惹かれる文体、作風

好きな作家だれ?と聞かれたら、小学生の頃は江戸川乱歩だと答え、中高生の頃は道尾秀介だと答え、少し前なら村上春樹だと答えていた。

今は、遠野遥だと答えると思う。とは言っても彼の作品で単行本化されているのは2作しかないので、その2作品しか読んでいないのだが。

昨年、芥川賞受賞作の『破局』を読み、今年になってデビュー作の『改良』を読んだ。どちらも休憩することなく、夢中で一気に読んでしまった。3作目の『教育』は来年刊行されるらしいので買って読もうと思う。

彼の文体に強く惹かれた。修飾語の使用をできる限り避けているらしく非常に読みやすい。語りは冷徹な印象も受け、懐疑的で感情が乗っていないような淡々とした語り口だが、その異質感は心地良くもあると感じている。

異質感は文体だけでなく、物語の構成についてもそう。伏線のようで何の伏線にもなっていないような描写が挟み込まれていたりする、言ってみれば不必要な場面を敢えて挟みながら物語が進んでいくのは斬新で実験的だと思った。

noteに彼のエッセイが一つだけ上がっているので、文体が気になる方は読んでほしい。小説での語りとも似ていると思う。また公式サイトでは、他のエッセイやインタビューも読めたりします。


デビューした頃の、磯﨑憲一郎さんとの対談を以前読んで個人的にとても印象に残っている。磯﨑さんは『改良』について「凡庸さの型にはめようとする圧力に抵抗する、その戦いが描かれている。」と称していたがこれはとても納得できる表現だと思った。

それに対して遠野さんの答え。

戦いを描く意図はありませんでしたが、物事を型にはめたり、無理に説明をつけたりとか、単純化しようとする圧力への嫌悪感はあって、それが自然と出てきたのだと思います。

確かに遠野さんが書く物語は安易な共感を拒み、型に嵌められ単純化されることに強く抵抗している印象を受ける。昨今のネット、SNS社会において物事を単純化させようとする圧力は、僕も含め日常的に多くの人が感じてると思うけれど、そんな時代だからこそ、決して単純化できない共感を拒むような物語が強く刺さるのかもしれない。

あと『改良』のテーマ性についての言及も印象的だったので引用。

「改良」がジェンダーやセクシュアリティや孤独を描いた小説だとは、私も思っていません。でも、どのように読んでもらっても構わないです。私は一枚岩ではないから、そういうものを描きたい気持ちがまったくなかったかといえば、それはわかりません。ただ、圧力や凡庸さとの戦いの記録と言われた方が、どちらかといえば今の自分にはしっくりきます。

これを読んでもやはり、分かり易いメッセージに消化されることを拒否しているのが分かる。

そして他には、性描写の生々しさと暴力シーンも彼の小説の特徴だと思う。

遠野さんの性描写は湿っぽくジメジメした生々しさがあるので、好みはすごく分かれると思うけれど、それもまたリアルであると感じた。欲望と本能を剥き出しにした人間の性行為や性衝動は、そんなに美しいものではない。そういった動物的なリアルを感じる書き方だと思った。

本能的な人間の欲望を描き出してくれる作品は、読者としても信頼できる。それは暴力シーンについてもそう。内に秘められた衝動的な欲望の発露、それが暴力である。そういったものを表現しようという意図を感じる。

あと、緊張と緩和も魅力的。独特のユーモアで不意に笑えるポイントが所々あるのも良い。『改良』に出てくるバンドの編成がギターボーカル、ドラムボーカル、ベース、ベースというのとか面白くて笑った。


以上、遠野遥さんについて所感をまとめてみました。気になった方は是非読んでみてください。

それぞれの作品のリンクを以下に載せておきます。よろしければ。

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