見出し画像

293 公民で何をどう学ぶ?


はじめに

中学校で習う社会科の分野に公民という学習があります。この公民では、現代の社会のしくみやそれを構成する人間性や生き方について学習する教科です。主に、中学3年生になると公民の学習が社会科のなかで扱われます。
中学で学ぶ公民は、高校の社会科の基礎となるため、政治経済、地理、現代社会、日本史、世界史にもつながる基礎の一つになります。
覚えなければいけない用語や、数字が多く、また重要な年表もいくつもあります。加えて、社会の基本的なルールにふれる内容も多いため、普段の生活では意識することもないような司法制度や税制についても学びます。
知らないことをたくさん学ぶわけですから、難しいと感じる子どもたちも多いわけです。今日の教育コラムでは、歴史、地理、公民の3分野の内、特に人気のない公民という分野の学習について少しお話してみたいと思います。

覚えることよりも乗り越える術を

大前提として、これからの時代に必要とされる資質・能力を育成することが教育の重要な役割だということを述べておかなければいけません。
現在も含め、日本の教育では、「何を知っているか」を問う問題が多くの学校で評価の対象の大半を占めています。そのことの問題点に気が付いている学校では、「何ができるようになったのか」を問う問題、またはアクションにより評価を行うように転換してきています。
後者の覚える教育からの脱却を進めている学校は、覚えることに負担を感じない、または日頃から熱心に学んでいる生徒が多い学校に多く見られるわけですが、それはそれで問題です。
その理由は、知識を活用して「何ができるようになるか」が問われなければいけないのは普段の授業においても重要な視点であり、公民の本質的な学びは社会に生きる人間として公民的資質を身に付けることにあるためです。

覚えることを基礎学力に据えない

現行の学習指導要領において、中学校の公民的分野においても、高等学校の公民科においても重要なのは「見方や考え方」の育成です。見方考え方と言っても様々なテーマでその力や視点の多様性を養うことができます。
中学校では「対立と合意、公立と公正など」が、高等学校においては「幸福、正義、 公正など」が重要なテーマとなるでしょう。さらに、高等教育の現代社会では「生命、情報、環境など」も大切なテーマとなります。
テーマに基づきディベートをしてもよいでしょうし、プレゼンを互いに見合ってもよいでしょう。さらには同じ世代にこだわらず自分たちの考えを上の世代や下の世代と交流する様な場を創出してみてもいいでしょう。
また、他の国の学生との意見交換をオンラインで行うなど、語学の学習と合わせて国際的な視点からそうしたテーマを探究してもよいでしょう。今言ったような取り組みは、一部の中学・高等学校で行われている実践のごく一部です。

覚えることに追われすぎ

では、一般的な学校または、知識習得に重きを置いている学校ではどうでしょうか。子どもたちが考えるべきテーマについて、まとめられている教科書を読み、太く書かれた重要用語をワークを使って覚えていきます。語彙の獲得に力を入れた指導に多くの時間を割いています。
また、宿題でもそのような課題が山のように出てテストの範囲と言えばワークの用語やちょっとしてグラフの読み取りのような問題ばかりです。決まりきったロジックを文章問題と言ってもそれは、思考パターンや資料の意味しているごく一部分の暗唱とあまり変わりありません。

見方考え方を大切にすることで

一方、テーマを掘り下げるような学び方を重要視している学校では、調査や意見を導き出していく過程で、資料やデータを分析する際に様々な用語や事実に出会います。知識や事象を与えられて学ぶのではなく、出会うのです。この違いは大きいのです。覚えるものが並んでいるのではなく、学んでいく中で出会い、重要であると判断し、知っていくのです。
覚えることが重要ではないので、そうした用語はテストでは問われず与えられます。テストでは自分の考えやグループの取り組みを振り返るのです。そこから何を感じ、公民的な資質をどう高めることができたかを述べていくのです。このように授業と評価がつながっているため生徒は、公民を学ぶ上で何が大切かを十分に理解することができます。
そのため、子どもたちは学ぶ過程を大切にしますし、自分の言葉を大切にします。また、生徒自身がそのような学習の進め方では、一般的に覚えなければいけない重要用語の全てを暗記することは不可能だと知っています。

暗記して乗り越えられる課題はテストだけ

中学・高等学校の公民分野で生徒たちに考えてみてほしいテーマはたくさんあります。学習指導要領でも現代社会の山積する課題の中から、対象とする課題をいくつか提示しています。

①若者の貧困、②超少子高齢化、③東日本大震災、
④地方の衰退、⑤財政危機、⑥限りある資源、
⑦グローバリゼーション、⑧地域紛争、⑨ 持続可能な開発、
⑩生命倫理、⑪メディアリテラシー、 ⑫アイデンティティ

などがそうしたテーマです。これだけの解決が困難な問題について掘り下げていく学習を本気で進めていけば、見方考え方が育成できます。また、正義、平等、社会参画、幸福、 自由、効率、グローバリズム、多様性、持続可能性、 生命、公正、ナショナリズム、その他のキーワードを基にして探究活動を行えば、重要な用語にいくつも出会うでしょう。
用語や年表を覚えることに追われている生徒たちをみていると、評価のシステムや学習の進め方自体に大きな問題を感じざるを得ません。日本の未来を共創していく子どもたちに適切な公民の授業が行われることが重要ではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?