アフォーダンスの応用01

アフォーダンスの応用(触れると愛着がわく法則):行動経済学とデザイン09

アフォーダンスを行動経済学に含めるのは間違いだと自覚してはいるけれども、他に的確な理論や定義を知らないので、この言葉を使います。

今回は事例から話題を展開します。

ジョナサンアイブ

ジョナサン・アイブ
リーアンダー・ケイニー(著)、関美和(訳)
日経BP社 2015.01

ご存知、アップルの伝説的デザイナー、ジョナサン・アイブです。彼が手がけた数多くの中から、ここでは25年前のデザインに注目します。

初代iMacのデザイン

初代iMacは上部にハンドルが付いていたのを覚えていますか?実はあれにはデザイナーの強い意図があったんです。本書に書かれていた(オリジナルはスティーブ・ジョブズの本)次の一文を読んでみてください。

「怖そうなものには、ふつう手を触れない。僕の母も怖がってパソコンに触らなかった。だから、持ち手があればつながりができるんじゃないかと思ったんだ。ハンドルなら握りやすい。思わず手にとってしまう。触っていいんだよ、という合図になる。それは人への従順さを示しているんだ。」

今日のようにPCが一般の家庭の中で普通に使われるようになったのは(95年以前で家にPCを持っていた人はパソコンマニアが多かった)、PCに親しみをデザインしたからです。その象徴がハンドルです。

使ってもらうためには、まず触ってもらいたくなる見た目であって、心地よさや不安を取り除くように感じてもらうようにしたこと。その結果、記録的なヒットでPCのブレイクスルーを起こしたことは誰もが周知の事実です。

インターフェイスをデザインする

iMac登場以前の人とPCの関係は、このように思われていました。

・ユーザー:パソコンは未知で怖いものだ
・PC:扱える者のみ操作を許可する
・開発者:もっとPCが人の役に立ってほしい

それがiMacによって関係がこう変わりました。

・ユーザー:かわいいし簡単そう、使ってみたい。
・PC:さわって、さわって。
・開発者:もっとPCが生活に入りこんで楽しんでもらいたい

ハードウェアのデザインは人とPCをつなぐ接点です。そして物理的に触れることができるのは、マウスキーボード電源コード、そして家に置くときに持ち上げるハンドルです。ここをインターフェイスとして捉えデザインをしたことが、初代iMacの注目すべき点です。

アフォーダンスの応用02

意図してかはわかりませんが、appleの新しい商品で手が触れるものには、必ず触り心地の良さを意識した形になっています。iMacのマウス、PCのアダプター、初代iPhone、apple watch、など。

デザインではこのような人とモノの接点の考え方を、アフォーダンスに結びつけて語られることが多いです。

アフォーダンスの概念と応用

アフォーダンスは誤った認識が広まっていると言われています、アフォーダンスを正しく捉える必要があるため、この本から。

デザインの生態学

デザインの生態学
後藤武・佐々木正人・深澤直人
東京書籍 2004.04

アフォーダンスは環境が生物に与えている意味や価値といったことを意味してており、端的に書くと関係性の概念です。それが認知心理学に派生してデザインで語られることで広く知られるようになりました。有名なのがこの本ですが、同時に誤解にもつながっているといわれています。

誰のためのデザイン?

誰のためのデザイン?
ドナルド・ノーマン
新曜社 1990.02(写真は2015年の増補・改訂版)

使い方を示唆するためにカタチや表示をデザインすることがアフォーダンスという間違った認識で捉えている人が多く、著者のノーマンはそれをシグニファイア(Signifier=示唆する手がかりのこと)だといっています。ただ、この言葉あまり浸透していませんが。

深澤直人はそれを理解したうえでwithout thoughtの考えにアフォーダンスを展開しています。当時まだスタイリング全盛のデザインのなかで、この活動は衝撃的でした。

大事なことは、人と人工物のあいだには接点となるものがあって(アフォーダンスでは表面=Surfaceという)、その接点をつくるためのデザインが、人の行動に大きく影響を与え、経済の変化にもつながります。

接点が持てていないなら、それをつくるためのインターフェイスをデザインして、触れるという原始的な体験の機会を増やすことで愛着が生まれ、自分の感覚の一部にさせるのがデザイナーの役目です。(使いやすいということではなく、関係性を深めるという意味です)

初代iMacから20年ほどたち、Microsoftが ”Surface” という名のハードウェアで接点をつくろうとしたことは、この観点から考えると興味深いと思いませんか?

アフォーダンスの応用01

まとめ

デザイナーにとってのアフォーダンスとは、製品やサービスが利用する人との接点になっていることを捉え、人の原始的な行動に働きかけてビジネスの成功に応用できると考えます。

そのときの対象はハードウェアに限らず、UIでも(そもそもUIはソフトハード問わずすべての接点のことを指す)サービスでも当てはまります。例えばつい押したくなるボタンや、自分の言葉として使えるメッセージ。

appleのデザイナーがなぜ優れているかというと、単にカッコいいだけではなくて、使う人の心理や行動を見てカタチにできるからだと思います。

僕もそういったデザインが少しでもできるようになるために、まず自然体で日々の暮らしを過ごすことからはじめてみます。合理的に物事を考えるのではなく、無意識的にふと思ったり行動してしまうことに対し、その背景を見つけてデザインのヒントを得てみたいと思います。

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。