魔女の蒐集コレクション

魔なるアイテムは蒐集する。だからこそ、その種の生き物は魔女と呼ばれる。常人あらざる知識と、見かけたこともない道具を用いるその姿は、どこのコミュニティからも浮つくからだ。

浮つかないのは、蒐集癖を共有する、魔女たちのあいだでだけ。だから魔女は集会を開く。生き物たちは、魔女のミサと呼んで邪悪な儀式にちがいないと決めつけた。本当はお茶会だったり、本当に生贄を使った実験検証会だったりする。

ともかくも魔女の一員たるかの女は、海に棲むオオダコが知性と蒐集癖に目覚めたものだ。知識と、蒐集したアイテムの効力によって、姿は人間に化けさせている。なにせオオダコだから、人間が狩りに潜ってくるから、それから逃れるための仮の姿である。

海に生きる人間の姿は、当然ながら、魔女といわれた。女は魔女だから正解だった。

噂を聞きつけた、海の生き物が魔女のもとへたまに、足を運んだ。此度の客は脚が無く、しかし上半身は不自然なまで人間そっくりおんなじ、魔女ですら伝承で知っている程度の『マーメイド』だった。

「わたし、にんげんの男に恋をしたの。わたしを、にんげんにして、魔女!」 

「珍品が来たもんだねぇぇ」

オオダコが歪な声差しで語る。間延びした声のあわいで魔女は思案を巡らせた。ハテ、このマーメイド、どうしたら蒐集コレクションに入れられるものかしら?

しばし考えてから魔女は陽気に告げる。

「いいよ。ただし、このビンに入っておくれ。蓋をしてあげよう。アンタが瓶詰めになったら海水を抜くからね。しばらくしたら、地上に瓶詰めを運んであげようね。アンタが恋した人間たちがたくさんいる、地上だよ。さァ、瓶詰めになっとくれ」

しばらく悩んでからマーメイドはビンのうえに漂う。魔女は後頭部を蓋で殴りながら蓋を閉めた。ゴンッ!

マーメイドが、ビンの底に叩きつけられた。

それから、人間の世界では、マーメイドのミイラなどが見世物小屋で集客の目玉になったりした。もともとは誰であったか、どんな経緯で瓶詰めになったか、そもそもホンモノのマーメイドなのか?

そんな疑問符に見世物小屋の女主人は答えることができる。が、答えない。女主人はある秘密コミュニティの一員であるし、それにタコの足の刺身をよく食べているし、どうしてかイソっぽい塩気のある香水を匂わせている。

マーメイドの干物は瓶詰めされていて、今日も江戸町人たちの見世物にされていた。

「さァさァ、世にもめずらしい! そんじょそこらの乾物と比べるでないよ、とっておきの魚のミイラだよー!!」

見世物小屋の女主人は、小銭稼ぎに精を出す。

魔女はこうして肥えていくし、したたかに邪悪に生き抜くし、嘘をつく。本当ならすべての生き物は魔女とは関わってはいけない。

魔女たちは、知性と、蒐集の生き物だから。



END.

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