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ヴィーガン・ベジタリアンの人権——アンケート調査結果① 悩みごと&トラブル編 【ゲスト:ASー動物と倫理と哲学のメディア】

動物問題連続座談会第5回目。これまでさまざまな問題や運動の様子をみてきましたが、運動をやる上で、活動家のバーンアウト(燃え尽き)というものが大きな障害になっているということも見えて来ました。ヴィーガン・ベジタリアンは今の日本社会では超マイノリティ。その人権を向上させるということも、動物の運動を促進する上で重要なのではないか。それと同時に、ベジタリアンやヴィーガンに興味を持ちながらも実現できていない人が、どこでつまずいてるのかのポイントを探り、今の社会のどこを改善したらヴィーガン・フレンドリーな社会へ変えられるかを考えていくために、事前にアンケートを実施し、その結果を見ながら議論を深めました。

*参加者(敬称略)
【ゲスト:ASー動物と倫理と哲学のメディア】

黒瀬陽 1999、大阪生まれ。高校まで堺で育ち、大学から京都で共同生活を試行したり錯誤したり。現在は大学院で動物倫理とフェミニズムの思想史を研究中。
「人と動物、より豊かに関わる社会へ」をビジョンに、ユース団体AS=動物と倫理と哲学のメディアをつくる。その他、環境・政治活動もほどほどに楽しみつつ仲間探しを続ける。
櫻井結里実 大学生の時にAS-動物と倫理と哲学のメディアに参画。現在は一般企業で働きながら、ASで動物倫理を学びベジタリアンを実践している。

【レギュラーメンバー】
司会:深沢レナ(大学のハラスメントを看過しない会代表、詩人、ヴィーガン)
生田武志(野宿者ネットワーク代表、文芸評論家、フレキシタリアン)
栗田隆子(フェミニスト、文筆家、「働く女性の全国センター」元代表、ノン・ヴィーガン)



ゲストは「ASー動物と倫理と哲学のメディア」です


——今日はベジタリアン、ヴィーガンの人権というテーマでお話していきます。ゲストは「ASー動物と倫理と哲学のメディア」から、黒瀬陽さんと櫻井結里実さんにお越しいただいてます。
 
では早速ゲストの方にお話を伺っていきたいんですけども、黒瀬さん・櫻井さん、ヴィーガンになった理由や、動物の問題に関心を持つようになったきっかけなどがあったら教えてください。

黒瀬 僕はヴィーガンになって4年位ですが、もともと子供の頃から、「肉を食べるということは動物を殺してるんだよなぁ」と感じていました。豚も牛も、具体的に足があって手があって呼吸をしていて、自分たちとそんなに変わらない存在なのに、それを殺してバラバラにしてこうやって並べてるんだよな、という漠然とした不安がありました。そういう不安をずっと持ち続けていたけど、周りに別にベジタリアンやヴィーガンがいたわけではないから僕も肉を食べていて、でもふとその事実を思い返して怖くなったりしていました。

大学に入ってから、ようやく「動物倫理」という学問があるということや、今ベジタリアン・ヴィーガンが世界で増えていて、「動物にも人間と同じような権利をある程度認めるべき」という考え方が少しずつ広まっているという事を知り、自分がずっと考えていたことに答えを与えてくれるかもしれない、と自分で学び始めて、少しずつ肉を食べるのを減らしていきました。そのときに大学の食堂でベジタリアン・ヴィーガンメニューが少なかったので生協の食堂に連絡を取っているうちに、これは1人では難しいからグループ作ろうと思って、「ASー動物の倫理と哲学のメディア」という団体を作り、みんなで勉強をしたり、ヴィーガン・ベジタリアンの悩みを共有したりしています。

櫻井 わたしが影響を受けた直接のきっかけは、ASに入るときに『ドミニオン』を見て衝撃を受けたことです。(工場畜産のことは)薄々自分も知っていたことだったはずなのですが、リアルに一つ一つの動物が死んでいく姿を見たときに、自分も何か変えないといけないなと感じてベジタリアンになりました。今でも肉だけを避けているので一番ライトな形のベジタリアンだと思うのですが、それを4年くらい続けています。昔から動物が好きだというのもありますし、サンディエゴというアメリカの西海岸の南の方に留学に行った際にベジタリアンとヴィーガンの存在を知って興味を持っていたので、ちょうどサークルに入るタイミングでベジタリアンの生活を実践しはじめました。



アンケート調査結果——ヴィーガン・ベジタリアンになったきっかけ


——今回は事前にアンケート調査を行い、100人近くの方にお答えいただきました。ご協力いただいた方ありがとうございました。アンケート結果をざっと見ていきます。

ヴィーガン・ベジタリアンの方の回答のうち、ヴィーガンの方は65%でした。

なったきっかけでいうと圧倒的に「動物の苦しみや搾取に加担したくないから」という声が多かったです。でも環境問題や健康意識からはじめたという人でも既に3年〜10年以上続けているという方が複数いました。

「動物の苦しみを搾取に加担したくないから」と回答された方の中では、畜産などの食用動物の問題を最初に知ったという方が一番多かったです。

どうやって知ったかという媒体については、ネットがダントツ1位でした。その次に多かったのが周りの人の影響で、その次は本や映画でした。テレビや新聞、教育は少なめでした。

一方、ベジタリアン・ヴィーガンに興味のある方の向けのアンケート結果だと、ヴィーガンになりたいと思っている方も多かったけれども、ヴィーガンになるためにまずはベジタリアンになりたいと思ってる方が一番多かったです。

興味を持ったきっかけは、こちらも「動物の苦しみや搾取」が一番多く、その中でも同じく、畜産など食用動物の問題が一番多かったです。

知った媒体も同様に、SNSやネットが1位で、次は周囲の影響でした。

目指して実践中の方は約30%で、なかなか難しいと感じている方が半数以上でした。

その目標達成を阻んでいる原因は人間関係が1番多く、経済的な理由が2位、仕事の関係上が3位でした。



ヴィーガン・ベジタリアンの悩みごと


実際にヴィーガンベジタリアンはどのような人間関係で悩んでるかを詳しく見ていきます。

 まず周囲に公表してるかどうかは、完全に 公表しているか、一部には公表している方が多数でした。ほとんどの人には隠しているという方も一定数いました。

家族・友人関係で困るという人は65%。

具体例で言うと、「人間関係がこじれる」という声が多かったです。食事に誘われる頻度が減る、人と疎遠になったり疲れる、理解してもらえない、伝わらない、中には肉を勧められたりいじられたりする、という方もいました。

実際に関係が悪くなってパートナーや友人と別れてしまった方もいました。

特にひどいなと思ったのは、ヴィーガンの家に来た人が、レンジで勝手に鶏を温めて骨を残していっちゃったり、焼き鳥を買ってくるようにお願いされたり、ヴィーガンだということをわかっていながらヴィーガンのお菓子を持ってこられてヘラヘラされる、ということもあったみたいです。

これはあるあるのシチュエーションだと思いますが、「気持ちの問題だ」と矮小化されたり、嫌味を言われたり、「ヴィーガンの食べるものは本物じゃない」かのように言われたり、善意で作ってもらったものに動物性のものが入ってたり、ということがありました

場面別で言うと、特に融通が利かない「冠婚葬祭」が多かったです。

日常でも、もらい物や外食が困りがちで、いつも会食のお店をヴィーガンの方が調べて予約しなくちゃいけなくなる、というような問題もありました。

「気を遣わしてしまうのが申し訳なくなる」と答えていた方もいて、「自分がベジタリアンであることを表明することで、屠殺の仕事をしている人たちに対して非難してると思われないか悩むことがある」というような意見もありました。


職場・学校・その他の場所


また、職場や学校、他の場で困ることありますか、という質問には、「はい」の方が60%超えでした。

具体例としては、例えば、会食が難しくて仕事の繋がりやチャンスを逃したかもしれない、ということもあったり、仕事だとプライベートよりももっと気融が利かない傾向にありました。

仕事の人間関係にも影響があって、付き合いにくい人と思われたり、一線引かれてしまったりすることもあり、

そういうことから動物性の食品を無理して受け取ったり、無理して食べて具合が悪くなったという方もいました。

大学や学校でも同じように、「学食にメニューがあんまりない」という声がありました。 

その他のシチュエーションだと、病院やホテルがありました。ホテルの場合は羽毛の布団を使っている、という問題もありました。


「困ること」第1位・・・外食の選択肢が少なすぎ!


——日常生活で困ること不便なこととして挙げられた中で、ダントツで多かった声は、外食食品の選択肢が少ないということでしたね。

特に田舎や旅先だとその傾向は強まっています。

そういう事情から、外に出ること自体が億劫になってしまうという人もいました。

あとは、やっぱり「値段が高い」という声も一定数ありました。



我々が身につけたライフハック


——ゲストのお2人は、日常や学校、仕事先などで困ることはありますか?

黒瀬 そうですね。基本的には困りますね。困ることに慣れてしまった。肉を食べるということが日常に埋め込まれてしまっているというか、当たり前すぎるんですよね。息をするように肉を食べているというか、スーパーに行ってもコンビニ行っても肉が普通に置いてあるし、みんな別に何も思わない。肉が入ってるもの、あるいは肉そのものを食べるということも、ブロッコリーを食べるのと同じ感覚でみんな食べているから、世界観が違うというレベルで疎外感を覚えちゃいますよね。
 今も辛くないわけではないけど、最初僕はそのすれ違いに心身をすり減らしていたような気がします。でも、いろいろコミュニケーションを重ねたり、失敗を重ねたりするなかで、友達を誘うときはできるだけヴィーガン・ベジタリアンのお店を先に自分から提案したり、人間関係の早い段階で言っておいたり、重要な関係になりそうな、あるいは今既に重要な関係になってる人には、できるだけお互いが落ち着いたタイミングでゆっくり時間をとって伝えてみるとか、そういう感じで工夫してますね。そういう工夫に慣れてしまったからか最近はだいぶストレスなくやれている気はします。

——黒瀬さんはみんなに公表してます?

黒瀬 うん。“I’m vegan”って言ってます。

——櫻井さんはどうですか?

櫻井 私は肉だけ食べないというベジタリアンなので、食事に誘われて飲食店探しをしているときは、それとなくちょっと様子を伺いつつ、今日は焼肉屋に連れて行かれそうだな、と気づいたら、「私ちょっと肉食べられないんです」と切り出して、そうしたら割とみんな「そうなんだ」「違うとこ探そうよ」と考えてくれていると思います。わたしは今社会人3年目ですが、小さめの会社に入ったこともあって、周りは割と理解をしてくれる環境ではあります。

——いいですね。生田さんは公表されてます?

生田 はい。フレキシタリアンということは本(『いのちへの礼儀』)で書いているし、友たぢ関係にはもう「基本的に肉食えないんで」と言っちゃってます。するとみんな「そうなんだ」という感じで、いちゃもんつけてきた人はいないです。ただ、厄介なのは近所の人とかですね。たまにご近所さんが、「これ持ってきましたからどうぞ」と肉まん持ってきたりすると、さすがに断りにくいことがあります。
あと、人間関係以外でよく感じるんですが、例えば豆乳ヨーグルトが高いんですよ。牛乳のヨーグルトは近所でどこでも売っていて安いんですが、豆乳ヨーグルトはおそらく規模の問題で値段が高いし、そもそもうちの近所のスーパーは豆乳ヨーグルトを置いてないんです。なので、自転車に乗って買いに行かないといけないし、行っても下手すると牛乳のヨーグルトより2倍ぐらい高いんですね。そうするとかなりめげます。自転車で遠いところに行って安めの物を買う感じになってしまいますね。その元気がないときは、あきらめて牛乳のヨーグルトを買うことがあります。

——わたしはヴィーガンなりたてのとき、友達にあからさまに嫌がられて、しゃぶしゃぶ屋に連れていかれたことがありました。

黒瀬 それはきついですね。

——ひどい奴らですよね。

黒瀬 僕の場合はもう割り切っちゃって、「こういうやつだったんだな」と早めに切っちゃっても、もうしゃあないかな。他の場面で優しい人だったりすることはもちろんあるんですけど、自分が大事にしてるところで合わないなら、無理に関係を続けたり、深めたりはしない、と割り切ってストレスを和らげてますね。

僕は数ヶ月ぐらい前から接待系のバイトをやってるんですけど、仕事の中ではむしろ言いづらいです。言うタイミングがあったら、「肉食べれない」とか「ミルク・卵はちょっと・・・」とは言うんですけど、食べないということは言えても、「動物が・・・」みたいに(踏み込んだ)ことは、接待系の相手を気分よくさせる仕事なので言いづらいです。

あと外食で本当にオプションがないときがあるんですよね。この前、政治系のグループで福島の原発の復興地を見に行ったんですけど、そのときに全然オプションがなくて、卵・ミルクが入っていそうなものを仕方なく食べました。そういうどうしようもないときはありますね。

生田 僕は、山王こどもセンター(釜ヶ崎キリスト教協友会)というところでバイトしてたんですけど、そこでキャンプがあったんですよ。そこに行ったヴィーガンの人がいたんだけど、キャンプ場が出す料理が、ハンバーグとかウインナーとか、よく子供が好きだと言われるものばかり朝昼晩出てきて、もうキャベツくらいしか食べるものがなかったらしいんです。諦めて食べたということでした。もう拷問ですね。山の中のキャンプなので、本当に逃げ場がないことはあります。

友達関係で言うと、ヴィーガン・ベジタリアンに限らず、何らかの形で自分の立場を表明すると、友人関係で二つにわかれることが多いですよね。思いもかけない人が嫌な反応をしてくるとか、意外な人が自分の味方してくれるとか。そこで改めて「社会って何だろう」と思うことはあります。

僕が友達に言ってもみんなあんまり突っ込まないのは、元々僕が釜ヶ崎で何十年も活動してるからということがあると思うんです。最初に始めたときは、友達は「そんなところに行くのはやめろよ」って言ってたんだけど、僕はずっと活動していて、それでも付き合ってくれる人たちなので、寛容なんだと思います。「僕は基本的に肉食わないので」と言っても、「あ、そうなのね」と普通に受けてくれる友達だけが残ってるのかな、という気がします。



 『ヴィーガンズ・ハム』観た? ——ヴィーガンは「偉そう」なんだろうか


——なぜこれほど、何かを食べないということが人をいら立たせるのでしょうか。何かを食べないっていうと、「そうなんだ」となってくれる人もいるけど、わがままととられるところがありますよね。

生田 わがままというか、自分が批判されていると感じるのもあるかもしれませんね。

黒瀬 さっき「日常にすごい深く埋め込まれてる」と言いましたが、コミュニケーションというのは、ほとんどの人にとって、相手が自分と共通点をある程度持った人だという前提があって成り立つ側面があると思うんです。その共通点のなかに、「自分と普通に食事を共にできるか」が入っている。 僕はセクシャルマイノリティなんですが、「同じ男性の身体をしていれば同じような性的関心を持っているはずだ」といった思いが、コミュニケーションの基盤の条件として、普段考えないようなレベルの無意識の次元に入り組んでるんですよ。同じように、「ヴィーガンだ」といわれると、普段意識しないでいられているものを、急に引っ張り出されて目の前に突き出されたような感覚になるから、良心を持ってる人でも多少混乱してしまうんだと思うんです。その混乱に対してどういう振る舞いをするかどうかで人は別れるので、「それでもこの人と付き合っていこう」と思える人と、拒否反応を示す人と、怒り出す人もいるんですけど、そういう感じの理解の仕方を僕はしてますね。


* 肉を食べないということと、周囲の苛立ちについて書いてある本


——「ヴィーガフォビア(ヴィーガン嫌悪症)」という言葉があって、それに関する論文を以前読んだんですが、ヴィーガンの人ってドラッグ中毒者と同じぐらい悪い印象があるらしいです(笑)。

【ヴィーガフォビア(Vegaphobia: ヴィーガン・ベジタリアン恐怖症)】
日本に限らずヴィーガン・ベジタリアンに対して反感を抱く人は多く、ある研究結果によれば、ヴィーガンという言葉で連想される言葉を尋ねると、参加者の半数近くが「変」「傲慢」「説教くさい」「過激」などのネガティブなものをあげており、ヴィーガンと同程度の嫌悪感を抱かせるのは薬物中毒者だけだという。なお、ヴィーガフォビアを抱く人の割合は、女性より男性の方が多い。

*参考
・Frédéric Vandermoere , Robbe Geerts, Charlotte De Backer, Sara Erreygers and Els Van Doorslaer "Meat Consumption and Vegaphobia: An Exploration of the Characteristics of Meat Eaters, Vegaphobes, and Their Social Environment"(2000)
・Matthew Cole and Karen Morgan"Vegaphobia: derogatory discourses of veganism and the reproduction of speciesism in UK"(2011)
・BBC "The hidden biases that drive anti-vegan hatred"(2020)
・The Guardian "Ethical veganism is a belief protected by law, tribunal rules"(2020)

最近、ネットフリックで、『ヴィーガンズ・ハム』という映画が配信されたんですけど、皆さん見ました?

櫻井 まだ見てないです。「見てみよう」っていう話はちょうどサークルでしていました。

——これは、過激派のヴィーガンたちにお店を襲撃された精肉店の夫婦が、襲撃してきたヴィーガンを殺してしまって、その肉を売ったら美味しくて繁盛しちゃった、という話です。それから夫婦は美味しいヴィーガンを求めてどんどん殺していくんですけど、ついにヴィーガンは殺される対象になったか、と(笑)。

栗田 その映画を一応見た立場としていうと、人種の問題とか交差性の話が入っていてややこしいんですよ。たとえば、精肉店の娘が婚約者を連れてきて、その人がヴィーガンなんだけど、娘さんは肌が浅黒いのに対して、そのヴィーガンの婚約者はいかにもな白人のプレッピーというか、その精肉店の夫婦をちょっと上から見ているような描かれ方をしている。

あと精肉店と言っても、もう一つライバル精肉店がいて、そのライバル店の人たちは適当な肉を売って繁盛しているんだけど、主人公の殺し屋精肉屋さんの方は良心的な精肉屋という設定だったりして、複雑な文化背景が描かれているのもまたヴィーガンの置かれてる状況が表れている。それこそイスラエルみたいに「ヴィーガンウォッシュ」と言われるようなやり方も何となく入り込んでるような印象があったり、そういう意味でもなかなか食えない映画ではあるとは思いました。

——わたしも意外とよくできている作品だと思いました。ただのヴィーガンアンチ映画になってなくて、いろんなヴィーガンが描かれている。あと、話として面白いのは、ヴィーガンの肉が美味しいからって、精肉店の夫婦がみんなにヴィーガンになるよう勧めちゃうんですよね。ヴィーガンを呼び寄せるために街頭活動して、多分全然思ってもないのに、「動物虐待反対!」と訴えるようになっていったり、周りに「健康に悪いから肉食うな」と言うようになっていく。一筋縄ではいかない映画で、作品としてよくできていましたね。

黒瀬 そう言われるとおもしろそうですね。

 ヴィーガンになれるための経済的な条件や社会的地位ってかなり結び付いちゃってて、実際ヴィーガンって白人の豊かとされる国に多いんですよね 。だからヴィーガンになれるかどうかは、単に個人の意識の問題だけではなく、ある程度、経済的・精神的・時間的余裕がないとなりづらい社会構造が確かにあるので、それゆえにヴィーガンに対して「偉そうにしやがって」といった、自分が見下されてるかのような感情を引き起こしやすいカテゴリーでもあるのかなと思います。

これはフェミニズムとも構造が似ているんですよね。今、アメリカでトランプの人気が高まっている背景として、マジョリティーだった白人男性のなかで経済的に苦しい人が相対的に多くなっている。主観的な部分もあるとは思うんですけど、アメリカでの白人男性の地位がこれまでより低くなっていて、その原因を、以前マイノリティだった(本当は今もマイノリティではあるんですが)女性・黒人・移民などに求めるような感情が、トランプ支持に向かっているという分析があります。それと似ている感情がヴィーガンに対しても引き起こされていて、実際イスラエルにヴィーガンが多いのは、そういう部分と切り離せないものが残念ながらあるんだろうなと思います。イスラエルは高い軍事力と経済力を擁した文化・教育の水準も高い国なので、そういうえげつない社会構造になっていて、難しいなと思います。

——うん。だから、欧米やイスラエルのようにヴィーガニズムの運動が進んでいる国を目指そう、という直線的な考え方だけだとなかなかうまくいかない部分がありますよね。

栗田 ただ今日は具体的な話が出てきている貴重な場だと思います。ヴィーガンで一番安い食べ物は納豆と豆腐と厚揚げ、というイメージがあるけれど、大豆ミートになると高くなるし、さっき生田さんが言ってた「豆乳ヨーグルトはなぜ高いのか」という悩みとか、今日アンケートでいっぱい出てきたような、具体的に困ることへの対応も逆にあんまり語られてはいないと思うので、それが今日語られるのは大事こと思います。


※ 注:映画『ヴィーガンズ・ハム』について
座談会中では概ね好意的に評価した『ヴィーガンズ・ハム』だが、作中においてヴィーガン活動家の大部分が(故意的とはいえ)ステレオタイプ化された「エコテロリスト」かのように描かれているのは(あるあるとはいえ)問題でもある。いまだヴィーガンという存在が日常レベルではそれほど可視化されていない日本において、この映画におけるようなヴィーガンのイメージが先行すると、「ヴィーガンとはこういう過激なものだ」という印象が刷り込まれて、現実レベルでの「ヴィーガン狩り」が肯定されてしまう危険性もあるだろう。 

なお「エコテロリスト」については、ジョン・ソレンソン著・井上太一氏訳の『捏造されるエコテロリスト』などに詳しい。


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(文責:深沢レナ)





※2024/4/8 一部修正しました。

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