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【スペキュレイティブ・フィクション(SF)とは】 小説短編集:テッド・チャン 「息吹」

スペキュレイティブ・フィクション(SF)という言葉があるそうだ。

元の言葉のspeculation(推測)から転じて「what ifを出発点として作り上げる世界観のフィクション」となる。

藤子F不二雄の「SF(少し不思議)」にも通じる言葉だ。彼の作品は、スペキュレイティブ・フィクションという言葉が生まれる前に存在していたわけだけれど、系譜としては同じ部類に入るだろう。

そのスペキュレイティブ・フィクションの一冊に、テッド・チャンの「Exhalation(邦題「息吹」)」がある。

映画「メッセージ」の原作が含まれている「あなたの人生の物語」から2冊目の短編集。

「三体」が宇宙を舞台にずっとずっと先の未来を描いたフィクションなら、テッド・チャンの「息吹」は、もう少し身近な地球上での未来を描いている。これはケン・リュウ(「紙の動物園」等)作品にも通じる。

だが、上記の中国SF作家さんたちに共通していることがある。作品の根底を支えているのは、人間の普遍的な性質であるということだ。

もしあの時、別の選択をしていたなら、そちらの人生の方が幸福だったのではないか。その幸せな人生を、パラレルワールドの自分は今も生きているのではないか。(不安は自由のめまい)

もしこのドアが過去に繋がっているとしたら?(商人と錬金術師の門)

宇宙の息吹とは?(息吹)

そんなふうに「what if」の目を外宇宙にまで向ける人間を、オウムは静かに見つめる。ここにあなたたちの言葉を理解し、再現までできる命があるのに、私には目を向けず、外にばかり向けているとは。かくも不思議な存在だ、人間というヤツは。(大いなる沈黙)

過去は変えられない。あるのは後悔と贖罪と、赦しだけだ。だが、それで十分なのだ。
人に簡単に優しくできる人もいる。その人はずっと、小さな優しさを選択してきたから。でも、私はずっと小さなわがままを重ねることを選んできた。今は、それを変えたいんだ。

過去の選択にまつわる言葉や表現が、形を変えてあちこちに登場する。

過去を知った上で、未来を想像する。だからwhat ifが成立する。

原題は、Exhalation(「呼気」)。とても重要な単語だし、表題作の中でも重要なメタファーなんだけれど、敢えて「息吹」にしている。英語の持つ力と同じ力を持たせるために。

ここ数年の中国のSF小説が半端なくすごい。そして彼らの描く未来が近い将来、絶対に来ることを肌で感じられる時代に生きていられることに、ワクワクが止まらない。

明日も良い日に。


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