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逆噴射小説関連

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「ニンジャスレイヤー」で有名な創作翻訳チーム、ダイハードテイルズが営む賞や小説講座にまつわる記事をぶっこんだマガジン。ほぼ自分用。
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#ホラー

地の底の魔女 【「魔女のいた夏」前段】

地の底の魔女 【「魔女のいた夏」前段】

 ぼろぼろのランドセルを背に、少年は山道を歩く。

 林を抜け、藪を分け入って、トンネルの前まで来た。
 岩山を掘ったトンネルは長く、出口は豆粒のように遠い。
 少年は中に入った。
 夏の外気から一転、肌がひやりとした。

 少年は懐中電灯を出す。頼りない光が暗闇を照らした。
 じっとりした空間をしばらく行くと、あった。

 壁の途中に、木の扉。
 ドアノブもある。

 おととい、命令されて先頭を

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魔女のいた夏

魔女のいた夏

 少年は扉から出てきた。日射しが青白い顔を照らす。
「ケイゴ」少年の父親が駆け寄る。「よかった……ケガは?」
 少年は首を振る。
「他の子たちは?」
「み、みんな、階段の下で倒れて」

 大人たちは騒然となった。
 ガスか? 酸欠? まず救急車だ、電話を。

 岩山にへばりつく木の扉の奥。下へ伸びる階段から、教師が綱を引き上げている。さっき少年が必死に引いていた綱を。
 ここに扉などなかったはずと

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- 彼岸列車 -

- 彼岸列車 -

「すいません、あの」
 その声で目が覚めた。
 若い女が、私の顔を覗き込んでいる。
 背と尻に硬いクッションの感触、心地よい定期的な振動。あぁそうだ、俺は終電に乗ったんだと思い出す。ガラガラの車内に座り、そのまま眠ってしまったらしい。
 仕事終わりの深夜とは言え空いてるな、と座ったまでは覚えているのだが──。

 寝起きのぼんやりする頭を上げると、乗客が4人立っていた。
 若い女はワンピース姿で、

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彼岸列車

彼岸列車

「すいません、あの」
 その声で目が覚めた。若い女が、私の顔を覗き込んでいる。
 背と尻に硬いクッションの感触、心地よい定期的な振動。あぁそうだ、俺は終電に乗ったんだと思い出す。ガラガラの車内に座り、そのまま眠ってしまったらしい。

 寝起きのぼんやりする頭を上げると、乗客が四人立っていた。
 先の若い女にスーツの中年男、私服の青年、老婆が、身を寄せ合うようにしている。
 四人の顔には一様に不安げ

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放火除霊師 火我萌絵の事件簿

放火除霊師 火我萌絵の事件簿

「燃やしましょう」火我さんは言った。「この家は燃やした方がいい」
「何だと? 君は馬鹿か?」
 松下氏の叫びが奥座敷に響く。
「ここは重要文化財だぞ。『松下家旧邸宅』だ。明治建築の粋を結集させた、日本が誇る」
「どうでもいいですね。ここは燃やした方がいい。除霊を依頼したのは貴方ですよ」
「しかし火をつけるなど」
「火をつけるのではありません。燃やすのです。お焚き上げと同じです。水野君、準備を」

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