玉手箱のお母さんたちは祈った。

人魚姫は玉手箱を作りたいと乙姫に相談されたので、それを素直に、魔女に差し出した。魔女はふうんと話を聞いて、では、最後は、開けたら死んでしまうと呪いをかけた。人魚姫はべつになんとも思わず、玉手箱をきれいにかざるための貝殻をそれから集めた。

乙姫は、がくぜんとして、おのが目と耳を疑った。

「魔女に呪いをかけさせちゃったの!? なんで!? お土産なんだよ!?」

「?」

人魚姫は、うつくしい、顔立ちに、純粋無垢な疑問の色を浮かべた。

「にんげんがわたしたちの海で遊ぶのでしょ? タイやヒラメを踊らせた挙げ句に食うのでしょ? どうしてナニもしないの。どうして奪わせるの?」

「充分な夢のあとに、現実を知るくらい、カワイイものではないの。それすらせずに海を与えるなんて私たちは許さないの」

「オトヒメはどうしてそんなにバカになりたがるの。ニンゲンの幽霊だから? オトヒメ、ココに住まわせてあげているの。にんげんをただ楽しませるなんて、理屈にあわないこと、しないで」

ダメだ、話が通じない、乙姫はあきらめた。本来は海の神々たちを招くための龍宮城であるのは、事実だった。

「……仕方ないわね。……親切な人間が訪れないといいんだけれども」

人魚姫は、にっこり、わらった。

「そんなものはいないの」

「そうね」

乙姫は会話を諦めてただ唯々諾々としたがった。
せめて、鶴と亀、そう、鶴になるよう、その後に誠心をかけて呪いを変質させた。1000年を生きる鶴になれば、この仇討ちの帳消しが、いつかきっと鶴に与えられるはず、と、信じて。

乙姫は昔は人であり人柱などにされて沈んだ乙女たちによって人員補充されている。もとは巫女であるもの、奉仕を日常とする者が多かった。

けれど、この海の荒野では、祈りは意味など無い。
乙女たちは死後にそれを知った。

いつか、鶴にも会えるだろうか、乙姫たちがこぞって玉手箱を変質させて、それは、1000年の鶴になる、ノロイの箱となった。

この話にべつに終わりなどない。
海では今もこうであるから。


END. 

読んでいただきありがとうございます。練習の励みにしてます。