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幼い頃の地下組織とテレパシーと。

私はまだ、10才くらいの小学生だった。

体育の時間だろうか?校庭で友達とサッカーをしていた。みんなが走って、ボールを追っかけている。私もあとから追いかけている。ふいに、私の前にボールが転がってくる。私はそれを思いっきり蹴った。

「何やってんだよ!お前!」

私は友達からひどく注意をされる。みんなが白い目で私を見ている。「こいつ、余計な事ばかりするんだよな!邪魔ばっかりして!」後ろで数人の友達が、私に聞こえるように友達と話していた。

「あっちに行ってろ!」

私はキーパー役の大柄な友達に思いっきり突き飛ばされ、しりもちをつく。私はワケがわからなかったが、どうやらそれがラインから出たボールでありそれを友達が拾おうとしていたところを、私は何も考えないで思いっきり蹴ってしまったようなのだった。

私は何も言えず、ボーとひとりでただ、そのまま呆然としてた。まるで意思のない人形のように。友達は、人形の私に何を言っても無駄だと思ったのか何事もなかったのように、そのまま試合は続けられた。私はただ、ぼんやりとみんなのサッカーを見つめていた。

「お前はいつも、余計なことばかりする!
あっちに行ってろ!」

私の頭の中に、その言葉がインプットされた。

「ボクはいらなんだ」・・・・

そう思った私はひとり、ゆっくりとその場から歩き始めた。家に帰って、本の続きでも読もうかなと思った。みんなボクに気づきもしないで、夢中になってサッカーをしていた。先生に叱られるかな?親に叱られるかな?と思ったけど、でも、しょうがない。

ココはボクを必要としていないんだから・・・。

やがて私は現実に引き戻された。目が覚めた時、それが夢だとわかった私はまるでタイムマシーンにでも乗っていたかのような気分だった。夢の中の私は、なんの寂しさも虚しさも感じていなかったのに、現実の私は、深い哀しみの森に迷い込んでしまったような気がした。そして空虚のような夢の余韻がなかなか消えないでいた。

あれは実際にあった出来事だ。夢で見たというだけで、現実にあった過去の出来事だ。よくは覚えていないけれど、何かの検索にヒットしたように、私の記憶からそれは抽出されていた。

「お前は余計なことばかりする!
あっちに行ってろ!」と。

私は昔からそうだった。いつも良かれと思った行動が、いつも裏目に出ていた。いつもは教室の隅にいて、いるのかいないのかわからない存在のくせに、たまに何かすれば「余計なこと」になっていた。空気のような私は、何もしないでいることが、常に正しいように思えた。

私はいつも、どういうわけか、みんなから浮いた存在だった。まるで私だけ尻尾でも生えているかのような、どこか間違った存在。そんなふうに、みんなと決定的に見えない何かが違っていたのかもしれない。

たぶんそれは(今思えばだけれど)私がほとんどしゃべらないことが大きな原因のひとつだったように思う。何を考えているのかわからないヤツ。そう思われていたのだろう。実に単純な理由だ。でも、その本人である私にとって本当の理由は、たぶん、永遠にわからない。

もしかしたら、これは誰でも経験のあることかもしれないけれど、小学生の頃、私はいつも、誰かに監視されている存在だと思っていた。

本当は私は特別な存在で、いつも謎の地下の秘密組織が私の行動を監視していて随時それを報告している。今朝は朝食にパンを食べたとか、学校には7時20分に到着したとか。あそこで友達がヒソヒソ話しているのも私の行動を密かに報告しているんだと。

もちろん、これは私の空想の世界であって、実に独り善がりで勝手なものだった。たぶん、あの頃の私は、「必要のないもの」の存在から「必要のあるもの」の特別な存在になりたかったんだと思う。小さな私の必死の心の抵抗だったのだろう。

だから私は、いくら友達から「お前は邪魔だ!」と罵られても”ボクは見えない地下組織に守られているんだ!”と心でいつも叫んでいた。謎の地下組織だけが、ボクの見方だった。

今思うと笑ってしまう。とても哀しいくらいに。私が地下組織なんて存在が、どこにもないことに気づいたのは、いつまでたっても地下組織が私を助けてはくれなかったからだ。

あれはちょうど小学5年生の頃、ちょっとしたバス旅行があった。誰もがみんなウキウキしていて、先生からはバスの座席は好きなところに座ってもいいという自由が与えられていた。仲良し同士が互いに隣に座り合う。もう、お菓子なんか出したりしている。楽しいおしゃべりの花が、あちこちに咲き始める。

そして、ボクのとなりの座席だけが・・・
なぜかボクのとなりだけが、ポツンと空席のまま残った。

1番の仲良しだと思っていたケンちゃんでさえ、ボクじゃない友達のとなりで楽しそうに笑って座っていた。ボクの隣には、とうとう誰も座ってくれなかった。”ひとりなんだ”と思った。いや、そう思い知らされていた。

あとにも先にも、あの頃、あれが私の一番悲しい出来事だったように思う。

先生が「みんな座りましたか!出発しますよー!」と明るく言う。「はーい!」とみんなが元気よく言う。まるでボクのことを、誰もがみんな知らないみたいに。

私はひとり、窓におでこを当てて、ちょうど今日みたいな青空を眺めていた。目からこぼれおちるものを、一生懸命に堪えながら、心の中でずっと、ずっとボクはテレパシーを送っていた。

「早くボクを助けて、
早く、早く、ボクを助けて・・・」

地下組織から応答はなかった。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一