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DX事例を知りたい方の必読書「DX経営図鑑」。著者 金澤一央さんにインタビューしました!

こんにちは。デジタル&フィジカル編集部です。
本日はDXについて、特に店舗のDX化について検討を行う立場にある方にとってとても参考になる書籍「DX経営図鑑」のご紹介と、その著者である金澤一央さんにインタビューした模様をお伝えしたいと思います。

「DX経営図鑑」ってどんな本?

書籍「DX経営図鑑」は”図鑑”という名が示す通り、世界の様々な企業が取り組んだDX事例を取り上げ図解した本となっています。取り上げられた事例はWalmartやNIKE、Starbucksなどの昔ながらの有名企業の取り組みから、Uber、Teslaといったイノベーター企業、そしてb8taやSephora、Grabなど急成長を遂げつつある企業など多岐にわたり、その事例の数は実に32個!!非常に読み応えのある本となっています。DXといっても結局どのような成功例があるのか、、みたいなことを知りたい人にとってはとても役に立つ書籍なのではないかと思います。

また、本で紹介された事例の解説は一貫して「顧客視点での価値提供の在り方」から語られているのが特徴です。つまりDXを実現するための”仕組み”即ちシステムやツールやデータベースの構成といった話ではなく、DXを実践することによって、いかにしてエンドのお客様のペインを取り除き、お客様にとって新しい価値を提供したか?を主眼において語ってくれています

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「DX経営図鑑」著者金澤さんについて

著者の金澤さんは現在アジアクエスト株式会社にてCMO/DX戦略室室長として従事されていらっしゃいます。また、デジタルトランスフォーメーション情報サイト『DX Navigator』での編集・執筆活動や、アジアクエスト社によるデジタルトランスフォーメーション系のセミナーで登壇されるなど幅広くご活躍されています。そして、金澤さんは私が所属する会社ネットイヤーグループのOBでもあり、今でも公私に渡って様々なアドバイスを頂ける頼れる先輩でもあります。そのようなご縁もあり、今回インタビューの機会を頂くことになりました。金澤さんによる本書籍リリースにあたってのnoteも是非ご覧になってみてください。

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「DX経営図鑑」著者:金澤一央さん
出典元:https://www.asia-quest.jp/news/26133/

執筆するきっかけはニューヨーク滞在時に感じた強烈な日本への危機感

-金澤さんは2016年から約2年間アメリカに渡りニューヨークにて大学院生として勉強されたご経験があり、その時の様々な体験がベースとなって本書籍を執筆するきっかけとなったそうです。

Q:リアルな生活とデジタルの融合という文脈上で、実際に当時アメリカに渡って感じた日本との違いで印象的だったことはどのようなことでしたか?

金澤さん:いくつかあるのですが一番印象的だったのはUberの存在でした。
アメリカに滞在していた2年間にも何度か日本と行き来をしていたのですが、まずアメリカに到着したその瞬間から移動の利便性が日本と比べ格段に良いのです。空港に着いてスマホを米国用SIMに取り替え、Uberを呼んで自宅に帰る。この一連の行動がものすごくスムーズでストレスレスなのです。Uber以前はタクシーを拾うにも一苦労。変なタクシーに捕まるとボッタクリに遭い、行き先を告げる際にも言葉の壁がありました。今では支払いもアプリを通じた決済なので現金を支払う必要もない。このように以前と比べると行動する上でのストレス、心理的ストレスがほぼゼロになるという体験はやはり印象としてすごく残っています。
日本でもUberと似たサービスはいくつかありますが、日本に帰ってきて一番衝撃的だったのがそのようなサービスがあっても以前の顧客体験からまるで進歩していないこと。商売としてのデザインも、タクシーが持つ元々の不便を解消するデザインも、アプリのUIのデザインとしても全て中途半端に見えてしまい、ニューヨークのUberがいかに考えられたデザインであるかを知りました。

Q:なぜ日本だとサービスのデザインがうまく行かないのでしょう?

金澤さん:Uberのように、アメリカのサービスは全体が一回こうあるべきというデザインを最初にしているのだと思います。一個一個を継ぎ足しながら作るのではなく、まず最初に全体をデザインする。中国の場合もその傾向が強い。とにかく最初に全体を大まかにデザインし、ガーンとやる。その分スピードも早くどんどんやります。些細な部分に粗はありますが最初に全体をデザインしているので世界観は崩れない。日本の場合だと個別最適でそれぞれがデザインし後からくっつけるようなことをするのでサービス全体を俯瞰するとブツ切れ感が発生していたりすることがよくあります。

Q:民族性、みたいなものもあるのでしょうか?

金澤さん:それはあると思います。日本の弱点でもあり良いところでもあります。海外で過ごして改めて感じたのは日本はすごくいい国であるということ。帰国するたびにそう思いました。それは自分が日本人だからこそかもしれません。日本人が日本に住んでいれば、自分が日本人であることを証明する必要もないですし疑われることもありません。しかし海外にいると言語の問題はもちろんのこと、銀行口座ひとつすらまともに作れません。どこかに不安を抱えながら生活する毎日。その不安というペインが、アメリカではDXによって解消されているシーンが多いのです。
特にニューヨークは多種多様な民族が暮らしています。育ったバックグラウンドや思想、生活環境などが全くバラバラな人たちが一つの地域で暮らしています。自身のアイデンティティに関わる暗黙知が相手にない場合が多いため、非常にコミュニケーションにおけるハードルが高いわけです。ですから、ひとつのデジタルのサービスを作るにしても、日本の場合とは比べ物にならない程の顧客中心に考えたデザインが重要になるわけです。
その追求の結果、UberやStarbucksではアプリを使えば、誰でも一言も店員と言葉を交わすことなく目当てのサービスや商品をスムーズに受取ることができるようになりました。これはデジタルのサービスが発達する以前にはなし得なかった体験です。
翻って日本で提供されている多くのアプリは海外渡航者にとってはなかなか使いこなすのは難しいのではないかと思います。PayPayなどのアプリもできれば3,4ヶ国語に対応してもいいのではないでしょうか?日本の多くのデジタルサービスは基本的にお互いがお互いを理解している前提で作られているため、非常に閉鎖的ですし、結果的に多くの人にとって使い勝手のよい洗練されたデザインになっているとは言えないと思います。その辺りにも海外と日本におけるデジタルサービスのデザインアプローチの違いがあると思います。

ユーザーのペインの除去とゲインの創出、双方が揃って初めて優位を確保できる

-「DX経営図鑑」では一貫してそれぞれの事例がいかにしてユーザーのペイン(苦痛)を取り除き、同時にゲイン(利得)を創出したか?という観点で書かれています。例えば先程のUberの場合、Uberはタクシーを利用するユーザーの「タクシーが捕まらない」「行き先を言っても通じない」「不快な接客、不当な料金」といった特有のペインを、「アプリでタクシーを呼ぶ」「マップから行き先を指定」「ドライバー評価機能による接客品質向上」「事前料金表示&アプリ決済」によって解消しました。また、本サービスによって居住者や観光客に対し地下鉄やバスよりかは高価だがタクシーよりは安い料金で新たな交通手段を手に入れることができ、車を所有しない人々の消費行動を拡大する”ゲイン”を生み出しました。
一見、ペインを取り除くという考え方自体はさほど難しくありませんが、ゲインを創出するという考え方は少し頭を捻る必要があると思います。この辺りの解説を金澤さんにお伺いしました。

Q:変な質問をするようですが、新しいサービスをデザインする際にはペインの除去”だけ”を考慮するのでは不十分なのでしょうか?

金澤さん:本書籍はジョブ理論を参考にして「ペイン」と「ゲイン」の切り口で書いたのですが、理論上はペインを取り除くことによってゲインとなる場合もあります。ただし私はやはりペイン除去と同時にゲイン創出も同じように考えることが重要だと考えています。なぜならペインを取り除いただけのサービスは模倣が容易ですぐに他社が追いかけて来ることができるからです。DXの本質は「技術導入によって得られたアドバンテージを用いて価値提供の仕組みを変え、ビジネス構造を変えることで、新しい競争基準の中で優位性を得るという、一連の変革ストーリー」だと書籍でも書きましたが、優位性の確保のためには他社が容易に追随できないようなユーザーにとっての強烈な利得がなければ続きません。また、顧客にとって手に入れたいゲインが、そのゲインを手に入れるために発生するペインを上回らない限り顧客は行動に起こしません。そのような意味で、取り組む企業それぞれが顧客へ提供する体験価値をペインとゲインの両側面から検討し評価をすることが大切です。

日本のDXの波はこれから本格化。この10年で波に乗る企業とそうでない企業の差がじわじわと出てくると思う。

Q:今後、日本社会では本当の意味でのDXが活発に起こっていくようになるのでしょうか?

金澤さん:先程も言いましたが、日本は本当に住みやすい国です。海外から日本に住むようになった外国人も増えました。わたしの住む近所にも様々な国から来た外国人が住んでいます。そのような方々と話すと一様に、日本はホスピタリティが良く、皆親切で住みやすいという風に言ってくれます。確かに日本のサービスは世界水準で見ても元々非常に高かったのは事実だと思います。むしろ海外のほうがあらゆる面でずっと不便なのが当たり前でした。しかし、アメリカや中国、東南アジアを中心にDXの波が来て、これまで不便だった物事がデジタル化によって一気に便利になりました。DXによって日本の従来のサービス品質を飛び越えた感じです。
日本特有の丁寧なモノづくり文化ゆえの「丁寧に作るからこれだけの時間をください」といったやり方はデジタルの世界では通用しないと思います。アメリカや中国を見ていると、競争が激しいだけに本当に必死にサービスの改善を行っています。物事の進め方の判断を多数決で決めるようなことはせず技術と数値のスコアリングで行うことを徹底しています。多種多様なバックグラウンドを持つユーザーが当たり前に使えるように徹底的にUI/UXを追求しています。そうして創り出された新たな当たり前が、次のサービスを生み出す原動力となっています。
日本の多くの企業でも「顧客体験が大事。ユーザー視点を取り入れよう」と言いますが、まだまだユーザーを見ていないところばかりだと私は思います。一瞬気を抜けばすぐに供給者側視点になることが非常に多い。間違いなく言えるのは供給者側にとってオイシイ部分をDXを通じたサービス立ち上げのゴールにしてはいけないということです。少なくともユーザーはそこに興味を全く持ちませんし、他に自分にとって欲しい価値を提供してくれるサービスがたくさんあるからです。
この手の社内での議論でよくある意見が「お客様のことばかり考えていたら儲からないじゃないか」というものです。このような意見で抵抗され、結果歩みが止まったり、先程言ったサービスのブツ切れ現象が起こったりする原因になることがあります。今求められるのは、例えそうであったとしても顧客と真剣に向き合う、顧客を中心にして考える、そうでないとだめなのだ、という強い意思なのではないかと思います。実際に書籍で取り上げた企業も同じような問題に直面しながらなんとか乗り越えてきたところが多いのです。
そのことに経営者や事業部門、マーケ部門、情報システム部門などが一体になって気付き実行に移す企業とそうでない企業で、この10年ほどでじわじわと差がついてくるのではないかと考えています。

インタビュー最後のまとめ

以上、金澤さんのお話でした。みなさんいかがでしたでしょうか?
世界の基準で見た場合の日本のDXの波とこれからについて少しでも参考になれば幸いです。金澤さんのお話に興味をお持ちになられた方は是非一度、書籍を読まれてみてはいかがでしょうか?

本日は以上です。ここまでお読みいただきありがとうございます!

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