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【ジブリ考察①】借りぐらしのアリエッティ

公開当初に鑑賞してから、久しぶりにアリエッティを観た。

初めて観たときは、神木隆之介くんが声優をつとめた翔の不気味な魅力に惹かれつつも、「怖い」と思う気持ちが強かった。
人間に見られて動揺するアリエッティに人間離れした冷静さで声をかける場面と「君たちは滅びゆく種族なんだ」とほほ笑んで言う場面が、高校生の私には理解できなかった。
美しい少年のサイコパスさ…がひどく印象に残った。

それから10年余り経ち、再度この映画を観て「腑に落ちた」と思うくらい翔のことが分かった気がした。

アリエッティと出会ったことで、翔は「生きる意志」を手に入れたのだ。

翔は「境」を生きている。

まず翔とはどんな人間なのか…。
体が弱く生死を左右する重要な手術を控えている。両親が離婚しており、手術前にも関わらず、母は仕事で海外出張に行っている。お金持ちの名家の生まれのようだ。
どんな物語にも言えることだけど、「境にいる」境遇の人間は特別だ。「大人と子供」物理的な境界である「川」や「トンネル」。そして、言わずもがな、「生と死」
翔は生と死の境界を生きている。
(大人びた性格であることも境を生きる彼らしい。)
死への恐怖は少なからずあったろうが、「生きたい」「手術が怖い」と感情的になることはない。
死、滅びゆくことをどこかで受け入れているように見える。
そんな境を生きる彼だからこそ、決して人間と交わってはいけない小人と心を通わせることができたのではないか。

アリエッティの生き続けたいという意志

対して物語のヒロインであるアリエッティにあるのは「生き続けること」への迷いのない強い意志である。
アリエッティは一貫して、健全に家族とともに生き続けることを願う。
そのために行動している。
借りを期待し、一人前になることにワクワクする。
母親の願いを叶え、さらに快適な生活を送ることに前向きだ。
自分たちと同じ種族に出会えた時には素直に喜ぶ。
小人の数は明らかに減っており、不安を覚える境遇であるのに、素直に生きることに希望を持っている。

だからこそアリエッティは翔の「君たちは滅びゆく種族なんだ」という言葉に、悲しみの涙を流す。
ただ、ここで大切なことは、翔は決してアリエッティを傷つけたくてその言葉を言ったわけではないということだ。
翔にとって滅びゆくことは世界の変化を受け入れることで、いたって自然なことだったのではないだろうか。
だからこそ、ああも残酷な言葉を自分が守りたいと思っている対象に言えたのだ。

そして、アリエッティの悲しみの涙を目の当たりにして初めて、翔は「生きたい」という生命の自然なままの美しさに触れることができたといえる。

君は僕の心臓の一部だ

この美しい愛の言葉に、涙が流れた。
アリエッティの生命力を目の当たりにして、翔は自分自身が生き続けることに前向きな気持ちを持てた。
心臓病に苦しみ、自身の死をも受け入れ、境を生きる少年が、生を強く望んだのだ。
だからこその、「心臓の一部」という表現がでてきたのだろう。

恋愛とは違う、愛について

アリエッティと翔は惹かれあっていた。違う人間だったから。
人は自分とは違うタイプの人間性に強く惹かれることがある。
(逆に落ち着くから、自分と似ている人を選ぶこともある。)
まさにアリエッティと翔はそれだったのかなと思った。
小人と人間。生への前向きさと死をも受け入れる強さ。活発さと静謐さ。
本人同士は理解していなくとも、二人は対照的であり、そこに惹かれあっていたように私は思う。
ただ、そこに「男と女」として惹かれあっていた要素は感じられなかった。
恋愛とは違うな・・・と思った。
そうであるならば、小人と人間の種別を越えた友情でいいじゃない?と言われそうだけど、それとはちょっと違う気がする。
同じ目的に向かって協力し合う友情、互いに尊重しあう友情。
そういうものではなく、あくまでも二人は異なる生き物として互いに惹かれあっていたのだ。
女の子として扱ってくれるあなた。
女性的魅力を感じるあなた。
男として支えたいと思うあなた。
パートナーとして一緒に生きていきたいあなた。
そういうものとは違うけれど、「強烈に相手を魅力的に感じる」そんな強い想いが二人の間に合ったように思った。

最後に…
翔の手術が成功したことを心から祈りつつ、
アリエッティとスピラーの関係を。

スピラー、とても良かった。
ワイルドで原始的で、不器用なのかな?と思ったけど、とても賢い。
アリエッティを守るために、翔に対して弓を引く場面では、翔とアリエッティの関係性を感覚的に瞬時に見抜いた。
そんな彼がエンドロールで、アリエッティに女の子として優しくしていた姿が印象的だった。
アリエッティが翔を見つめるような情熱的な瞳をしていないことも含めて。

異なる人と結ばれるのではなく、自分を理解してくれる共通点の多い心優しい人と共に生きていく人生はとても健全だ。
希望に満ちた終わり方だと感じた。


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