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輪郭をなぞるように。

『私、今どんな表情をしている?』

誰かといるとき、背後にいるもう一人の自分が問いかけてくる。
俯瞰している彼女と心は共有していても、表情はそうとは言えない。

卑屈な態度の人と相対していると、
私の中の同じ部分が頭をもたげてくる。

すぐ謝るくせに、いつもどこか上からの物言いな相手と向かい合っていると、
(ああ 自信がなくて不安で仕方ないのかもなぁ。
自分もそういう側面もっているもんなぁ)

と思いながらも、頭の中で自分と相手を切り離そうと必死になってしまう。

ネガなものだけで絶対に人と繋がりたくない。
これは私の防衛本能だ。

中途半端に笑いながら 相手と目も合わせられなくなるといよいよ、あの声が聞こえてくる。

『私、今どんな表情をしている?』


背後を振り返ったらお互いの顔を確認できるかもしれないけれど、その声が聞こえてくると今度は私を私から切り離そうとしてしまう。

見たくない
知りたくない
想像もしたくない

醜いに決まっているんだ、

だって心の中では見下しているんでしょう?
相手のことが疎ましくてたまらないんでしょう?って
声が続きそうな気がして。


心の中身はきっと表情を作る材料。

私は無意識に自分を軽蔑し続けて、想像で補った酷い顔を自分にあてがって あれこれややこしく考えているふりをしているんじゃないのか、
そんな風に思う毎日だ。


相手も自分も悪くない時は、どうやって解決したらいいの?
時折、いつか閉口することも我慢ならなくなって
鋭い言葉で相手を傷つけてしまいそうなアンバランス
さを自分に感じていた。
それが私には、ものすごく怖いことに感じる。


話すつもりのなかったこんな話を、問題を抱え始めて1年経った数日前 人に話してしまった。


ああ、たしかに貴方そういうとこあるよね。


きっとそう言われるだろうなって話した後に後悔し始めた矢先、その人はこう言ってくれた。


数年あなたを見てきて思うことがある。
あなたは他人に強い感情を向けてしまうと、罪悪感で自分も一緒に傷ついてしまう人だよね。
そういう自分の側面を、自分でちゃんと分かってる。 感情に振り回されて 喉元まで強い気持ちが上がってくることはあるかもしれないけど、
あなたはその感情をそのまま相手にぶつけるような人じゃないよ。
絶対に思いとどまるよ。
今まで見ていて、それは絶対。


そこに慰めの声音はなく、事実を淡々と告げるような鮮明さがあった。

私はびっくりして呆気にとられて、
「…それ本当ですか?」しか言葉が出てこなかった。


自分の顔を自分の手で触ってみても
心に手をかざしても
ぼんやりとした輪郭しか私にはわからない。

他人がくれる嘘のない言葉が 呪いになったり愛になったりするのだと思うと、
人を傷つける言葉を選べるわけがない。

自分を信じてくれる人が、
大切な言葉を差し出してくれる人がいることに
心の深いところがじんわりと暖かくなる。

私、大丈夫だな。
そんな風に自然と思えてくる。

洗面台で手を洗っていたら、不意に彼女と目があった。
間の抜けた、すこしぼんやりした顔。
数十年と見てきたはずの、自分の顔。

気が抜けたような ピンと張り詰めた所のない穏やかな表情。

すこし笑って、ピースサインを出すと
同じように笑ってピースしてくれる。

「なんか馬鹿みたい、わらえる」

声に出すと本当にばかみたいなんだけど。
こんな日があってもいいよねって、柔らかい頭の中。


私、今どんな表情をしている?
少しでもいいから、笑って見せてよ。


自分にそう話しかけてみる。
心と表情が一致するような、豊かな人になりたいよなぁ。


#日記 #散文 #思うこと #言葉 #愛と呪い #エッセイ #表情 #心

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