見出し画像

【お祭り】逆噴射小説大賞2021 ゾウ印ピックアップ

 こんにちは。ゾウさんだよ。
 混沌と疲弊、いまだ先行きの見えぬ今年も、お祭りの季節がやってきたよ。


【逆噴射小説大賞】


 ノージャンル。
 ノーボーダー。
 ワンルール。
「小説の冒頭800字だけで『続きを読みたくさせたら優勝』!」

 何でもアリのスタートダッシュ小説祭りは2021年10月31日までやってます。つまりあと2日あります。皆さん進捗どうですか? 「はじめて知った」という人は、参加してみませんか?


 さてそんなわけで毎年やっている「ドントさんが選ぶ逆噴射小説大賞ピックアップ」、今年もやっていきます。順序にあまり意味はありません。
 この文章は29日のお昼~夕方に書いております。たぶん全投稿作に目を通してる、はず。29日夕方以降に投稿されたやつに関しては、ゴメンやで。

 …………なお私の応募作+没作品2つのライナーノーツは11月に書く予定なので、書き上がったらみんな読んでね!


◆◆◆本編◆◆◆


 今回の応募作(29日現在まで)で唯一「手が勝手に♥️を押していた」作品であり、これはマジですごい。
 この方は一本後の【月面のさびれたコンビニに幽霊が出るやつ】も抜群に面白いのだけど、自分はこちらを選んでみた。
 とにかく「雑に生きている感じの人々」の解像度と描写力がハンパではなく、ダメさ危険さと同時に妙な愛嬌もにじんでいるあたりに著者の確かな実力が感じられる。
 この内容に反してホンワカゆるやか文体も魅力的で、この投稿作は誤字やが表記揺れがある気がしないでもないもののそのあたりも「真の男」感があり、細かいところを押しのけるパワーに満ちみちている。
 前述の月面コンビニと並んで、今年の「なんかやべぇ人来ちゃったぞ」枠。これは一等賞であろう。
 なお昨年の応募作、「顔面が3つある女子」や「宇宙船でチンチラがカイカイなさい!と命令してくるやつ」もかなりキているのでオススメだ。


 ファンタジックな香りと「強いババァ」がお家芸の著者が、日本を舞台に、渋く硬く、「少し強そうなジジィ」を主役にグッと押し出してきた。かっこいい。
 書き出しからして素晴らしく、一文一文が丁寧に積まれており隙がない。良質なノワールか犯罪小説を思わせる暗さと重み、リアリズムの中に元警官の老人がしっかりと立っている。
 この老人、目端が効きしっかりしているもののいわゆる「超つよいキャラ」ではなさそうだし、人が消えた(?)背景と犯罪者らしき怪しい奴らも剣呑で、常に微妙な危うさを孕んでいる。
 冬場の寒々しい曇り空のようなトーンが印象的な作で、このままじっくりと続きが読みたい。つまりもうナンバーワンといってよいのではなかろうか。



「強い年寄り」つながりでこちらも選んだのだった。しかもスーパーつよく、さらに「ボケてたと思ったら覚醒する」なので美味さが詰まっている。『鬼ゴロシ』『サユリ』のごとく鉄板のネタである。
 ここにゴリッと民俗学的なネタが語られたと思ったら物語がガシャガシャ動き走りはじめてあとはあれよあれよ。ワクワクもんだ。
 じとつく雨の空気に現れるやべぇ奴らの質感も素晴らしい。
 さらにエンカウント直後の一撃目、得物が傘というのもイカすではありませんか。ホームセンターアクション的な。身近にあるもので倒すというのはそれだけでよさが生じる。そんなわけで、2021はこれが大勝利ですね。

 
 


 人生を変えてしまう運命の出会い……。ガール・ミーツ・ハンマー物語。ホムセンにありそうな普通の金槌を持つ→「あっ、いい感じだ」→撲殺。この軽さ、命の軽さ。やったね。
 少女がアホなのか、ハンマーが実は魔性のものなのか、あるいは本当に運命の出会いなのか。このへんのわからなさ、綱渡り感がたまらなく楽しい。引きずられ翻弄されている気持ちよさがある。青春物語とも読める。
 即座にこんなところにカチコミに行ってしまうあたりただのアホのようにも思えるし(その場合もう1000文字くらいで終わりそう)、あれよあれよで国会議事堂まで達しそう(10万字)な気もする。
 どっちに転んでも納得できそうな内容だけれども、どちらにしても「続きが読みたい」に変わりはなく、すなわち本年度はこれが一番、ということになる。



「お前は何を言っているんだ」みたいな冒頭である。パンが米に成り代わり……パン至上主義……米が迫害され……米レジスタンスが立ち上がり……だが小説は、あらすじではない。
 この漢字の多さ、文章の硬さ、何より筆者の「ありましたよね、こういうこと」とでも言いたげなごく真面目な顔つきの筆運びによってずるずるとこの世界に引きこまれる。
 文章の説得力とはかくなるものか、と舌を巻くばかり。翻弄される気持ちよさ。奇想を描くに奇手なし、文章の地力がモノを言うことを教えてくれる。今年はこれが優勝ということでよいのではなかろうか。
 なお河出書房新社『パンと昭和』では、
「日本にパンが供されるようになったのは、GHQを介して米国が余った小麦を押しつけたからなのじゃあ~」
 という「へぇほんとうかい!」(by平山夢明) みたいな説が開陳されていることを付言しておく。



 ホラーというのは簡単そうでいて難しい。簡単というのはある程度「ツール」が決まっているためだ。場所や道具……トイレとか……階段とか……箱とか村……謎の老婆とか廃墟とか……。
 逆に言うならそこから強い怖さ・脅威を生み出すとなると、必然、筆力がためされてくることとなる。これがホラーの「難しさ」と言える。一歩間違うと月並みな代物になっちゃうのだ。
 電楽サロンさんが選んだのは「お面」で、これもまた怖いツールのひとつ。
 前記の難しさと共に、逆噴射小説大賞となるとどうしても「前のめりなスタート」が要求されてくる。
 その高いハードルを、衒学的な内容と共に硬質で真面目な文章で武装して越えてきた。とろりとしてサスペンスフルで、不気味さも色濃い。結果かなり味の濃い800文字となっていてこれはイケている。はよう続きが読みたいと感じるので、これが王者となるのではないか、と思う。


 昨年「ルースター・マン」で審査員たちと参加者たちを酩酊させた(プロの作家に「な、なんだこれは……」と言わせるのは相当のものである)著者が今年も来た。どれも相当に強烈だけれど、私はこれを選んだ。
 カメムシに生まれ変わったらしい主人公……だがこいつは本物の男なので「うわっカメムシになってる~!」とか言わない。状況があり、アクションがあり、状況が発生する。簡素にそれらだけが並んで異様に面白い。なんだこれは……
 アイデアまでならまだ手が届きそうだけど、一体何を喰ってたらこういう文章・文体で書けるのかわからない。さらにカメムシ側ではなく老婆側にも仕掛けが。凄い。
 なお著者は今年、鈴虫・カメムシ・サワガニでエントリーしてきている。勘弁してくださいよ! 強すぎますよ!! チャンピオンですよ!!



 何を隠そう私はSFやファンタジーが苦手分野である。小説も映画もあまり知らない。深い理由はない。なんでだろうな。前世の因縁かな。
 逆に言うならば、そんな私に「オオッ」と言わせるということはこれは相当にグレイトな代物ということになる。
 例えば「精霊少女がサンダーライフルを撃ってくるやつ」や「ドラゴンが超かっこよく吼えてこっちもウォーッってなるやつ」も相当によかったけれど、本記事ではこちらをピックアップした。
 美しくも危険な雪景色の中、「人が燃えて死んだ」と来てからの、「しかし人数は減っていない……」というミステリ要素に惹かれたからだ。
 この内容が、ひとにぎりの情感を入れながら簡素に乾いて描かれている。このあたりの感性もまたよい。好き。
 死んでいないはずのメンバーすらも防護服で顔が覆われており疑心に拍車をかける。これはどうなるのか?? パット・マガー風の変化球ミステリとSFの幸福な出会いとして読んだ。これはもう大賞ということになりましょう。


 電波がゆんゆんとしており、語られていることのどこまでが本当か、どういう世界観であるのかすら茫漠としてゆんゆんとしている。
 しかし閉じたショッピングモール、ヘリの残骸、夜の不穏などの提出によってやんわりと、悪くなった世界の輪郭がおぼろげに見えてくる。
 その中で確固として出現するアイドル「モネ」、彼女は機械仕掛けの女神か電気の悪霊か。いやはや、どんどん読ませるというのに先を読ませない。
 広義のSFなのかもしれないけれどどう転ぶのかわからない。こういうのが現れるのでこの賞は楽しいのであります。今年の最優秀賞に決定でしょう。


【番外編】


「今年は……いいかな……」と思っていたらしい常連のお望月さん、結局三本投下してきた。
 この方の作品は「現実世界のロケーションをベースに、若干ヘンテコながらシリアスな事象が起きる」が多く、実にこの、独特の味わい、センスの光るものが多い。
 この一発目も同様で、比較的まっとうに読めていた流れの末にいきなり腕を捕まれてギュン! と妙な場所に引き込まれる。この流れで「ドン・キホーテ」と出てくるのがかなり脳にクるものがある。
 地名の頻出するタイプの娯楽小説にパルプテイストを接続したようなワン&オンリーの存在感を放っていて、心地よく脳を揺さぶってくる。


 これは応募作ではないけれど、現世の天狗ことハクソーズさんによる小説推敲ノウハウ、いろはの「ろ」あたりの記事。タメニナル。
 ちょっと小説とか書いてみたいな……とちらりと思ったことのある人なら、よっしゃとばかりに冒頭800字ならガーッ、ワーッ、ビャーッと勢いで書ける、はず。
 で、そっから己の書いたモノがちゃんとしているか? どう直したらいいのか? よりよくするには? そのへんのことがパパッと端的にまとめられていて、とてもタメニナル。
 金土日に応募作を書いて、これを読んでちょいと直して、応募して、優勝、ということも夢ではない…………


 今年の怒られ枠。みんなも読みましょう。突っ込んだらあなたの負けです。





 そんなわけで私のピックアップはこれまで。えっと何本選んだの? 8本くらい? 
 繰り返しになりますが、これは29日の15時43分(時計を見た)に書いているので、それ以降に投稿された作品は取り上げられていません。
 今年は応募上限が3作と減ったためか、ギリギリまで粘っている人が多い模様。なので今夜~最終日までも何が飛び出すか全く気の抜けないレースとなっております。
 投稿が多ければ多いほど、新規参加者が増えれば増えるほど多種多様で面白味がマシマシになるこの「逆噴射小説大賞」
「わぁ、なんか面白ぇことやってんな」
「冒頭だけでいいなら送ろうかな」
「スキがいっぱいついてチヤホヤされたいぜ」
「ビールをタダでくれるの!?」
「ドリトス食べたいな……」
 などとチラリとでも思った人、いかがですか?


 応募締め切りまで残り2日くらい。
 土曜日に1時間で書いて日曜日に30分推敲すれば余裕という計算です。
 皆々様、ふるってご参加ください。



【おわり】
【逆噴射小説大賞2021ライナーノーツにつづく】

この記事が参加している募集

note感想文

サポートをしていただくと、ゾウのごはんがすこし増えます。