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逆噴射小説関連

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「ニンジャスレイヤー」で有名な創作翻訳チーム、ダイハードテイルズが営む賞や小説講座にまつわる記事をぶっこんだマガジン。ほぼ自分用。
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記事一覧

真夜中の檻

真夜中の檻

 小型の護送車が横転していた。
 夜の山道のど真ん中だ 。あやうく激突しかけた。私は車を降りた。ボロのコートではひどく寒い。
 ヘッドライトに照らされた車体に近づいていく。前方が潰れていた。砕けたガラスが靴の下で鳴る。

「止まれ」と声がした。
 車の陰から腕が伸びている。手には銃、テーザーガンと一目でわかった。
「抵抗するな。いいか」
 私はあぁ、と答えた。

 姿を現したのは、長い黒髪の青年だ

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聖女の囁き

聖女の囁き

 暗い路地に逃げ込んだ直後に追いついた。手首を握りひねり上げる。
「知らねぇよ!」男はわめいた。「あんたの女なんか見たこともねぇって!」
「マリア……本当にこいつもか?」 ジグは聞いた。
「そうよ」
 耳元で女の囁き声。
「こいつも、私を殺した連中のひとり」
「そうか」
「あんた、一人で何喋って」
「黙れ」
 髪を掴んで顔面を壁に叩きつける。二度。三度。四度。男は真っ赤になって地面にずり落ちた。

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にぎやかな葬儀【逆噴射小説プラクティス】

にぎやかな葬儀【逆噴射小説プラクティス】

 公園のベンチで本を読んでいると、汚れたTシャツ姿のオッサンがそばにドカッ、と腰を下ろした。

「ふぅ~っ、暑いね!」

 言いながら自分の横にトロフィーを置いた。木製の台座が血まみれだった。銀のプレートには「優勝!」の3文字。台座から屹立している金色の胸像の顔は、オッサン本人だった。

 俺は文庫本をそっ、と閉じて、「暑いですね」と返した。
 平日昼の公園、誰もいない。俺とオッサンのふたりきり。

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地の底の魔女 【「魔女のいた夏」前段】

地の底の魔女 【「魔女のいた夏」前段】

 ぼろぼろのランドセルを背に、少年は山道を歩く。

 林を抜け、藪を分け入って、トンネルの前まで来た。
 岩山を掘ったトンネルは長く、出口は豆粒のように遠い。
 少年は中に入った。
 夏の外気から一転、肌がひやりとした。

 少年は懐中電灯を出す。頼りない光が暗闇を照らした。
 じっとりした空間をしばらく行くと、あった。

 壁の途中に、木の扉。
 ドアノブもある。

 おととい、命令されて先頭を

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女神の疾走

女神の疾走

 オフィスの床、倒れてうめく男たちと白い粉のパケ。
 窓際で詰め寄られたラッキー・ジムが震えている。
「れ、令状もなしに、警官が、こんな……」
「うるさいバカ」
 ミアはジムを蹴った。
 後ろの窓が割れる。ドサッと音がした。
 通行人の悲鳴。

 彼女はふぅ、と息をついてから俺を見た。
「終わりまひた!」
 黒縁メガネの奥の顔は真っ赤だ。
 右手に俺の銃、左手にはウイスキーの瓶。

「あ、あぁ。そ

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魔女のいた夏

魔女のいた夏

 少年は扉から出てきた。日射しが青白い顔を照らす。
「ケイゴ」少年の父親が駆け寄る。「よかった……ケガは?」
 少年は首を振る。
「他の子たちは?」
「み、みんな、階段の下で倒れて」

 大人たちは騒然となった。
 ガスか? 酸欠? まず救急車だ、電話を。

 岩山にへばりつく木の扉の奥。下へ伸びる階段から、教師が綱を引き上げている。さっき少年が必死に引いていた綱を。
 ここに扉などなかったはずと

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【イベントニュース】小説冒頭800字コンテスト「逆噴射小説大賞2022」、はじまるよ!

【イベントニュース】小説冒頭800字コンテスト「逆噴射小説大賞2022」、はじまるよ!

「逆噴射小説大賞」、それは「小説の冒頭800字の面白さ」だけで競う、前代未聞の小説賞です。
 主催は『ニンジャスレイヤー』等でおなじみの創作・翻訳チーム「ダイハードテイルズ」、メイン審査員は特異な文体で有名なコラムニスト、逆噴射総一郎先生。『トップガン マーヴェリック』のホットな感想を書いたあの人です。

 今年で5回目を数える本賞の特色は、何といってもその「参加しやすさ」です。

 noteにア

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かつて獣のいた街 ー 02 逆噴射小説大賞2021・決定記念作

かつて獣のいた街 ー 02 逆噴射小説大賞2021・決定記念作

【前】



「逃げた。ははぁ、逃げましたか」
 電話の向こうの声は落ち着いていた。

 伊野はその調子に苛立ちを覚えた。脇の会議室に入る。この時間は無人だ。
 外付け無線、新澁谷駅の全回線に「全員待機! いたずらに刺激するな!」と短く言う。
 そんなことは言わずとも、薄給の警察官たちは危険人物に立ち向かったりはしない。念を押した形だった。
 携帯電話を持ち直し、詰め寄るように言っ

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- 彼岸列車 -

- 彼岸列車 -

「すいません、あの」
 その声で目が覚めた。
 若い女が、私の顔を覗き込んでいる。
 背と尻に硬いクッションの感触、心地よい定期的な振動。あぁそうだ、俺は終電に乗ったんだと思い出す。ガラガラの車内に座り、そのまま眠ってしまったらしい。
 仕事終わりの深夜とは言え空いてるな、と座ったまでは覚えているのだが──。

 寝起きのぼんやりする頭を上げると、乗客が4人立っていた。
 若い女はワンピース姿で、

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【お祭り】逆噴射小説大賞2021 ゾウ印ピックアップ

【お祭り】逆噴射小説大賞2021 ゾウ印ピックアップ

 こんにちは。ゾウさんだよ。
 混沌と疲弊、いまだ先行きの見えぬ今年も、お祭りの季節がやってきたよ。

【逆噴射小説大賞】



 ノージャンル。
 ノーボーダー。
 ワンルール。
「小説の冒頭800字だけで『続きを読みたくさせたら優勝』!」

 何でもアリのスタートダッシュ小説祭りは2021年10月31日までやってます。つまりあと2日あります。皆さん進捗どうですか? 「はじめて知

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母なき軍隊

母なき軍隊

 敵国との休戦協定が結ばれたその日、俺たち兵士の家族が武装して基地に攻めてきた。

 俺が隠れた小屋の外、中年女が無線で仲間を呼ぶ。あれも誰かの親類だろう。小銃を下げているが全くの普段着だ。

 最初は困惑だけがあった。「迎えに来たのか?」と言う奴までいた。向こうが撃ってきたあとは無茶苦茶になった。当然だ。父や姉、弟や叔母……親族が揃って俺たちを殺しに来たのだから。

 応戦する者や逃げる者もいた

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銃声は囁く 【逆噴射小説大賞2021 没作品】

銃声は囁く 【逆噴射小説大賞2021 没作品】

 私は銃だ。モデルガンを基礎にした改造拳銃だ。殺傷力は本物の銃と同等。なにせ生まれてすぐに生みの親を撃ち殺したくらいだから。

 かちり、と撃鉄が起こされた時に私の目が開いた。みすぼらしい老爺が座卓に肘をついて私を握っていた。下に部品の山、腹に弾丸が5発、この老人が私の生みの親だ。
「こんにちは」と私は言った。さぁご老体、何を撃つのです?
 
 しかし我が創造主は「創造」で一旦満足したようだった。

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二進法の亡霊 【逆噴射小説大賞2021・没作品】

二進法の亡霊 【逆噴射小説大賞2021・没作品】

 山小屋の戸を蹴り開け、「動くな!」と叫んだ。
 思った通り、小屋の管理人がスマートフォンをニコライに渡そうとしていた。俺は銃を構え直す。
「その男に、スマホを触らせないでくれ」
「お早いお着きで」ニコライは俺の方に首を向ける。「ずいぶんお疲れのようだね?」
 返事の代わりに、差し出されたままのスマホを撃ち抜いた。
 ひっ、と管理人が逃げて隅で身を縮める。ニコライはおや残念、と言い腕を下ろした。

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かつて獣のいた街

かつて獣のいた街

 ひっくり返った車から這い出てきた男は血まみれだった。
 男は道路の真ん中でゆっくりと立ち上がる。身の丈は2メートル近くある。夜の街の中空に躍る立体広告が、男の巨体に緑や紫や桃色を投げかけた。

 車から煙が上がっている。歩道には既に人だかり、写真を撮る者に配信を始める者。「え~今、新澁谷の駅前です! 車が暴走して! マジで大変です!」
 冬。野次馬たちが厚く着込んでいるのに男は半袖にジーンズ。長

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