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片恋

三笠亮が自転車で空を駆ける。時速70キロメートル、うつくしくもない旅路。「揺らぐことのないものをさがしに行こう」果てしのない空には星が、星の中には過去にたちきえた意思が燃えていた。うわぁぁあああん、うわぁぁああぁぁあん。汽笛のように鳴るこの音は号哭だ。「うつくしいものをさがしに行こう」三笠はニッと意地悪く笑う。


さて、眼下には星々を散らしたような夜の街があります。あそこにいるのは巫女の都美子。今日も馬鹿みたいに花々を散らしているねえ。俺はどうしようか、時速500キロで突っ切って、揺らぐことのない新たな意思をさがしに行こう、仲間はいねえが、ポッケのなかの文庫本だけが並走者だ、行くぜカンパネルラ永遠に、悲しさの尽きない旅に出よう。


三笠亮が自転車で空を切る。時速600キロメートル、火花だけが三笠の思想の色だ。知ってるんだ俺は、俺は知ってるんだ。信じられるものは明日にでも終わる。明日には明日の思想が必要になる。探せ、探せよ馬鹿! ギラギラと輝く六等星を見ようぜ、そうでなけりゃあ旅人を照らす一等星になるまでよ。


寧音、お前を忘れた事なんかないさ、お前は人間としてあまりにも真っ当だったから、巫女にもならず春を告げ知らせるものとなった、そして川原を歩いていったまま二度と帰らなかった、というのは感傷に過ぎるが、俺はお前のことが好きだった、終わりのない旅路ばかり夢見て……馬鹿が、馬鹿がよ! 俺はお前を引き留めることが出来なかった。こんなこと思い出したのは他でもねえ、俺の胸の内からお前のロックンロールが流れ出したからだ。


行くぜ極楽、どこまでも! 前世紀の咽を掻っ切って! 俺は新しいオンガクを作り上げなくちゃなるめえ、俺は新しいオンガクをてめえに聴かせなきゃなるめえ、そんで感涙したお前は正しく家路に帰ってくる。そして新しいプロローグを見つけ出すことが出来る。俺はなにを言ってるんだ!? そもそも寧音はきらきら町の三番地に住んでるじゃないか。それじゃあ俺は・・・…、ああそうだ、俺は俺の道を行かねばなるめえ、カンパネルラ一人を並走者にして。石炭袋の真っ暗の暗に向かって、ひとりで。


行くぜ煉獄! どこまでも! 俺はあたらしい地獄の倫理をさがし出さなきゃなるめえ。足がいくら痛んだって、これだけはやめられねえ、三笠亮が自転車で空を賭ける、火花が散って流星みたいだ。しかし一直線に空へと昇っていく、これはあまりにもロックな喜劇だ、ああ俺は行かねばならねえ、あたらしい倫理をさがさにゃなるめえ、行くぜ天国! どこまでも! カンパネルラ、お前はこの火花についてこれるかい? 

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