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魔拳、狂ひて

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時は現代。科学の飛躍的な進歩により、人々は、太古より信じられてきた超常的な存在を否定するようになった。だがその陰では、妖怪や怨霊、超能力者といった『人智を超えた存在』が暗躍してい… もっと読む
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記事一覧

【魔拳、狂ひて】爆発死惨 五

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 衛は公園のベンチに腰掛け、待ち合わせをしている相手を待っていた。
 昼間だというのに、公園の敷地内には誰もいない。
 その理由は、天気が曇り始めたからというのもあるかもしれない。
 だがこの公園は、利用する者が元々少ない。
 仮に天気が雲一つない晴天であったとしても、おそらく誰も立ち寄ってはいないであろう。
 衛は、その人通りの少なさに目を付け、よくこの公園を待ち合わせ場所に選んでい

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【魔拳、狂ひて】爆発死惨 四

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 ──某所マンション、二〇三号室。
 その玄関の扉を衛が開くと、中から味噌汁の芳醇な香りが漂ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさーい!」
 帰宅を告げる衛の言葉に、明るく無邪気な声が返って来る。
 それからしばらくして、奥から幼い少女が駆け寄って来た。
 ロールされた眩しい金髪に、綺麗に整った顔立ち。そして、エプロンの下でふわふわと揺れる、嫌みのない品の良さを感じさせるドレス。
 西洋人形

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【魔拳、狂ひて】爆発死惨 二

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 早朝──冷たく引き締まった空気に満ちた、寂れた神社の境内。
 そこで、一人の男が鍛練に勤しんでいた。
「フンッ……!」
 その男──青木衛は、短い呼気と共に、冲拳を放ち続けていた。
 ただ闇雲に突き出すのではない。歩型の安定、丹田への意識、身体の連動、重心の配分、呼吸のタイミング、拳の軌道、勁力の伝達──様々な要素が上手く噛み合っているかを思考し、突くのである。
 この数時間の間に放った拳打

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【魔拳、狂ひて】爆発死惨 一

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 若い男女が、濃厚に唇を重ね合っていた。
 時刻は午前四時を回っている。その上、ここは人目につかない路地裏の奥。見咎める者など、誰もいなかった。

「……っはぁ……ンっ……ふぅ……」
 派手なドレスに身を包んだ女が、一度顔を離し、吐息を漏らす。
 刃物のような美しさを持つ美女であった。
 女の内面をそのまま形にしたような、美しい顔立ちであった。

「っ……へへ……」
 

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 八(完)

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 静まり返った部屋の外から、雨音が流れ込んでいる。
 雨の勢いは一向に衰えることはなく、地面や建物を打つ激しい音が聞こえていた。

「…………」
 ソファーに座りながら、マリーは虚ろな表情を浮かべていた。
 相変わらず、その瞳は何も写してはいなかった。

「…………」
 その様子を、衛は背後から見つめていた。
 気持ちの整理がつくまで、言葉を掛けず、そっと見守っていた。

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 七

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「ほう、東京から……。それはそれは、遠い所から遙々、お疲れ様で御座いました」
 座敷に正座する、 皺と白髪を蓄えた男性。
 その人物は挨拶をすると、恭しくお辞儀をした。
 この家の家主にして、北村さつきのかつての担任教師、君島和久であった。

「いえ……こちらこそ、突然押し掛けてしまいまして、申し訳ございません」
 衛の方も、丁寧にお辞儀をする。
 それに倣い、隣に座るマリ

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 六

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「フンフンフーン、フンフフーン♪」
 上機嫌で鼻歌を歌うマリーと、いつも通りの仏頂面をぶらさげた衛。
 二人は今、白浜第三小を後にし、君島の自宅へと向かっていた。

 彼らが小学校を出発する際に、林田は車で送ろうかと申し出てくれた。
 だが衛は、これ以上お世話になってしまっては申し訳ないと、丁重に断ったのである。
 林田が書いてくれた地図によると、君島の家は、小学校から歩

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 五

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 白浜第三小学校の校長室。
 衛とマリーは現在、校長室内のソファーに並んで座っていた。
 机を挟んだ向かいのソファーには、白髪交じりで、厳めしい顔付きをした男性が鎮座している。
 当然、林田校長であった。
 厳格──林田と対面して、衛が最初に抱いた印象は、その二文字であった。

「青木衛と申します。ご多忙中、突然お邪魔して申し訳ありません」
 衛が挨拶をし、林田に頭を下げ

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 四

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 翌朝。
 普段ならば、衛は朝食の前に軽いトレーニングを行うのだが、今日は休むことにした。
 起床後、二人はまず顔を洗い、昨晩の残りのカレーを温め直し、簡単な朝食をとった。
 それが終わると、食器を素早く洗い、書斎に置いてあるパソコンを起動させた。

「まずは、さっちゃんにつながる情報を探してみよう。さっちゃんのフルネームは分かるか?」
 椅子に座った衛が、傍らのマリーに尋ねる

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 三

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 その少女──マリーは、静まり返ったリビングのソファーの上で目を覚ました。
「ん……うう……」
 自分は何故こんな所で寝ているのか。
 そもそも、ここはどこなのか。
 少女の記憶は若干混乱していた。

「気が付いたか」
 唐突に声が掛けられる。
 少女は、声のする方向に顔を向けた。
 その可愛らしい顔が、恐怖で歪んだ。
「え──ぎゃあ!?」
「人のツラ見るなり『ぎゃあ』はねえだろ

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 二

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 某所のマンション、二〇三号室。
 その中にある和室で、一人の青年が座禅を組んでいた。
「…………」
 退魔師、青木衛である。
 白の練功用カンフーパンツに、黒のTシャツというシンプルな出で立ちであった。
 顔には無数の汗の粒が浮いており、時折、線を描くように首元へと流れていく。
 凶悪な妖怪すら怖れる彼の目は今、静かに閉じられている。
 彼の規則的な呼吸音のみが、和室の中に響

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【魔拳、狂ひて】西洋人形の電話 一

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 ──……マリー……マリー……──。

 声が聞こえる。
 女の子の明るい声が、あたしを呼んでいる。
 その声を聞いて、あたしの心臓がトクンと高鳴った。

 あたしの大好きな女の子。
 あたしの大好きなお友達。
 あの子が呼んでいる。
 眠ってる場合じゃない。
 眠ってなんかいられない。
 今日もあの子に会いに行かなくっちゃ。

 ──眠りから目覚めると、目の前に、お日様みたいに笑っている女の

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【魔拳、狂ひて】構え太刀 八(完)

「……ッ」
 ──空気が張りつめている。
 双方が発する殺気が、辺りに充満していた。
 衛は、構えたまま全く動かない。
 三兄弟もまた、その場に佇んだまま、全く動かなかった。

 ──否。一人だけ、微かな動きを見せる者がいた。
 剣次郎である。
 彼は今、全身をぶるぶると震わせていた。
 恐怖から来る震えでもなければ、武者震いでもない。
 怒りから来る震えであった。
 衛の挑発により、剣次郎の腸は

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【魔拳、狂ひて】構え太刀 七

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 三兄弟が渋谷で起こした惨劇から、今日で十日が経過していた。
 時刻は丑三つ時。薄暗い闇夜に、鳥や虫の鳴き声が騒がしく木霊していた。
       
「ああああああ退屈だな畜生ォ! 何で退魔師が誰も来ねェんだよ!!」
「待てども待てども現れん! 退魔師は腰抜けしかおらんのか!!」
「……騒がしいぞお前達。少し静かにしたらどうだ」
 子供のように癇癪を起こす剣次郎と剣三郎を、剣一郎が落ち着いた声

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