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きらきら国の美香

わたしの前世はおひめさまでした。おとぎばなしのはじまりは、春の嵐のようなさっそうとした轟音が鳴る。うつくしいものをさがしに行こう、そういって馬に乗って駆けて行った昔の日はかすか。わたしはいまはどーしようもない女子大生です。


ひとを欺かないように生きようと思っても、それがとっても難しいということに気が付くのにそう時間はかかりませんでした。傷口をひらくようなとわず語り……わたしは毎夜、ブログを更新する。言ってしまえば王子さまを待っている。


わたしの前世はおひさまでした。おとぎばなしのはじまりの街のこと、空を飛ぶ魚と大海をうかぶバカでかい合鴨……はあ。わたしの夢の源泉はそこから来ている。それがゆえに、現実の問題を直視できない。


ひかりの照るような、みずからがひかりとなるような、そんな生き方をしたかったけれど、やわらかな手足で踏破できるような道ではなかったことに気が付くのに、そう時間はかかりませんでした。心臓をひらくようなとわず語り……わたしは毎夜、電燈の下で踊る。ワルツもバレエも知らないから、ゆるやかに体をひらいて。


そのときです、美香のからだのなかを一陣の風がふきぬけます。美香の血がいっしんにかたむくと、彼女はひとつのうたをおもいだそうとしています。わたしの前世はおひめさま、またはあかるいおひさまでした。だからわたしは星々に憧れる、月に憧れる、あからさまな嘘ばっかりついて、ほんとうに人を殺すような嘘をつくことだけは回避したい。おとぎばなしのはじまりの街に、わたしはかならず帰ってこれる、そして「うつくしいものをさがしにいこう」そういって馬に乗って駆けていける。


それはわたしの未生以前からのやくそくです。さめない夢の中で生きているわたしが、現実の魔物に打ち勝つのはいつ? わたしはからだをひらいてはひらいて、毎夜予習と復習をくりかえす。いつかぜんぶダメになっちゃったら、それこそがわたしの出陣の時、わたしの前世はおひめさまでした。おとぎばなしのはじまりは、かならず春の嵐のような轟音が鳴ると決まっているんです。


美香のこころがある桜色の思いで満ちみちます。それを決意と言ったとしても、彼女は怒りはしなかったでしょう。彼女にとって明けなかった夜が、いま明けようとしています。彼女はあたらしい倫理を携えて、きらきら国をすくう旅に出ようとしています。彼女はもう、いかなる善も恐れないでしょう、行け、美香、鬨の声はもう鳴っている。朝日があなたをつつんでいる。

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