どこかの町の高田

@dokokanotakada 詩が好きです。

どこかの町の高田

@dokokanotakada 詩が好きです。

マガジン

最近の記事

都美子と梨花

目に映る景色は、百億の名画にも勝るぜ。都美子はワンカップ片手にもう出来上がっています。梅雨に差し掛かるきらきら町の河川敷は、思うままの光をみせて、ほんとうに美しかったのです。 「なあ、魔法少女ちゃんもそう思うでしょ!? どんより雲も銀幕だと思えば美しいなあ!」 「やめてください、酔っ払い。私、こんなことに付き合ってる場合じゃないんですけど」 「ええ!? いいじゃんいいじゃん、世にも珍しい現代の巫女からのオサソイだよ?」 都美子は魔法少女梨花にウザがらみをしていました。

    • 批評絶頂感

      明らかな祈りせめて歌になるまで。美香は今日もオヒメサマごっこを続けている。授業で教科書を男子と共有している。美しいものは夢……、ならば生殖は悪? 俺は笹原っていうんだ、男で、大学生で、部活の所属はなし、そんでもって高校生の時に買ったレスポールを後生大事にもっている。尊敬するのは小林秀雄、池田晶子、懐疑しているのは若松英輔。俺は、あたらしい生存の倫理を探している。 明らかな祈りせめて歌になるまで。美香、俺はお前を批評してやろうと思ってるんだよ。お前の祈りや、前世に持っていた

      • 約束

        失った衛星を探して二十四年、私はどうやらキラワレ者らしい。ということだけが分かった。捨てられてばっかりの人生だ、サヨナラすら言わせてもらいなんてね。口が悪いこと、小手先で隠してたら皮肉屋になっちゃった! 馬鹿らし、虚しいなあ。 失った衛星を探して二十五年、失った衛星ってなに? 分からないものばかり追いかけてたらバカになっちゃうよ? (うつくしいという言葉を禁句にしようよ)どこかでカラスの群れが死んで、シャワーみたいに降ってくる。 言えない、言えないことばかりだから、いつか

        • 世音香

          しん、と静まった朝に 海は潮を寄せていた。 わたしの舞が永遠に連なると信じて おわらないうたの断片を歌おうと咽にちからを込めた。 (らー……) わたしは力が抜けてしまう。現世からかろやかにはなれ わたしは前世のともだちに会いに行こうとしている 腕をゆるやかに伸ばし、腕はひかれみちびかれ わたしはついにきれいに、はっきょうする。 しん、と静まった朝に 海は春を撫でていった。 わたしは快い感覚につつまれたと思ったら 急に涙があふれだしてしまう。 (これは

        マガジン

        • きらきら町のものがたり
          16本
        • 読書日記
          7本

        記事

          芹川と輝波

          輝波さん、俺は世界に子種を落とそうと思ってる。むろんあなたにも、風にも、木々にも、雨にも、雪にも、万葉集に描かれたすべての自然物にも。そして最後の一人に出会うまで、うつくしい女すべてに。俺はもうさみしくない、何編言ったってさびしくないんだ。本当だよ。 夏が来る。夏が来ると芹川は会いたくなる異性がいる。それはきらきら海浜公園の海だ。春の終わり頃の日に、始めて人気のない海に浸った。抱き寄せられて、射精のように気持ちよかった。それから輝波海とはずっと仲良しだった。春が終わるたびに

          笹原秀雄の現代批評

          言葉にならないくるしみが、笹原を覆いました。なぜ、俺は俺でしかないのか、なぜ、俺は俺の人生しか歩めないのか。笹原は不思議で仕方がなかったし、つよい憤りすら感じていたのです。 笹原は午前2時の人通りも車通りも少なくなった道路で踊る。ゆるやかに身体をひらき、まわし、ときに低く高く唄いました。(俺が、俺がひとつの舞となれば、俺がもはや個人というものから抜け出してしまえば、俺が、他人の心をこのからだにそそいでしまえば、俺はすこしはマシになれるだろ?) なれるだろうか、笹原は懐疑す

          笹原秀雄の現代批評

          ミシンの海遊び

          ぜんらで海にダイブ。私はあたらしい思想を待っている。桜流しの雨がふって、もう季節は動き始めているんだね。私はどこに行こうか。誰も傷つかない国へいこう。私は梨花のようなヒーローにはなれなかった。 海はわたしを抱いてくれるから好き。だいすき。わたしを殺してくれるから好き。わたしを生かしてくれるから、すき。潮が、しおが、し、お、が。わたしの血をゆるやかにかたむける。うつくしいものは汚いところからはじまる。遠くの方で雨。 私は生きていたいんだ。私は生きていたいんだ。私は・・・・・

          敵役の春

          敵役は変身もせずに、踏切を待っていた。 スーパーからの帰りで、家路に向かう途中の踏切だった。敵役こと岩下隆は、今日は暑い春の日だからと、そうめんとキムチと氷を買った。すべて混ぜて、食べるつもりだ。揖保乃糸は買えなかったからなんか似た変な名前のそうめんを買った。 まあ別に、ニセモノでも悪くないよな。ニセモノであることを誇れば。岩下隆は、考えていた。そして俺は一生敵役を抜け出せないだろうと、思った。カンカンカンカン・・・・・・。踏切が赤く唸る。敵役は、今までに自分を嫌った人た

          魔法少女梨花

          梨花は考えていました。この町を救うにはどうすればいいのかと。魔法のステッキが光っても、ビームが炸裂しても、根本的解決には程遠いと思ったからです。 空に浮く、ステッキをかざす。夕焼けのひかりがジュエルにあつまる。私は魔法少女、齢十四歳、大人びてしまった暴力で、だれを助けるの? 化物。街を襲撃する彼らは、一様に寂しい顔をしている。いたみを知った美しい顔だ。私はそれに値するうつくしい思想を持つか? 分からない。梨花は通報があってもしばらく放置しているときがある。五分ほど。 梨

          千年の芹川

          全部馬鹿らしい。あたらしいものはこれから始まるんだ。そう言って芹川はせせらわらった。歴史は人類の総意できまる、なんて傲慢だ、ぺっ。(あたらしい時代がはじまるときは、春の嵐のような轟音が鳴る、桜が、散る、ちる。いっそのこと俺がひとつの花となるような、そんな生き方を模索する、俺はひとつのダンスである) ああ、全部馬鹿らしい。あたらしい倫理がこれから俺の手のひらの中に育まれる。そう言って芹川はせせらわらった。そのしゅんかん、葉っぱの出はじめた桜の枝が風にさらわれて、花びらがカーテ

          前時代風

          「愛がすべて、すべては愛」そういいながら、歌いながら踊りながらわらいながら、青年はきれいに狂っていった。ほっそりした胸元には柘榴の刺青をして。 青年は自らの感性が、もはや時代には適合しないのだと知っていた。出会う女はみなうつくしかった、それがゆえにかなしかった。「滅びることのない倫理をさがしに行こう」彼はゆうれいのように河川敷を歩くことがあった、風がささやいていた。「遠くに行こう、とおくにいこう、わたしたちのしらないところへ」彼の横顔がひかった。 大通りを大手をふって、回

          きらきら国の美香

          わたしの前世はおひめさまでした。おとぎばなしのはじまりは、春の嵐のようなさっそうとした轟音が鳴る。うつくしいものをさがしに行こう、そういって馬に乗って駆けて行った昔の日はかすか。わたしはいまはどーしようもない女子大生です。 ひとを欺かないように生きようと思っても、それがとっても難しいということに気が付くのにそう時間はかかりませんでした。傷口をひらくようなとわず語り……わたしは毎夜、ブログを更新する。言ってしまえば王子さまを待っている。 わたしの前世はおひさまでした。おとぎ

          きらきら国の美香

          都美子の花見

          桜、桜、桜、夜の桜はやっぱりいいねえ、都美子はコンビニのシャケおにぎりをほおばりながら言いました。あとは酒だよな、酒。あとでワンカップ買うか。そう言いながら彼女はふらふらとあてもなく夜の河川敷を歩いていました。ライトアップはとってもきれいで、幽玄のようだったのです。 都美子はきらきら町ではめずらしい巫女でした。それゆえにどこかで舞おうと思っていたのですが、ふさわしい場所がなかったのです。「あーあ、時化てんねえ!」都美子は二十歳あたりから口が悪くなりました。うつくしいものは汚

          片恋

          三笠亮が自転車で空を駆ける。時速70キロメートル、うつくしくもない旅路。「揺らぐことのないものをさがしに行こう」果てしのない空には星が、星の中には過去にたちきえた意思が燃えていた。うわぁぁあああん、うわぁぁああぁぁあん。汽笛のように鳴るこの音は号哭だ。「うつくしいものをさがしに行こう」三笠はニッと意地悪く笑う。 さて、眼下には星々を散らしたような夜の街があります。あそこにいるのは巫女の都美子。今日も馬鹿みたいに花々を散らしているねえ。俺はどうしようか、時速500キロで突っ切

          春の日のえんどろーる

          寧音は春の川辺を歩いていました。うつくしいものは損なわれないものであると信じ、きずなが朽ち果てても、それはあらたなきずなの土壌となるのだと信じて。 寧音のまんまえから春のあらしが吹いてきて、彼女はなにかを思い出しそうなくらい喜びます。小さい頃いっしょにいた大型犬が抱きついてきたときみたいな、安心感を感じながら。 「あーあ、まるで馬鹿らしいことばっかじゃん! 私はもう二十四歳、これからゆるやかに老いていく、とかは言いたくないな、あたらしい言葉を探していたいな。 なんにせよ

          春の日のえんどろーる

          久美ちゃんの馬鹿騒ぎ

          久美ちゃんは知っていました。私は歴史に名を遺すだろうと。だって私は天才だし、要領いいし、おまけに酒もタバコもしていなかったのです。 久美ちゃんが声を発すると、葉波がざわざわと打ってくれるし、久美ちゃんが恋をすると、時鳥が太陽にむかって鳴くのでした。 それはそれとして、久美ちゃんは友だちがいませんでした。街の中を走れど、騒げど、大地が合わせて鳴動しようと、久美ちゃんを顧みるひとはいませんでした。 「まあええわ、ウチはそんな安っぽくないしな。せやけど、人類史の行く末はぐるぐ

          久美ちゃんの馬鹿騒ぎ