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私のプロフィールその3 〜既存の慣習を打ち破る仕事がしたい〜

私のキャリア軸とジョブローテーションの恩恵

営業現場から異動した私がやってきたのは事務システム企画。保険会社の事務仕事をシステムの側面から支える部署だ。

異動直後は「既存のルーティンを回す仕事」が7割、「既存の慣習を変える仕事」が3割ぐらいだったが、年数を経るにつれて「既存の慣習を変える仕事」の割合が増えてきた。(今だと8割ぐらい)

慣習を変えるというのは、先端テクノロジーを取り入れて効率化を目指すということだ。

意地悪な言い方をすると「失業者を生み出す仕事」である。場合によっては利害対立から激しいやり取りにもなる。人によっては私のことが死神に見えている人もいるかもしれない。だが、雇用を守ろうとしてテクノロジーを拒めば、船全体が沈む。何より顧客から見放されてしまう。

会社の未来のために汚れ役を引き受けなければいけない立場だ。これは役割として徹するしかない。

組織の外から事業全体を眺めて説得材料を集める必要がある。どこまでいっても平行線なら、上の人間に報告して動いてもらうなど、社内政治的な立ち回りも求められる。

この部署に来るまでの私は、会社に言われるがまま異動して仕事をこなしていた受身な人間だった。しかし、営業現場を知りエンジニアの気持ちも分かる状態でこの仕事を経験してみると、今後のキャリア展望が自分の中でリアリティを持って考えられるようになってきた。

「既存の慣習を打ち破るような、新しいものを生み出したい」というキャリアの軸が浮かび上がってきたのだ。今の部署で自分の志向に近い仕事ができることはただただ感謝である。

大きな会社というのは、自分のキャリアを決めるための猶予期間が中小よりも長い。転職を通じてITエンジニアと営業現場の両方を経験しようと思ったら、普通はスキルがゼロリセットされるので給料が下がる。ところが、ジョブローテーションの中では給料が変わらないまま仕事ができる。

転職エージェントの人によれば、8割ぐらいの人間はキャリアの軸が見出せていないと言われる。そうであれば、「とりあえず大企業で猶予期間を多めに確保せよ」というのはある意味合理的な思考である。

変革をもたらす仕事で活躍する人間の特徴

新しい技術を取り入れるということはルールを変える必要があるということだ。ある程度の規模の会社なら、社内規定という社内の法律のようなものがあって、その裏付けのもと組織は動いている。

変更するには然るべき手順を踏んで、上の人の決裁をもらわないといけない。仕事をしながら周りの人を観察していて気づいたのだが、活躍している人は法学部出身者が多い。ロジックやちょっとした言葉遣いのニュアンスに敏感なことは、この仕事においてとてもプラスに働くようだ。

蓄積された膨大なルールの束が矛盾を起こさないように気を遣うのも、法律的な思考そのものだ。

当然ながら、この職場ではロジックと数字が重んじられる。最前線の手を動かす人たちの仕事が感情労働であるのとは対照的だ。

将来の展望がない状態で延々と同じ仕事をやり続けると人間には負の感情が湧いてくる。そのような気持ちを上手くマネジメントするのは、なかなかに心をすり減らす仕事である。果たして、ゴリゴリにロジックを詰められるのとどっちが良いか。

言い換えると「どっちのストレスと上手く付き合えますか?」という話で、結局は好みの問題である。私はロジックを詰められる方がまだ良いなと感じる。

仕事を通じて見えてきた社会の非効率

今の日本社会には「医療情報の所有権が患者にある」という感覚がない。このことが社会的な非効率をもたらしていると感じる。

ある日、歯医者で歯科検診をしてもらったら虫歯を指摘された。治療方法について別の歯医者にも意見を聞きたいと思い問い合わせをしたところ、「あなたの歯の状態が分からないので再度検査する必要がある」と言われた。

私の手元には一つ目の歯医者から渡された紙の検査結果のみ。デジタルデータで連携できれば二重検査をする必要もないのに。こんな状態ではセカンドオピニオンが進むはずがないし、病院の予約がどこも逼迫して社会保障費が膨れ上がるはずだと思った。

もしスマホアプリで自分の病歴をすぐに引き出し、生命保険会社に提出できる仕組みができれば、大いに業務効率化が進むはずだ。紙で提出された書類の記載内容を、デジタルデータに変換してシステムに取り込む手間が丸ごと不要になるのだから。(それによって失業する社内の人間は抵抗するかもしれないが)

しかし、病院としては検査費用を稼げるから変えるインセンティブがない。医師会を票田としている政治家は当然変革に対して抵抗するだろう。

現段階で保険会社が主体的にできる業務変革は、医師から紙の証明書類が提出される前提のもと、いかにして入力を効率化するかになる。もしリーダーシップを発揮する人間が現れて、医療業界の電子化が進めば、入力効率化への投資は全て過去の遺物となる。

変革を志す人間が生命保険業界を離れるのは、主体的に改革できる範囲が限られているからではないかと推測している。

それでも私が生命保険業界に留まっているのには理由がある。それは生命保険が金融、医療、IT、法律といった分野が合わさった総合芸術だからだ。勤続年数が10年を超えた今でも、常に新しい発見があって知的刺激が途絶えることがない。

この仕事を20年以上続けている大先輩でも、「まだまだ分からないことだらけ」というぐらいなので、生命保険という分野がどれほど奥深いのかよく分かる。

この仕事に至るまでの遍歴はこちら↓

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