忍殺は現代の説話集だ

サイバーパンクニンジャ小説、ニンジャスレイヤーの紹介をします。

あらすじ:ネオン煌めく近未来都市ネオサイタマ、マルノウチ・スゴイタカイビルの惨劇。妻子をニンジャに殺されたサラリマン、フジキド・ケンジは自らも死の淵にあった時、謎のニンジャソウルが憑依し、ニンジャを殺すニンジャ、復讐者ニンジャスレイヤーとなる。

「ニンジャ……殺すべし!」

注釈
ニンジャ:人を超えた力を持つ半神的存在、その多くは邪悪な欲望に駆られている。基本的に、ニンジャソウルが人間に憑依することで生まれる。この世界では、(我々にとってのドラゴンやヴァンパイアと同様に)フィクションの産物として認識されている。故に、一般人がニンジャに接触すると、常識を破壊されたショックからNRS(ニンジャリアリティショック)を起こし、「アイエエ!!」と叫びしめやかに失禁、最悪の場合心停止し死に至る。

この小説のトンチキな側面(勘違いと誇張に塗れたNIPPON像)やサイバーパンク小説としての王道さ(ニューロマンサーやブレードランナーへの多大なるリスペクト&オマージュ)については、きっと既に多くの人が語っているから割愛するとして、私はこの小説の説話集的な側面に注目してプレゼンテーションしたい。

この小説のテーマにあるのは、ずばり、薄汚れた悪人のちっぽけな良心に対する小さく確かな報い、即ちインガオホー(因果応報)である。

重金属酸性雨降りしきる近未来都市ネオサイタマにおいて、違法ハッカーやヤクザ、薬物中毒、追い剥ぎはチャメシ・インシデント(日常茶飯事)である。

人気エピソード『アンエクスペクテッド・ゲスト』に登場する、カブセ・ソウヤマもその一人だ。スガモ刑務所に勤務する医者である彼は、違法物品の運び屋や医療用麻薬の横流しに手を染めている。刑務所がバイオニンジャに襲撃された際も、囚人の手当てに奔走する高潔な医者のフリをすることで証拠隠滅を計り、1億円を隠し持った囚人とともに脱獄を試みる。
そんな彼の最期に、私はニンジャスレイヤーの哲学を見出している。

「さらばだジェイク!君に感謝する!このクソ野郎は、三千万より、医者の名誉に目がくらんだ!」
「待っていろ!私が必要とされている!医者の出番だ!」

たくさんの負傷者に向き合う中で、彼は"医者の名誉に目がくら"み、脱出用ヘリを飛び降りる。その後、飛来した瓦礫が頭を打ち、彼は死亡するのだが、もはや彼をヤブ医者と軽視する人はいない。


カブセ医師のような、衝動的な善行に走る悪人は枚挙に暇がない(注釈1)。
サツバツとしたこの小説の中で、彼らが常に生還できるとは限らないが、その善行が裏目に出ることはない。私はこれを、
一時の気の迷いのような良心だとしても、躊躇わずに行動に移すべきだ。
どんな悪人でも、善行は報われる(べきだ/報われてほしい)。

……というメッセージだと解釈している。

あなたも含めて悪人でない人間はいない。
そのことを認めた上で、自分が正しいと思ったことをするべきだ。

おお、なんたるニンジャ哲学か!


余談
なけなしの良心に従う悪人は、無益な復讐に全てを捧げた主人公ニンジャスレイヤーとの対比にもなっている。ニンジャスレイヤーはイクサ(殺し合い)に負けることはないが、それによって心が満たされることはない。
実りある敗北と虚しい勝利。

彼のイクサはまだまだ続く。

#推薦図書 #ニンジャスレイヤー #忍殺 #弱くて悪い人のための祈り

(注釈1)パンクニンジャのスーサイドや、元ツジギリ犯罪者のシルバーカラス、アンダーガイオン(地下祇園)の探偵タカギ・ガンドー、ニチョーム(新宿二丁目)を監視するディクテイター……、エピソードを跨いて登場する有名どころだけでも実際多い。

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