見出し画像

読書記録:スパイ教室05 《愚人》のエルナ (ファンタジア文庫) 著 竹町

【その愚かさも過去さえも覆し、自分らしく輝く為に】


【あらすじ】

"不可能任務"専門機関『灯』、解散の危機が襲い来る――!

「寄越せ――お前たちのボスを」全スパイ養成学校のトップ6で編成された機関―鳳―はボス不在という問題を抱えていた。
そこで目をつけたのは凄腕のスパイ、クラウスだった。チーム―灯―に崩壊の危機が訪れる――!

Amazon引用

エリート集団で形成された「鳳」と落ちこぼれチームで形成される「灯」が、優秀なクラウスを巡って熾烈な争奪戦を繰り広げる物語。


養成学校の成績トップで形成された「鳳」は、ボスが不在の為、優秀なクラウスを要求してきた。
実力が雲泥の差があろうが、それでも易々と自分達のボスを渡す訳にはいかぬと足掻くエルナ達。
決戦は、龍魂城塞で、機密文書を奪取する事。
劣等感を抱きながら、自分の武器が燦然と輝く闘い方を模索する。
自らの不幸体質の謎が判明したエルナ。
たとえ、自作自演であろうと、自然に起こった事だろうと、彼女にとってはなくてはならぬ必要な不幸。

極東の小国、龍沖。
世界の西と東を繋ぐ中継点であり、様々な思惑を持つ者、それぞれの立場を持つ者が集うこの地に、クラウスと「灯」の少女達の姿はあった。
「蛇」の思惑は未だ見えず、けれど「紫蟻」による虐殺のせいで、世界は大混乱に陥り始める。
本格的に動き出されたのなら、もはや手遅れ。
しかし、各国のスパイ機関は次々と新人を前線に投入するしかなく。
この世界では命の価値など最も軽くて安い。
いくらでも代替可能な物で。
それ故に、性急に塗り替えられ始める、スパイの世界の勢力図。

だが、不可能任務を達成したとはとても思えぬほどに、「灯」の少女達は今日もまた未熟。
スパイと思えぬ程に姦しく、任務は失敗してばかり。
そんな彼女達の前に、新たなスパイの舞台が現れる。
その名は「鳳」。
ボスの殉職による不在によって、暫定的にボスを務める、リーダーのヴィンドは冷たく告げる。
最強のチームと最強のボスが組む事が最良。
だから、クラウスの身柄を渡せと。
無論、それを唯々諾々と受け入れる訳にもいかない。
ティアの機転により合同任務中の引継ぎと言う体裁へと形を変えて。
「鳳」との対決へと持ち込む「灯」。

そして、改めて考えさせられる、リリィ達に足りないの物とは何か?

それは「詐術」。
養成学校の卒業前にしか習えぬが故に彼女達は辿り着けなかった、自分だけを騙すスタイル。
自分の特技と騙しを掛け合わせた自分だけの武器。これまで一般的な技量しか持たなかった彼女達のいわば必殺技とも呼べる武器。
しかし、気付いたからといって一朝一夕に手に入る物でもない。

方向性は未だ未知数で。
けれど、それでも試行錯誤を繰り返して、身に着けるしかない。
機密を巡る任務、その中で繰り広げられる「鳳」との戦い。
その中で、自身のトラウマとコンプレックスを越えるべく、挑んでいく「灯」の少女達。

クラウスにボスになってもらう為に、「灯」と戦闘。
リーダーのヴィンドとエルナが最後に対峙し、人となりを詮索され、ミュンヒハウゼン症候群をよそおい、姉達に助けて貰えるから不幸を招くように自然と行動していたと指摘される。
それは、痛烈な事実であり。
エルナは火事で一人残った事への罪悪感を抱えていた。
その罪悪感は彼女の中でずっと燻ったままだったが、それを活かせる場面がやっと、到来する。

エルナを襲う事故に自作自演が多く含まれている事。
心の平衡を失っている事。
それを自覚している事。
それでも、なお一人で戦おうとした事。
全てが一直線に繋がり、その不幸が意味を持つ。
周りを一切合切関係なく、不幸の坩堝へと巻き込む彼女だけの力をどう活かすべきなのか?

チームの脆いポイントに気付かせ、危機感を煽る為に自らで、事故を招いていた事実。
不器用すぎる彼女の優しさと暖かさが、チーム「灯」に再起の炎を宿す。
養成学校の落ちこぼれ上がりの彼女達が、劣等感を抱えながらも。
圧倒的強者に立ち向かう姿は、これまで数々の不可能任務を達成してきた経験の蓄積の集大成と言える。
不格好ながらも諦めが悪い彼女達の絆が、弛まぬ努力の末に、ようやく成果の芽を出す。

不幸体質のエルナの本質はまさに愚人といえるが、愚かさも愛せるようになった彼女の真の成長が、チームに良い作用を与えていく。
壊れるような哀しい過去さえも受け入れて。
その歪さも愛し抜いて。
可哀想な不幸体質な女の子ではなく、愚かでずるい、強かに立ち回るスパイの豪胆さを手に入れた。

そして訪れるは、最悪にして最驚のエピローグ。
迫り来るは、人の心と言う最大の弱点を突かんとする凶悪な脅威。
舞台となるのは霧に煙る紅茶と王室の国。
自分達の居場所を奪われる訳にはいかない。

自らのルーツを知り、壊れて歪んだ心で、大切な居場所を守り切れるのだろうか?









この記事が参加している募集

わたしの本棚

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?