自殺企図後にかけるべきでない言葉

この記事は2166文字です。


最近は、自殺とみられる死の報道を目にする機会が多く、

心を痛めた方もたくさんいらっしゃると思います。

センセーショナルな報道や憶測ばかりでは不安が募ります。


ここでは自殺を図って助かった人がいたとして、

その人にかけるべきでない言葉についてお話しします。

するべきこと、した方がいいことを考えるのは難しいです。

でも、してはいけないことをしないという関わりもあります。



かけるべきでない言葉

スマホ付属のイヤホンのコードを使い、死ぬつもりで縊首をした人がいたとします。コードは体重を支えきれず切れたため自殺未遂に終わりました。
市販の風邪薬を10錠飲んで死のうとした人がいたとします。
一時的に何らかの身体的症状はありましたが、命に別状ありませんでした。


前述の場合、次のような言葉はかけるべきでないです。


「イヤホンのコードじゃ死ねるわけない。どうせ本気じゃないんだろ」
「風邪薬10錠じゃ死ねないよ。睡眠薬だって、今は少し飲んだくらいじゃ死なないようにできてるんだよ」


致死的予測に基づくか

客観的に致死性が高い手段の場合は、当然自殺のリスク因子となりますが、

致死的予測に基づく行動かどうかもリスクとなります。

致死的予測とは「このくらいやれば死ねるだろう」という予測のことです。

客観的に致死的かどうかとは別の話になります。


事例の場合、

イヤホンのコードで首を吊れば死ねると本人が本気で思って行動すれば、

その行為は致死的予測に基づき、コードの強度は別問題です。


風邪薬を10錠飲んだら死ねると本人が本気で思って行動すれば、

それも致死的予測に基づき、風邪薬の致死量は別問題となります。


根性論は逆効果

「生きたくても生きられない命があるのに、何て馬鹿なことしてるんだ」
「次にこんなことしたら助けないぞ」

これもかけるべきでない言葉です。

視野狭窄に陥った状態では、

死ぬ以外に現在の辛さから逃れる手段が見えていません。

この言葉かけは、余計に相手を追い詰めます



自殺と自傷行為は異なりますが、

根性論で訴えるのが不適切だというのは両者に共通しています。

自殺と異なり、自傷行為は非致死的予測に基づく行為ですが、

非致死的予測を誤って死に至ったり、

自傷行為が繰り返された結果、自殺することもあります。


伝えるより聴く

すべきでないことについて話しましたが、

何もできないのは、もどかしいものです。

できることなら何かしたい。助けたいと思いますね。


できる方法としてTALKの原則というのがあります。

この原則で、自殺について「はっきり聞く」(Ask)のを

意外に思われる方もいるでしょうが、

希死念慮の程度や行動化リスクの評価には重要な情報です。

精神科では自殺の可能性のある患者さんには

必ず希死念慮について質問をします。

もちろん相手の心に土足で踏み込むような聞き方はしません。


しかしこれは精神科の医療者だからできたことかもしれません。

診断がついて、ある程度行動を制限できる病院という環境ならば、

医療者は最初から自殺予防に意図的に関わることができるからです。


家庭内でも原則通りにできたら苦労しないよ、という人もいるでしょう。

私もそう思います。

精神症状には日内変動や衝動性もあるため、

大丈夫かと思っていても、数時間後には事態が変わることもあります。

身近な人の変化に気づけるかどうか、正直なところ私にもわかりません。

無力だとも思います。


わからないなりにできること

わからないくせに記事を投稿するのはためらわれましたが、

わからないなりにできることもあります。

ほんの少しでも医学的知識をもつのは大切です。


致死的予測に基づいていれば、客観的致死性がなくても自殺リスクになる

と学んだのは、精神科に異動になり院外の研修に参加してからです。

それまでの私だったら、かけるべきでない言葉をかけていた可能性があり、

誰かを追い詰めることになっていたかもしれません。

医療従事者すら知らないこともあるのです。


「かけるべきでない言葉」を発する人はいます。

本人に直接でなくても、陰で言う人はいます。

知っていて言うのはもちろん悪質です。

知らずに言ったり、良かれと思って言っている場合も好ましくないです。


「かけるべきでない言葉」を耳にした人は、

自殺の当事者でなくても傷つくかもしれません。

あるいは、その言葉が影響力をもつ人によるものだとしたら、

その言葉が正しいかのように扱われ、別の誰かを傷つけるかもしれません。


不適切なことをしないという方法で

誰かを傷つけずに済むこともあります。


センセーショナルな報道を見たり、憶測で不安をあおるよりも、

自殺予防や自殺する人の心理状態について少し知ってみませんか。


■ 精神科医・樺沢紫苑先生の動画や書籍はおすすめです。


■ 松本俊彦先生は、自殺や自傷行為について詳しく解説されています。


■ 参考

日本精神神経学会 精神保健に関する委員会編著「日常臨床における自殺予防の手引き 平成 25 年 3 月版」(社団法人日本精神神経学会 2013年)

自傷行為の理解と援助 」- 日本精神神経学会




デリケートな話題なので、

ご不快な思いをされた方もいらっしゃるかもしれませんが、

私の少ない知識と経験から思うことを、

私なりに言葉を選んでお伝えしたつもりです。


長文お読みくださりありがとうございました。









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