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医療訴訟 ~患者さんと医療者の目線の違い~





最近、ワクチンの医療訴訟にツイートしました。
いい機会なので、雑ではありますが私見を述べたいと思います。

医療訴訟が浸透したのは、いい風潮なのか?


私の考えを先に述べると、あまりいい風潮ではないと思っています。
萎縮して医療を提供しにくくなるから、医療訴訟のリスクの高い科が嫌厭されるから・・・

色々理由はありますが、私がこのように考える理由は以下の3つ。
➀医療のプロを、素人が訴えて素人が裁くシステム自体に無理があるから
②患者さんにプラスにならないから
③「教科書的な最適」と「現場における最適」にあまりに乖離があるから

上記の記事を引用させて頂きました。
先に、医療訴訟に関わった経験がある方にとっては、あまりいい気分がしない内容です。その場合はスキップしてください。

何が問題?

➀~③の理由を挙げましたが、これらは一部オーバーラップします。
ただ、個人的には➀が一番問題だと思っています。
御存じの方も多いですが、裁判にはざっくり分けて2種類存在します。
民事裁判と刑事裁判ですね。
基本的に個人間でのトラブル等では前者、有罪判決を受けた際に前科がつくものは後者のイメージですかね(細かい指摘はあると思いますが、この記事のメインではないのでスルーしてください)。

さて、例えば故意にやってはいけない医療行為をした、患者に害意をもった行為をした、これらは当然刑事裁判で裁かれます。ただ、普通そんな人いません(個人的には、現代医療を否定して訳の分からないホメオパシーや陰謀論に取り組むのも同類だと思っていますが・・・)。
意図せぬ医療事故や予測が困難な事故、あとはマンパワーの問題で物理的に無理なこと。
例えば循環器内科でいえば冠動脈穿孔や心タンポナーデ、中心静脈カテーテル:CVの自己抜去や病棟での転倒等が該当しますね。

ですが、ここ最近の医療訴訟については明らかにおかしい点が多い。
代表的なものは、大野事件。産婦人科の先生が癒着胎盤という、文字通り胎盤が母胎に癒着してしまう疾患で、その患者さんの帝王切開中に患者さんが出血死してしまった痛ましい事件ですね。

私は循環器内科が専門なので知識には乏しいですが、癒着胎盤では穿通動脈が胎盤内を貫通していることもあり、出血リスクが高い症例です。そのため、どれだけ気を付けていても出血による急変・死亡リスクがあります。でも遺族からしたら結果が全て、それも分かります。現に、私も遺族に訴訟寸前にまで追い詰められた経験があります。どう考えても病院側に過失がなかったためか、結局裁判は起こされませんでしたが・・・

さて、この事件の何が問題か。

執刀医が逮捕、しかもその様子がテレビで放送されたんですね。


いやーあり得ないでしょコレは・・・。
要は犯罪者扱いされた訳です。たとえ無罪でも、社会的に残るダメージが大きすぎる。家族にも被害が及びますね。

裁判での指標は?


裁判の際には、例えば薬の副作用の訴訟の際には「添付文書」、つまりは薬の取り扱い説明書が論点になることがあります。例えばSGLT2阻害薬の尿路感染症のリスク、抗アレルギー薬の眠気(最近は改良されていますが)、その他数え切れないほどありますが、臨床的には副作用に目をつぶってても使用しないとならない場面などいくらでも存在します。
カテーテル治療でいえば、リスク覚悟でステント留置をしにいくこともあるわけです。禁忌といわれている誤嚥性肺炎への陽圧換気だって、やらないと死んでしまう場合にはやることもあるわけです。

では、裁判では何を使用にするのか?
やはり、添付文書や教科書にあるマニュアルなんですね。
確かに、マニュアルは個々の症例によって異なる対応を画一化して効率化を図るためにとても有用です。

ただ、現実的にはそんなにうまくいきません。
人手が足りない場合もあります。他の緊急対応のために検査がすぐにできない場合もあります。輸血が不足することもあります。点滴ルートがとりにくいこともあります。

マニュアルには、これらのことが全く反映されていません。
つまり、医療の素人が理想論しか書いていないマニュアルを用いてプロを裁くわけです。なんのバグなのでしょうか・・・。
他にも加古川心筋梗塞事件等が有名ですね。

医療への影響は?


当然、このような複雑な経過の危険性のある症例は皆避けるようになりますね。まあ、そのためにハイボリュームセンターがあると言われればそれまでですが・・・。
でも、ついこの間産婦人科医がいなくなった市で、市民が産婦人科をなくさないよう署名を集めて提出していた姿をTVでみました。まあ、署名で医師が来るなら苦労しないような気もしますが。つまりは、
何かあったらつるし上げにするにも関わらず、どの地域でも同様の治療を受けることを当たり前と考えている節があるような気がしてならないのです。

循環器内科の領域でも、冠動脈造影を行った結果CABG:冠動脈バイパス術の方が適する症例が多々あります。でも、循環器外科の数は少なく、どこでも手術できるわけではないんですよね。
でも、患者さんや家族からは「なんでできないの?」みたいなことを言われる訳です。「循環器外科がいないから」といっても、じゃあなんでこの病院で検査=冠動脈造影を行ったのか、と言われることも。

うーん・・・
なかなかに目線の違いを感じる次第です。
タイトルにもある通り、やはり患者さん・家族と医療者の目線の違いを感じることが多い。

医療者も努力しないといけないことは多々ある、それは百も承知ですが、サービスを利用する患者側にも理解を求めたいところはあるし、何より国が率先して周知してほしいと願ってやみません。



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