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【いつメロ No.8】いつかの私へ

拝啓 いつかの私へ

この手紙を読むとき、私は何歳でどうなっているか分からない。
社会に出てバリバリ働いているかもしれない。中年になって家族がいるかもしれない。独身を貫いて何かを極めているかもしれない。そんな想像を膨らませていると、何だかワクワクハラハラしてきたな。
けど、どんな自分になっても、この手紙を書くに至った経緯は覚えていると思う。その状況になったから、この手紙を見つけ出して開いているんでしょ?
とはいっても、私は忘れやすいところがあるから念のために経緯も書いておく。文を書くのに慣れてないから、簡単に書けないけど。


この手紙を書いているのは、18歳で大学生になる前の私。

つい最近までは学校でも家でも受験の話題がほとんど。春からなんだか、住む世界ごと変わったような気分。そんな中で、先生と親のある言葉に違和感を覚え始めた。「良い大学に行って、良い会社に勤めなさい。そうなれば、大抵のことは困らない」。よく聞くこの言葉。この頃の私は素直に信じられるほど、無知ではなく純粋ではなかった。テレビで見る不景気の話や日本の将来の話。SNSで見かける社会への絶望とヘイト。そして、夢を追うことの現実。それらが私の目の前の世界を汚した。この受験勉強の先にそんな未来しかないなら、なんで頑張っているのかと自問してしまうことが多くなっていった。

そんな心と空が曇りがかっていた朝。いつもの通学路で出会った。
交差点の脇でいつもギターを弾いて歌っているあの人。普段は気に留めていなかったけど、この朝は違った。歌詞がまるで今の自分の状況と似ていた。信号待ちの間に聞こえたその歌詞が私の何かを突き動かした。気づけば、私はそのメロディを口笛で奏でながら学校に向かっていた。

その日の帰り。あの歌がよく知ってるロックバンドの曲であることを知り、何度もリピートしていた。優しいメロディでありながら、歌詞は現実のネガとポジを行き来していて、最後はそっと肩を叩いてくれる。おかげで、私の心に日が差し込み、自問は未来のことへと変わった。その出会いを境に、私は自発的に受験対策に取り組むようになり、親と先生からは「変わったね」と言われるようになった。

それから、センター試験と二次試験を経て、無事第一志望の大学の合格を勝ち取った。周りが喜んでくれたこともあり、素直に嬉しかった。積極的に頑張ったこともあって、これまでに感じたことのない達成感と充実感を感じた。この気持ちをずっと忘れたくない。未来の私にも覚えておいてほしい。そう思ったから、こうして慣れないことをしている。というのが半分で、あとの半分は、あの曲の歌詞に影響を受けたのもある。

この手紙をあのアルバムのケースの中にCDと一緒に閉まっておいた。このためにアルバムを買った。このケースを開いた時、まだ聴けるなら、あの曲を聴いてほしい。あの曲なら、たとえ心が曇っても聴くたびに日が差し込むから。大学受験を戦い抜けた私が言うから間違いない。どんなに心が曇っていても進んでいけるって、私が信じてるから。何が起きても負けないで。

                      未来の私へエールを込めて

読んでいて少し恥ずかしくなった。これは受かった余韻にどっぷり浸っているな…。
それでも、過去の自分がこうしてCDと手紙という形で残しておいてくれたおかげで、思い出して取り出すことが出来た。こうして、手紙を読み返して曲を聴き直すことで立ち直れた。大切な場所と人を忘れずにいられた。

ありがとう、私。おかげで、また前を向けそうだよ。


                          Mr.Children/東京


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