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読書感想:アオハルデビル (電撃文庫) 著 池田 明季哉

【心の隙間に入り込む悪魔に負けるな、自分だけの星を目指せ】


【あらすじ】
青春―それは願いに焦がれ、ときに“魔が差す”時間。



その夜、僕の青春は〈炎〉とともに産声をあげた――



スマホを忘れて夜の学校に忍び込んだ在原有葉(ありはらあるは)は、屋上を照らす奇妙な光に気づく。そこで出会ったのは、闇夜の中で燃え上がる美少女――伊藤衣緒花(いとういおか)だった。

「もし言うことを聞かないのなら――あなたの人生、ぶっ壊します」

そんな言葉で脅され、衣緒花に付き合う羽目になった有葉。やがて彼は、一見完璧に見えた彼女が抱える想いを知っていく。モデルとしての重圧、ライバルとの対立、ストーカーの影、そして隠された孤独と〈願い〉。

「……僕は衣緒花のことを、もっと信じるべきだった」

夢も願いも青春も、綺麗事では済まされない。〈悪魔〉に憑かれた青春の行き着く先は、果たして。

Amazon引用


悪魔に願いを希う少女を悪魔祓いとして少年が救う物語。


子供と大人の境目である思春期。
その真っ只中にいる青年達は心に深い闇と悩みを抱え、人知れず苦悩と孤独な夜を過ごす。
モデルとして、一足早く大人の世界へと踏み出した衣緒花は、美貌と自尊心に満ち溢れた天才に見えた。
しかし、その内情は違った。
人には言えない重荷を彼女は背負っていた。
青春を燃やし悪魔に縋りつきたくなる程に。
彼女の痛みを知った有葉は綺麗事では無い泥沼を這いずり回りながら、その痛みの背景を探って行く。

モデル業界という勝負の世界で、自分が信じた道をひたむきに進んできた衣緒花。
強い心を持っているように見えても人並みの苦悩を抱えていた。
悩むこともあれば、誰かに助けを求めたいときもある。
年端も行かぬ少女の心は重荷に悲鳴をあげていた。モデルとしての重圧、ライバルとの対立、ストーカーの影、そして隠された孤独と願い。

悩みや願いが悪魔として現出する現象。
それが彼女にとっては炎だった。
しかし、その忌むべき悪魔は、自分の心の奥底に純朴に眠る確かな願い。
その願いに真摯に向き合わなければ、悪魔を祓う事は叶わぬ。

衣緒花は何度も己に問いかける。
モデルの才能を決めるものは本人の努力か?
持って生まれた個性か?

夢も願いも青春も、綺麗事では済まされない。
その身に取り憑いた悪魔を祓うには自らが望んだ願いを叶える必要がある。
ならば、その過程を最後まで見届けよう。
だって、有葉は衣緒花のエクソシストなのだから。

高みを知るだけでなく目指しているからこそ、臆病ではいられぬ高慢な自尊心。
それでいて周囲には謙虚でいなければならぬ相反する感情の抑圧。

何かを目指し、何者かになりたいという少女らしい願い。
それを邪魔する物を跡形もなく消し去りたいという想い。
そして、特別でなくても自分を見て欲しいという願い。

そして、内省する日々の中で、衣緒花は気付く。
自分は、天才ではなくましてや、輝く星でもなく、ありふれた石ころみたいな悩み多いの女子高生であると。
しかし、特別じゃないからこそ、ひたむきに努力を続ければ、やがて光輝ける可能性だって確かに秘めている。

青春はただ綺麗なものではなく、醜いデビルは潜む年頃あるからこそ、少女は迷いながら自分の悪魔と戦う。
悪魔の誘惑に負ける事なく、自分の意志を初志貫徹する。

そんな彼女に憑りついたのは七十二柱の五十八番目、アミー。
では、燃焼という結果にはどんな願いが隠されていると言うのか。
そこを知る為に、衣緒花と行動を共にする有葉。
本気でモデルという仕事に向き合い、ストーカーに悩まされ。
それでも結果を求め、天才中学生モデルであるロザモンドを始めとするライバルと鎬を削る彼女を、本当の意味で知るべく見つめていく。

だが、半人前の悪魔祓いの彼は一つ見落としをしていた。
そもそもその炎は何からできているのかという事を。
一方だけを見つめるだけでは、決して見えぬ物。 鮮烈な朱に目を奪われているだけでは、見えぬ所に衣緒花の願いは潜んでいた。

それに気づかれず、夢の晴れ舞台は願いの暴走により紅蓮に包まれる。
けれどそれでも、救うと覚悟して決意したのなら。
痛みという罰を受けてでも、彼女の元へ駆けつけ。有葉は真っ直ぐに彼女と向き合い、自縄自縛に苦しむ彼女を救う事に成功する。

衣緒花を巣食う悪魔は見事に祓われて、彼女が本来秘めていた原石を星へと変えるのだ。







 




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