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読書感想:ママ友と育てるラブコメ (2) (ガガガ文庫) 著 緒二葉

【君が寂しくないように最高の誕生日にしよう】


【あらすじ】
想夜歌のお誕生日を祝おう!!



幼稚園では、保護者参加型の行事が定期的に行われる。親子遠足もその一つだ。両親の代わりにそれぞれ参加した響汰、澄は、子供たちとともに楽しいひとときを過ごす。一見喜んでいるように見える想夜歌だが、響汰は知っていた。大好きな母親と一緒に参加出来ず、とても寂しがっていることを。そんななか、間近に迫った想夜歌のお誕生日会。響汰は母親に参加するよう声を掛けるも、「仕事があるから」と一蹴されてしまう。想夜歌のために、何か出来ないかと悩む響汰。澄にも背中を押され、ある一手を打つ。子育てラブコメ第二弾!

Amazon引用

想夜歌の誕生日を祝す物語。


老成すると誕生日を神聖化しなくなり、また年老いたとナーバスになる。
しかし、子供の頃の誕生日は特別だ。
無事に成長していく子供を祝い、歳を経る事で、感情の分別の仕方と共に出来る事が増えていく。
大人の誕生日は衰退、子供の誕生日は発展で。
親子遠足を響汰、澄が参加する事で楽しめた。
だが、響汰は知っている。
想夜歌の誕生日が間近に迫り、母親が参加出来ない事を。
そこで、他のママ友に協力して貰って最高の誕生日を開催する。

物語はママ友として澄と不思議な縁を結び、日々最愛の妹、想夜歌の為に邁進する響汰。
保護者参加型の遠足会に想夜歌の誕生日会と、今回もイベントが目白押し。

これほど、想夜歌のためを思って行動したとしても、やはり実の親がいない心の空白を埋めるのはなかなかに難しい。
しかも、響汰と澄の頑張りも知らずに批判してくる心無い輩がいたり、響汰の母の子育てへの諦めが語られる場面には、暖簾に腕押しのような痛切な無力感が苛む。

しかし、そんな状況だとしても、澄の応援を受けた響汰が、子育てに臆病になっていた母の背中を押す事で、自分の子育ては間違ってなかったと自己肯定出来る瞬間もあり、優しく頭を撫でられたような多幸感を感じる瞬間もあった。

そして、柊や瑞貴といった子育てに理解を持つ仲間、弟と仲良くしてくれる友達が居てくれるのも響汰、澄にとっては、大きな救いになっている。

自分達の毎日の子育てという名の戦いはけして孤独ではない。

育児に全く関心を持たない母親を恨む響汰。
ママが大好きなのに気を使って甘えられない想夜歌の為に一肌脱ぐ澄の姿。
複雑な感情が入り混じりながらも、自分のすべき事を真剣に妹弟にしてあげられる真心が、心にゆっくり温かく染み渡る。

保護者参加型の行事で子供達と楽しいひとときを過ごす二人。
昏本家、暁山家両家の家族関係が明らかになる中で、大好きな母親と一緒に参加できなくて、想夜歌がとても寂しがっていることに気づいてしまう響汰。
想夜歌と郁の「親」という立場だ。
当たり前である。
兄として、姉として愛することは出来る。
心を籠めることは出来る。
だが、「親」というものは逆立ちしたってなれる訳じゃない。
そして子供と言うのは純粋であり、時にその純粋さが自身を傷つけるのである。

しかし、親の代わりにはなってやれないが、想夜歌が喜ぶような事は、多忙な生活の中でも、常日頃考えていて実践する事は出来る筈だ。

いつもだったら、一人で抱え込んでいたかもしれない。
だが、今は違う。
自身も似たような境遇だからこそ分かってくれる澄は、子供として拗ねた響汰の内面を察してくれて。
自分達のようにはなるなと励まして。
その励ましでもう一度、正面から母親と向かい合う事を決める。

酒の力を借りず向き合い、腹を割らせて聞き出したのは不器用な母の愛の本音。
毒親である自身の両親と同じ血という事実があるからこその臆病さ。
それでもきちんと子供を愛している、という本音。

今は未だ弟妹という鎹を通してしか関われぬ物の、誕生日という大切な1日を、気の知れた仲間達と盛大に祝ってあげてやれる。
親が居なくても、弟妹達の心が伸び伸びと健全に育まれますように。
そんな切実な確かな願いと共に。

全ては想夜歌の未来が曇らない為に行動を起こす響汰の勇姿を見届けたいのだ。






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