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デザイン思考で大切なのは、実践と仲間~「やまぐちデザインシンキングカレッジ」アドバンストプログラム・最終発表会(後編)~

2月17日に「やまぐちデザインシンキングカレッジ」アドバンストプログラム最終発表会が開催されました。発表会の様子は、以下のnoteをご覧ください。今回のnoteは、発表後に行われた特別対談などの様子をレポートします!

スペシャルゲストによる特別対談

特別対談は、ファシリテーターを務める村岡知事から、慶應SDMの白坂成功教授とCode for Japan代表理事で山口県CIO補佐官の関治之さんのお二人に質問する形式で進められました。対談の主なやり取りをまとめてみましたので、ぜひご覧ください!

発表の感想

--まず、全チームの発表を終えて、お二人から本カレッジの感想などをお願します。

白坂教授
大変さを乗り越えて、多様性が活きないと生まれないようなアイデアが出ていましたね。多様性を上げると、中で分裂することも多いんですが、ちゃんとしたチームの結果が出ているなと感じました。

あとは、アイデアも社会実装しないとそれで終わってしますので、社会に対する価値を実践できていくのか、更なる一歩がどれくらい出てくるかをすごく期待させる、良いプレゼンテーションだったなという感想です。

関補佐官
多様な人たちが作ったことや、フィールドワークしていることが感じられるアイデアが多かったですね。今日の発表は課題の解像度が高かった。

一番大事なのは、どういう課題をどういうあるべき姿にしていきたいのかという思いのところで、現場で色々な人の話を聞くほど、やる気の高まりや凄いアイデアに繋がるので、その最初のプロセスをしっかり学ばれた、良い機会になったのではないかと思います。

DXにおけるデザイン思考の重要性

--DXを進める上でのデザイン思考の重要性について、白坂先生にお伺いできますか?

白坂教授
私は元々テクノロジー側の人間なんですが、テクノロジーって手段ですよね。今日の発表は、各チームが見つけたり、ターゲットにした課題が良かったと思うんです。

DXでは、デジタルという手段を使って、何をトランスフォーメーションするのか、何の課題を解決するのかというのを見つけ出さなきゃいけない。実は、このスキルは、あまり訓練されてきていないスキルでなんです。国のDX人材育成のスキル標準を作っても、結局デジタルスキルの標準になってしまう。

テクノロジーを使って社会をより良くしていくために、何の課題を解決するのかというときに、デザイン思考と人間中心で、SDGsのグローバルアジェンダのような抽象度の高いものではなく、現場の人たちの身になって考えて、このテクノロジーが解決できそうだというセットを作り上げていく作業になる。

そのセットの課題を見つけるのがデザイン思考であって、試してみたら手段は変わる可能性があるんですけど、一旦見つかった課題は意外と変わらないんですよね。本当は手段から入って課題を見つけているんですけど、今度は課題を中心として手段を切り替えていく、そこに持っていくのがデザイン思考で、特にテクノロジーを知るほど必要だということを、テクノロジー側の人間だった私も身をもって知ったんです。

逆に言えば、テクノロジー側の人間ではない方々は、より寄り添うことに慣れているので、そういう人達と組んで、現場に入って課題を見つけていくことが、テクノロジーを実装して、社会を変えていこうと思うとすごく大事で、そこの重要なピースだからこそ、デジタル庁をはじめ色々な方々がデザイン思考をやらなければいけないと言っているんだと思っています。

デザイン思考を実践する上での課題と克服

--今後受講生の皆さんが現場でデザイン思考を実践する際の課題や、それを克服して実践されている事例について、関さんにお聞きしたいのですが。

関補佐官
デザイン思考って、考え方とカルチャーが変わらなきゃいけないんですね。どうしても見つけたソリューションにこだわったり、一度決めた計画を変えるのが大変だったりするんですけど、デザイン思考をやっていると、課題を解決する点は外れなくても、ソリューションは全然違うやり方みたいなことが出てくるので、柔軟性のある意思決定ができる環境にするところが、すごく難しいと思います。

環境を変えるにはいくつか方法があって、まずは一緒にやってくれる仲間を見つけて、実際に何かやってみましょう。「デザイン思考ってこういうものだよ」という勉強会でもいいです。それで、「面白そう」「やりたい」っていう人が出てきたら、自分たちの事業の中で、この考え方を当てはめてみると、新しい学びになると思います。

そこから小さくてもいいから、成功事例を作る。そうするとまたやりたくなって、少しずつ変わっていくので。そして、「こういうことが広がっていますよ」「効果出ましたよ」っていうことを常に言い続けることで、少しずつ仲間が増えて、折に触れてキーマンにもちゃんと報告して、ぜひ応援してくださいと理解者も増やしていく

地道ですけど、カルチャーってそういう方法でしか変わらないんですね。ボトムアップとトップダウンの双方向で上手くコミュニケーションしていくっていうことが重要なので、小さなことからでいいから、進めていただければと思います。

あとは、繋がった仲間で繋がり続けること。1人で戦うのは孤独なので、集まった仲間と時々会って話したり、コミュニケーションができていれば、次に進もうという勇気がまた出てきますから。せっかくできた仲間を大切にしながら、どんどん味方を増やしていくっていうのを、それぞれの現場でやっていただくといいんじゃないかなと思います。

DX推進リーダーに求められる資質

--白坂先生は国のデジタルスキル標準の作成にも参加しておられますが、現場においてDXを推進するリーダーに求められる資質などについて、教えてもらえますか?

白坂教授
デジタルスキル標準を作るときに私がまとめた「ビジネスアーキテクト」っていう名前は、すごく悩んだんです。「課題を見つけ出す人材って、何て名前なんだろう?」というのが、見つからなかったんですよね。

デジタルスキル標準を作るとき、AIなどのデジタル人材やデザイン人材を取りまとめて、どういった課題を解くのか、デジタルという新しい手段で何が解決できるようになったのかを分からないといけないとなったのですが、これが難しい。

デジタルだからこそ可能な課題解決をできる人材を考えたとき、どのテクノロジーをどう組み合わせたら課題を解決できるかっていうことをセットするというのが「アーキテクチャ」という概念なので「アーキテクト」という言葉を使ったんですけど、「アーキテクト」には目的設定という役割は本来なくて、課題設定をセットでできる人材ということ分かるように、最終的に「ビジネスアーキテクト」という名前にしたんですけど、こういう人材が日本中足りないんです。

DX人材をD人材とX人材を分けるならば、解ける課題を特定してどう解くかのコンセプトを作り上げるX人材、トランスフォーメーション人材を育成できればいいかなと。

スキル以外にもう一つ重要なのが、マインドセットとして多様性の価値をどのくらい理解しているかだと思います。人と意見が違ったときに、その人は自分とは違うものを見ている可能性があるんです。そういうところに意識がいって、結果として自分の意見でも相手の意見でもない、全く違う意見のところに集約させるというマインドセットが、多様性を活かすところに圧倒的に重要になってくるんです。

こういった意識を持ちながら、課題設定やそれを解くことのできる人材を育成できると、DX推進のリーダーになる人材が生み出せるんじゃないかなというふうには感じています。

リビングラボでの実証

--カレッジなどで生まれたアイデアを実践する場として、山口県ではリビングラボの取組を進めたいと思っているんですが、どう進めると良いのか、関さんからご意見いただけますか?

関補佐官
リビングラボは、市民や地域に暮らす人たちと一緒に、研究や実証などのラボ的な活動をやっていく場所ですが、それがなぜ必要かというと、色々な素敵なアイデアが出てくるんですけれど、それがすぐサービスになるかというと、そうではないんですね。

アイデアが実際に何か価値を生むような形になるかどうかは、色々な実証実験などをしないといけないわけですが、これまでの実証実験の多くは根づかずに終わってしまうことが多かったと思います。それに対して、リビングラボは何が違うかというと、実際に生活の中で試すんです。だから、市民や地元企業なども参加しているということで、その地域に合ったソリューションが出てくるといったところが大きく違うと思っています。

ぜひ、そういったところを作っていただきたいんですけど、まずはカレッジに参加していただいている皆さんが、実際にアイデアをやってみたいんだと言ったときに、いきなり会社を作ってくださいって言われても、できない人もいっぱいいますよね。

なので、そのアイデアを持ち込んだときに、うちの会社をちょっと使っていいですよとか、その関係のスタートアップを知っているから紹介しましょうかとか、そういった感じで相談できる相手がいて、実際にうちでやっていいよっていうようなフィールドもあって、地元企業とか金融機関などが、そういうことをやるんだったらぜひ応援したいという感じで実証になっていく。

一緒になって、それが実際に持続可能なビジネスになっていくという、そういうインキュベーションみたいな機能を持つ必要があると思いますし、ぜひ企業の人たちも含めて、そういう多様な人たちがとにかく実験を楽しんでいるような環境を作っていただければと思います。

受講生と山口県に向けて

--それでは最後に、受講生や山口県に向けて、応援や今後期待することについて、お二人からお言葉をお願いします。

白坂先生
受講生の皆さんはまず、次の一歩をとにかくやってください。リビングラボという場があるなら、試さない手はないです。次に、関さんの話にもありましたが、実証実験というと、できるかどうかを試してしまうんですけど、そうではなくて、価値があるかどうかを試さなければいけないんです。本当に価値があるかどうかはその人達にしか分からないので、それをやってみる。

3つ目が、関さんもおっしゃいましたが、コミュニティがすごく大切です。今回のように、これだけの期間、これだけ真剣に一緒にやるチームってなかなかないので、まずはこのチームを大切に。

もう一つは同期ですよね。我々は「システム×デザイン思考」を教えていますけど、ここで使ってる言葉が通じる人ってそんなに多くなくて、それが山口県にもう既にこれだけいるっていうことは凄いこと。このコミュニティを大切にしながら、色々な人を教えたり、一緒にやってみたりしながら広げていく。これを3つ目として、皆さん、ぜひやってもらいたいと思います。

山口県に対しては、このコミュニティを継続しながら、2期生・3期生など彼らの周りに似たようなコミュニティをどんどん繋げていくことがすごく重要です。色々な企業や自治体でやっていますが、これが継続しているかどうかで、結果の出る出ないが全く変わるんですよね。

本当に社会実装していくためには、彼らが自分たちだけで終わるのではなくて、後輩がこの先どんどん生まれていって、お互いに情報交換をしたり、事務運営側に入ったりしながら、コミュニティが広がっていくようなことを支援してあげると、彼らがリビングラボで実証したりとか、社会実装したりするときに、そのコミュニティ自体がサポートしてくれるようになると思うので、ぜひ、これを継続してもらいたいというふうに思います。

関補佐官
山口県には、リビングラボを大変楽しみに期待することとして、このカレッジとリビングラボ、あとはデジテックforYAMAGUCHIなど既存のシビックテック関連というものを、大きなうねりとして繋げていっていただきたいなというふうに思います。

受講生の皆さんに求めることとしては、こういう活動を今後も続けられることを期待していますけれども、そういうのが続いていったときに、1期生ってめちゃくちゃ大事なんですね。1期生の皆さんが文化を創るということが確かにあるので、今後も入ってくる人たちと繋がった連続性をぜひ守っていただきたい。

それを保っていける前提でお話しすると、皆さんが後輩に対して、去年どうだったみたいなことを伝えるとか、自分たちもずっと続けて活動してるよみたいな姿を見せること、皆さんが会社で成果を出すことですよね。今回学んだデザイン思考を使って、会社の中で事業を成功させましというような成功事例がどんどん増えていけば、私達もやりたいなっていうことで、毎回倍率がすごいというプログラムにもできると思います。

現場はどこでもいい、新規事業を始めていただいてもいいですし、自分たちの会社で自分たちの仕事を改善するということでも全然構わないので、習ったことは使わないとすぐ陳腐化してしますので、ただ、いい講座だったなと終わらせるのではなくて、実践でどんどん貰った武器を鍛えて磨いて、世の中に価値をどんどん生んでいただけるとこのプログラムも意味があるということになるんじゃないかと思います。頑張ってください。

その後、対談のファシリテーターを務めた村岡知事からも受講生たちに対して、「山口県はデジタル実装だけではなく、地域の課題を解決することや新しい価値を産んでいくところを目指していて、デジタルを活用してそれをしっかりと組み込んでいくというステップに繋げていかなければいけないと思っています。そういった意味では、受講生の皆さんが今回得られたものは非常に大きいものがありますし、ぜひ皆さんのチームも繋がりを維持して欲しいですし、職場でも広げて、さらにこれから続く後輩にも色々なサポートしてもらえると非常にありがたいなと思います。」という激励と期待の言葉がありました。

この特別対談の様子は、以下のアーカイブ配信でもご覧いただけますので、詳しい内容がお知りになりたい方は、ぜひアクセスしてください!

デジタル証明書「オープンバッジ」による修了証授与

特別対談後には修了式が行われ、これまで数カ月間にわたってY-BASEで熱心にご指導いただいた慶應SDMの広瀬毅先生・中田実紀子先生からご挨拶がありました。広瀬先生・中田先生、本当にありがとうございました!

その後、受講生には、世界共通の技術標準規格に沿って発行されるデジタル証明「オープンバッジ」を活用した修了証が授与されました。

「オープンバッジ」は、メール署名やSNS等で共有できるほか、資格に対するものは内容証明としても使用可能で、ブロックチェーン技術を活用することにより、偽造や改ざんが困難な信頼性のある証明書としても使用されています。今回のオープンバッジによるデジタル修了証が、修了生の皆さんがデザイン思考の実践者であるPRにお役に立てば嬉しいです!

アドバンストプログラム(2022年度)のオープンバッジ

修了式後は、参加者による記念撮影が行われ、閉会後も修了生同士の歓談やコオロギ試食コーナーなど、会場となったY-BASE各所で大いに盛り上がっていました。(コオロギ試食コーナーって何?と思われた方は、ぜひ最終発表会(前編)のnoteをご覧ください(笑))

最終発表会を終えて

最終発表会を終えたやまたんの感想は、デザイン思考って、地域に暮らす人たちの課題や悩み事を見つけて、それをデジタルなどの技術と結び付けて解決するために必須のスキルであることに加えて、多様な人々の意見やアイデアを融合させて、集合知として既存の枠を超えた解決を目指すマインドセットなんだなということを強く感じました。

そのために必要なのは、個人のスキルも重要ですが、色々な意見を出しやすい心理的安全性の確保や、自分と異なる意見は認知バイアスを越えて自分に新たな視点を与えてくれているんだと捉えるマインドセット、そしてそうした思考を共有できる仲間の存在だと。

今回の「やまぐちデザインシンキングカレッジ」アドバンストプログラムが、修了生の皆さんにとってそうしたものを得られる機会になったなら、関係者の一人として、やまたんも感無量です!

最終発表会の熱量を皆さんに余すことなくお伝えしようとした結果、前後編とも長文となってしましましたが、ここまで読んでいただいた皆さん、ありがとうございました!

アドバンストプログラムは、3月24日の交流会が最後のイベントとなります。修了生たちの意見交換や絆が強まる場になればいいなと思っています。もちろん、その様子もnoteでお伝えしますね。では、また!



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