では無理なので、米軍と協力して対抗することになる。米国が同盟国を守る際に、応分負担の基準として、同盟国のGDP2%程度の軍事費支出を一つの基準にしていると言う。日本の防衛費は本年度7兆円であるが、GDP2%となると10兆円程度となるという。

(※)経済力の再構築では、国家予算を投入して、基礎科学研究、文化・ブランドを含むソフトパワー強化にテコ入れし、イノベーションのシーズを育成して、新しい社会のニーズを満たす持続可能な新産業に繋げる必要がある。革新的なシーズには、基礎科学力は不可欠だ。
日本は、科学技術が先行していたにも係わらず、新需要の政策的育成不十分だった為に、市場が商業生産規模に至らず、産業化に遅れ、海外に先を越された苦い歴史が続いている。
競争国は軍事費と連携して、巨額の産業育成投資を行っている。外交、軍事、宇宙、産業、サイバー空間の境界は消えかかってている。因みに、米国の軍事費は80兆円に上る。新産業の育成により、国も税収増で予算を回収すれば、国債頼みからも脱却できる。

(※)日本の2023年度国家予算114兆円の内の80兆円が、年金、医療の社会保障費(37兆円)、国債費(25兆円)、社会保障費に回る地方交付税交付金(16兆円)に当てられ、純粋な政策予算が30兆円程度という中で、どう遣り繰りするか。

(※)現在の長時間労働の働き方を脱して、人間の未知や創造に対する本能を解放し、創造力と希望の復活で国民的な熱量が膨張することも大切。人材育成、人事制度、組織文化の刷新や文化・慣習の進化が求められる。


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