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スタバ?って何?

"Oh, you mean Starbucks?"

今はすっかり慣れましたが、日本に帰国したばかりの頃「スタバ」という
言葉を聞いてそれがいったい何なのかわかるのに数秒かかりました。
I literally said that. 
あー、スターバックスの略?!

あなたはコーヒ派ですか?紅茶派ですか?
僕はイギリスにいた頃は紅茶派でしたが、その後アメリカに渡ってからは
すっかりコーヒー派になりました。


1.コーヒーとの出会い

僕がアメリカ・フロリダ州にある大学に行って最初に飲んだコーヒーは
Seattle's Best Coffee のいわゆるドリップコーヒーでした。
あの時の出来事はあまりにも驚きだったので今でもはっきり覚えています。

広大な大学のキャンパスの中に、まずコーヒーチェーン店が入っていることに驚かされました。今でこそ日本でもキャンパス内にスタバがあるような大学が増えてきていますが、当時の日本では考えられないようなことでした。そして僕の通っていた大学に当時入っていたのが、日本にもチェーン店のある Seattle's Best Coffee でした。

アメリカの大学生活初日の早朝、カフェテリア内にそのカフェを見つけさっそくコーヒーを飲んでみようと思いました。本当はイギリスで慣れ親しんでいた紅茶を飲みたかったのですが、気候も文化も違うアメリカに美味しい紅茶があるはずがありません。少しsnobbishに聞こえたらすみません。イギリスにどっぷり4年もいたら紅茶に少しはうるさくなるものです。海外で日本茶を名乗る偽物のお茶に出会ったらきっとあなたも一言 言いたくなるはずです。新しい国に来たら、新しい生活。転勤族の家庭に生まれ引越しばかりの人生、無意識のうちにも新しい文化にとっとと溶け込んでいかないといけないという気持ちがあったのでしょう。コーヒーに慣れていかないと、という。

メニューにはたくさんの種類のコーヒー。いったい何を頼んでいいのかさっぱりわかりません。渡米する前イギリスを中心にヨーロッパで過ごした4年間、紅茶ばかりを飲んでいたのでまったくコーヒーに関する知識がありません。そこで店員に何がお薦めか聞いてみることにしました。
すると返ってきた答えが、ムスッとしててとても不愛想。
"I don't drink coffee." の一言だけ。
「コーヒーなんか飲まないから知らねーよ」です。
ビックリしました。なぜそんな人がコーヒー店で働いているのか。
何を飲めば良いのかわからないのでとりあえず無難にRegular Coffeeを頼むしかありませんでした。美味しかったかどうかは覚えていません。味がわからないので、ま、こんなもんだろうといった感じだったと思います。何よりも店員の態度に驚いた記憶しかありません。

2.カフェモカとの出会い

コーヒーがすっかり気に入ったのは、Caffe Mocha(カフェモカ)という飲み物を知ってからです。ドリップコーヒーや、いわゆるホットとかブラックという飲み物は、僕にとってはただ苦い飲み物で当時は好きになれませんでした。このカフェモカとはエスプレッソにミルクとチョコレートシロップを入れた飲み物。苦いエスプレッソと甘いチョコレートが、たっぷりのミルクの中で見事に混ざってなんと甘くて苦い。一目惚れならぬ、一「舌」惚れでした。

幼少期に母はよく暖かいミルクに Hershey's のチョコレートシロップを入れて飲ませてくれました。ミルクの中でマーブル模様のように混ざっていくチョコレートシロップを見るのも楽しかった記憶があります。僕がフロリダで学生時代を過ごしている間、両親はサンフランシスコに住んでいたのですが、同じアメリカ国内とは言えその距離は札幌から那覇までの距離の約2倍。親元を離れて遠くで暮らす僕にとってなんとなく家庭の味を彷彿させるものだったことも、一「舌」惚れの要因の一つだったかもしれません。僕にとってカフェモカとは、母の作ってくれた子供用チョコレートミルクに、大人用のエスプレッソを混ぜたようなものでした。

これに導いてくれたのがある書店でした。僕は本を読むことが大好きです。
学生寮の近所にアメリカの大手書店チェーン Books-A-Million があり、よくそこに通っていたんです。初めて行ったときその店内に Joe Muggs というカフェを見つけました。そこのメニューにカフェモカがあったのです。僕の人生初のカフェモカは、本屋さんの中のカフェで飲んだのです。なんと美味しい飲み物があるんだと感動し、以来すっかりその虜になりました。よく寮のカフェテリアで夕食をとってから、そこのカフェに移動して遅くまで勉強をしたものです。

当時の日本では飲み物を書店内に持ち込むなんてありえないこと。今でこそ蔦屋書店/TSUTAYAを中心に、カフェが併設されている書店や図書館を多く目にするようになりましたが、イギリスにいた時にもそういうスタイルの書店を見かけたことはありませんでした。持ち込むどころか、すでに店内にカフェがあるのですから、なんと寛大な国なんだろうと深く感心しました。

3.Starbucksとの出会い

その後しばらくして Barnes & Noble という全米一の大型書店チェーンを見つけました。初めて入ったその日からこの書店が大好きになりました。入った瞬間Jazzの音楽が耳をくすぐり、コーヒーの匂いがスーッと鼻から体内に入ってくるんです。体が操られるようにして足が勝手にその匂いのする方向へ向かって行くと、その空間だけ木目調のフロアーになっているカフェがありました。

「アメリカの大型書店にはどこにもカフェがあるのか」
唖然としました。

そしてその名前が Starbucks でした。

初めて見るスタイルの、とても居心地の良いお洒落なカフェ。そこのメニューにもカフェモカをみつけました。これもなんと美味しい。日常的にここへ足を運んで勉強をするようになりました。ほとんど話し声がしない空間にほどよい音量でJazzがかかっていて、大好きなカフェモカが飲めるんです。
長居しても誰も文句を言いません。はまりました。

その頃だと思います。
今でこそ誰もが知っている Frappuccino(フラペチーノ)という飲み物が新しく発売されたのが。なんだこりゃ。かき氷みたいな冷たい飲み物があるんだなぁ。これが最初に飲んだ時の感想です。頭が割れそうに冷たく甘く、これも気に入りましたがとにかくアメリカの店内というのはどこもとても寒い。レストラン・カフェ・あらゆる施設の屋内の冷房が効きすぎています。そんな冷たいものを飲むとブルブル震えてきて、とても店内でじっとしていられませんでした。暑いのにわざわざ一度外へ出て行って飲み、終わったら店内に戻ってまた座るという、なんともおかしな飲み方をしていたものです。

今では世界どの大都市を訪れても見かけるようになったほどの店舗数。僕が人生で初めて入った Starbucks は、このアメリカのフロリダ州にあるものでした。随分あとになって知ったことですが、この頃に日本で第一号店が東京・銀座にオープンしていたそうです。「スタバ」と略されて呼ばれているなんて知る由もありませんでした。

4.McDonald'sとDunkin'との出会い

当時のクラスメイトにベルギーから来た日本人の女の子がいました。フロリダ州の大学、しかも航空大学に日本人が自分以外にいるなんて思いもしなかったので、まずは驚きました。僕がイギリスにいた頃、両親はドイツのフランクフルトに住んでいたのですが、弟はその親元から近所のインターナショナルスクールに通っていました。そこに彼女も行ったことがあるというので、同じヨーロッパを知る日本人同士すぐに話が合い、いろいろとアメリカ生活について教えてもらいました。ヨーロッパは地続きなので、日本で他県に行く感覚で気軽に車で外国旅行に行けます。彼女も高校時代、クラブ活動でフランクフルトの学校にも試合で訪れたことがあるということでした。
当時の我々の会話、たぶん皆さんが想像するものと違うと思います。

一番驚いたことは
「車の中にカバン入れておいても大丈夫だよ」
というアドバイスです。え?!本当に?!

きっと何のことかわからないでしょう。
ヨーロッパではありえない行動なのです。そんなことをしようものなら例え数分でも、車のガラスは割られカバンを持っていかれてしまいます。被害届けを出したところで、そもそもなんでそんなことをしたんだということを問われるでしょう。このような話しは、ヨーロッパと北米の両方の生活・文化を知っていないとできないことで、国籍問わずアメリカしか知らない人にはできないこと。ヨーロッパから来た彼女はとても心強い存在で、アメリカで新生活を送っていく僕にとって役立つ情報をたくさんくれました。

その彼女が「アメリカ人って朝すごい早いんだよ」と。確かに!
広大なキャンパスの中は花木で埋め尽くされていて、とても綺麗に手入れされています。一番早い授業は確か8時からだったと記憶しているのですが、駐車場に車を停めて目をこすりながら教室へ歩いていく途中、その通りだけで十人近くの庭師が植物の手入れをしているのが目に入ります。その働きっぷりはさっき始めたばかりというような熱量ではありません。

McDonald's や Burger King などのファーストフード店も朝はとても早くから営業しています。6時に開いてるのは普通で(5時に開いてる店舗も)朝のメニューも充実しています。早朝の Flight Training 前にドライブスルーでコーヒーを買って行くというのも普通の光景です。大学での授業もそうでしたが、コーラなどのジュースを飲みながら授業を受けることは許されていました。ただし炭酸飲料水については、缶であれボトルであれ「シュパッ」という最初に開ける際に鳴る音は授業が始まる前に必ずだしておくこと、というルールがありました。これは最低限のマナー。よく勘違いされているようですが、自由で何をやっても許されるという文化ではありません。意外に日本にはない細かいルールは多かったです。目に見える範囲の自由度の幅が大きく印象に残りやすく、勘違いされているように思われます。北米の方が日本より厳しいよというルールは実はたくさんあるんです。

数あるファーストフード店の中でも僕は McDonald's のコーヒーがお気に入りでした。日本のものとは味が違います。育った環境が違うので僕の舌は日本のマーケットでウケる味を好まないようで、いまだにアメリカの McDonald's のコーヒーが恋しくなることがあります。舌で記憶している味というのはしつこいもので、努力して忘れられるのものではありません。同じく Dunkin' Donuts のコーヒーもそうです。前作「ドーナツにくるめられた優しさ」を読んでいただいた方はご存知の通り、僕はここのコーヒーを飲むためだけにアメリカに行きたいと思うことが日常的にあります。

カフェモカと、Starbucks・McDonald's ・Dunkin' Donutsの3店のコーヒーはアメリカでの大切な出会いです。僕の食生活を変えたと言っても過言ではありません。食生活というものは体に染みついたものです。言語習得にはある程度の努力がいりますが、感情抜きで体が勝手に好む食生活に関しては自分がコントロールが効かない範囲のものです。

5.オーストラリアのコーヒーとの出会い

2章で書いた通り、僕はブラックコーヒーが苦手です。
"Do you take cream and sugar?"
と聞かれた場合は必ず "Yes, one each."
コーヒーには砂糖とミルクを入れないと飲めません。
いわゆるWhite Coffeeと表現されるものです。

どうやら日本では成人男性が飲むコーヒーはブラックとほぼ決まっているようで、これにはとても違和感を感じます。なぜなんでしょうか。ブラックの顔だよね、なんて言われることもよくあるのですが、どうして人の顔を見て砂糖やミルクを入れる入れないを判断できるのか、これだけはいまだに理解ができません。どなたかご教示頂けないでしょうか。イギリスやアメリカでは多くの男性が砂糖やミルクをたっぷり入れて飲んでいる環境で生活していました。単なる文化の違いなんでしょうか。

I say it loud. I DO NOT drink black coffee.
もう一度言います。ブラックは飲めません。

ですが、この僕がオーストラリアに旅行に行った時はなんとブラックコーヒーを飲んでいたんです。自分でもびっくりです。それほど美味しかったんです。

以前オーストラリア人の同僚に、オーストラリアにはすでに美味しいコーヒーがあるからと言われたのを覚えています。Starbucks がオーストラリアで流行らず撤退したという話しをしていた時です。彼らはイタリアよりもコーヒーは美味しいと自負しているようです。僕も現地で実感しましたがうなずけます。確かに美味しいです。

しかし驚きました。"Can I get a regular coffee?" と注文した際に
"What's regular coffee?" と聞かれた時です。
絶句しました。これ以上 他に言いようがありません。
Regular Coffeeが通じない場合、何と言えばよいのでしょう。他の言い回しが浮かびません。最終的に Long Black に落ち着きました。初めて聞く呼び名です。

Macchiato を頼んだ妻は一口飲んでカップを置きました。ミルクたっぷりの甘いコーヒー、マキアートを待っていたのに、超絶濃いエスプレッソ。結局もう一口頑張ったところでギブアップしていました。僕も一口試しましたが、たぶんエスプレッソが2ショットは入ってるような?苦さで顔が歪みました。オーストラリアではマキアートとは、濃いエスプレッソに少しミルクの泡がのってるだけの飲み物だそうです。とても面白い経験でした。

これも後で調べて知ったのですが、イタリアからの移民が多いオーストラリア、彼らにより独自のコーヒーの文化が生まれ根付いていったそうです。Long Black(普通のコーヒー/ Regular Coffee)を作ってもらう際に非常に興味深く観察していたのですが、先にお湯を入れてからその上にコーヒーを混ぜるという順番なんですね。(僕が知ってる限り)日本やアメリカでは逆です。これで味が変わる一つの要因なのではないかと思っています。ちなみにLong Black があれば Short Black もあります。これはエスプレッソのこと。Flat White なるものも、これまた想像もつかない飲み物。答えはカフェラテのようなもの、だそうです。きっと隣国ニュージーランドでも同じような文化なのではないかと推測しています。

僕には日本に住みながら、ドラえもんの「どこでもドア」で日常的に行きたいレストランやカフェや図書館や美術館や空港やスーパーや城や駅や道が、世界のあちこちにあります。こんなことに思いを馳せるだけでもとても贅沢なことだと思います。幼少期から多数の国を訪れ、住んできました。この旅行後、そんな僕のリストにまた行きたい場所が追加されました。ブラックコーヒーを飲むためだけにオーストラリアへ日常的に行きたいです。大変気に入りました。

6.スタバとの出会い

日本に帰国して以来、僕はよくスタバで仕事をしています。カフェモカが僕にもたらしたアメリカ時代から続く習慣です。カフェモカを飲むためについでに勉強をするというスタイルから、いつの日からかコーヒーがそばにないと勉強ができないというスタイルに変わっていきました。

一般にパイロットという仕事は飛行機を飛ばすことだけだと思われているのですが、実際は飛ぶ前の準備が大変多いのです。スポーツ選手を例にとると、彼らは試合に出てる数時間だけ働いているわけではありません。試合に出ていない間はずっと練習や準備をしていて、その結果を出す場が試合なのです。われわれも勤務上「オフ」というのは当然ありますが、実質ずっと勉強していただけという休みの日もあります。試験や訓練が一年を通して多いので、特にその前はずっと机の前で勉強をしています。世界の情勢や技術の進歩によってどんどん変わる規程や法律を知っておかないといけません。コンピューターに入った新しいソフトウェアの不具合が報告されていたりすると、その時の対処方法を学んでおかないといけません。整備からの不具合事象に関する情報にも目を通さないといけませんし、飛ぶ前にやることは果てしなくあるのです。

帰国したばかりの頃は、仕事をするためのカフェやレストランを探す際にあらゆる所でタバコの臭いがしてとても嫌な思いをしました。アメリカでタバコを吸っている人は犯罪者を見るような目で見られます。最近ようやく日本でもきっちりと分煙意識が広まってきたように思えますが、当時は時代錯誤の文化に眉をひそめる外国人の同僚の前に肩身が狭い思いをしたものです。その頃からすでに店内完全禁煙だったスタバは、そういう僕にとって日本で数少ない安心して長居できるカフェだったのです。

ただ一つ困ったことが。簡単に座れない。なぜ店内はこんなに混んでいるのか。アメリカで座ることに困ったことなんてありませんでした。座席を確保するのがこんなに難しいとは。人口密度の話しではありません。アメリカのカフェではドライブスルーや持ち帰る人が多いので、店内にとどまる人は少ないんです。どうも日本人は純粋にコーヒーを買いに行くというよりも、スタバへ行くという体験を楽しんでいる人が多いように見えます。要するに「スタバで仕事や勉強をする」「スタバで本を読む」「スタバでお茶をする」というスタイルを目的にしているというのでしょうか。

日本ではコーヒーというのは一息入れる飲み物で、イタリアやフランスのカフェでお茶をする文化に近いと思います。他方、アメリカでは目を覚ますものであってリラックスさせるための飲み物ではないと捉えられている気がします。文化の違いであってどっちがどうという話しではないのですが、同じく一息を入れる文化が強いヨーロッパからアメリカに行ったので、余計にその点に目が行くのかもしれません。

*****

僕のコーヒーとの出会いは驚きから始まり、飲む習慣がつき、生活に欠かせないものと変わっていきました。本によって導かれ、国が変わってもまだ生活の一部に染み込んでいます。たくさんの人がそれぞれ違う目的を持って集うカフェ。ただコーヒーを買いに来た人、待ち合わせをしている人、仕事や勉強をしにきた人、時間をつぶしに来た人。そしてそこでいろんな出会いもあります。いつもの店員、たまたま隣に座った人、よく見かける人、子供を連れたお母さん、などなど。

最近では、家でもない学校や職場でもないという意味で「サードプレース/ The Third Place」という、カフェなどの居心地の良い場所を指す言葉が若い世代を中心に浸透してきました。まさに僕がアメリカ時代から無意識に追い求めてきた場所です。

その僕にとってのサードプレース、スタバで素敵な出会いもありました。
これはまたのお話し。いつの日かそのことについては書いてみたいと思っています。出会いは常に短い言葉から始まりますが、それが長いお付き合いになることも。

今日はどうされたんですか?
誰かに誘われていらしたんですか?
ホッと一息しに?
それとも目覚ましに?

僕は、本に誘われて カフェモカを飲みに来ました。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
ただいま次回作を執筆中です。
またお立ち寄りください、ぜひ!
「スキ」をおしていただくと、そのお力でもっと良いものができます。
Happiness is like a cloud, staying up there, no matter it rains or shines.
Thank you for lifting my spirits.
寺ピー


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