コップ一杯

コップ一杯

マガジン

記事一覧

相変わらずな僕ら

白々しい夏蜜柑の輝きを見ていた。薄い鼠色の雲の下で黄色い球体が今、何の光を反射しているのか分からなかった。彼女が買い物に出た直後に雨が降り始めた。傘を取りに帰っ…

ハレルヤ

「そんなの俺もあったよ?」 引き金にしかならない理解共感を誰もが軽はずむ 最低賃金に燻るコンビニの惣菜は酒に良く合う 昼間の公園で鳩の群れから掠めたパンくずは 失…

睡眠薬

僕らは睡眠薬だ 眠れない夜にしか互いに頼らないだけの 依存を肯定し合う意味での冷徹が 見透かした様に輪郭を弛緩させて 仮にその思惑が奥の奥にまで届いたら 瞼を下ろ…

人間でありたい

人間 夢を目指し 夢に根差し それを今と呼び 苦楽の営みの日々 溢れる笑みに 溢れる涙に 使う表情筋の違いに 振れる琴線は同じ 君がいて良かった 君がいなくても良かった …

明日が来ないってだけ

十字路のどれにも花が手向けられている 夕陽の赤は炎のようだし流血のようでもあって ただただ厳粛に終わらせようとしているのが分かった 万引きした息子を叱り付ける母親…

記憶

捏造されていない記憶を探るのは 捏造されているであろう僕の頭だ あの娘はあんな言葉を言っていただろうか 視界の端で風に揺れていたシャツの色 そもそもシャツだったろ…

頭の上に雨雲が当然な顔して居続ける 後ろは既に晴天で目の前ばかりが土砂降りだ 傘は無いのが世の常と言わんばかりに野晒しの 花も草木も額突いて「明日くらいは晴れます…

チアノーゼ

鈍色の縄 銀色の首筋 赤紫の分水嶺 あらぬ方向へひしゃげた小指で誰との約束を夢想した 室内に張り詰めたあらゆる琴線の一本で首を擦った 思い出を鎹にしたミミズ腫れで僕…

相変わらずな僕ら

白々しい夏蜜柑の輝きを見ていた。薄い鼠色の雲の下で黄色い球体が今、何の光を反射しているのか分からなかった。彼女が買い物に出た直後に雨が降り始めた。傘を取りに帰って来なかったから、なにか理由があるのかもしれない、と思う。徒歩だとスーパーまでは10分程掛かかった気がする。
ここ最近、TVは付けっぱなしだった。特に面白そうな番組はやっていなかった。最早それは動きのある様々な彩度でしかなくなり、消音ボタン

もっとみる

ハレルヤ

「そんなの俺もあったよ?」
引き金にしかならない理解共感を誰もが軽はずむ

最低賃金に燻るコンビニの惣菜は酒に良く合う
昼間の公園で鳩の群れから掠めたパンくずは
失敗続きの曲線をぼかす事さえ難しい

真冬の王子公園に散らばっていた蛾の死骸を改めて数え直す
同級生の毒気のない笑い声と靴底に千切れた羽も1とする
見れば錆びたフェンスにかつての栄光の粒子が朽ちている
だからこそ遺書は多分ここにだけ存在を

もっとみる

睡眠薬

僕らは睡眠薬だ
眠れない夜にしか互いに頼らないだけの

依存を肯定し合う意味での冷徹が
見透かした様に輪郭を弛緩させて
仮にその思惑が奥の奥にまで届いたら

瞼を下ろし沈潜の刹那に
苔生す皮膚の日溜まりで呼応し合えただろうか

僕らは睡眠薬だ
寄る辺ない日に黙って越冬の準備をしている

撫で付ける様にカーペットの起毛を揃え
自分の身体に見合う分の熱を拵えて
剥き出しの感傷だけ飢えて凍えてくれないか

もっとみる

人間でありたい

人間
夢を目指し
夢に根差し
それを今と呼び
苦楽の営みの日々
溢れる笑みに
溢れる涙に
使う表情筋の違いに
振れる琴線は同じ
君がいて良かった
君がいなくても良かった
どっちを遣う人生か
どちらも遣う人生だ
死ぬ気になれよ、と宣うなら
首を括るロープを買った彼は
今の時間の価値をいったい
どの時間に当て嵌めたら元が取れるか
馬鹿野郎が

オーバドーズ 孤独と癒着 夜とは密接
愛する人に渡す言葉の

もっとみる

明日が来ないってだけ

十字路のどれにも花が手向けられている
夕陽の赤は炎のようだし流血のようでもあって
ただただ厳粛に終わらせようとしているのが分かった

万引きした息子を叱り付ける母親の横を
懐に包丁を忍ばせた学生が通り過ぎる
やはり厳粛に終わらせようとしているのが分かった

惰弱な精神の上にも爆弾は降ってくる
戒めの為に読み掛けの小説の栞を目次にまで戻せば
懐かしい感傷の光景に不穏な新鮮味を感じる 自慰を禁ずる

もっとみる

記憶

捏造されていない記憶を探るのは
捏造されているであろう僕の頭だ

あの娘はあんな言葉を言っていただろうか
視界の端で風に揺れていたシャツの色
そもそもシャツだったろうか
そもそも風など吹いていたろうか
そもそもあの娘なんていただろうか

辿る記憶の末端は常に揺らいで
過去に首を絞められるのは行き過ぎの追慕だ
そうやって割り切れない不確かさが
しかし確かに何処かに根を張って
無自覚の紗幕に都合の良い

もっとみる

頭の上に雨雲が当然な顔して居続ける
後ろは既に晴天で目の前ばかりが土砂降りだ
傘は無いのが世の常と言わんばかりに野晒しの
花も草木も額突いて「明日くらいは晴れます様に」

そんな希望を淡々と吹き荒んでは削り取り
いじける心にこれ以上雨を降らせて何になる
根腐れするのを待っている、とか言わなくても分かるよ

産まれた時の母の血も悔し涙の行く末も
ぜんぶお前に帰結して巡り巡ってまたお前
些末な一滴

もっとみる

チアノーゼ

鈍色の縄 銀色の首筋 赤紫の分水嶺
あらぬ方向へひしゃげた小指で誰との約束を夢想した
室内に張り詰めたあらゆる琴線の一本で首を擦った
思い出を鎹にしたミミズ腫れで僕らは終わる
美しくも 汚くもなく ただただ終わる

老い耄れた犬の腹部 偽りの道徳
防災行政無線から流れるキリストの教え
欠損した心を埋めるならプロテーゼ

互いの依存性が精密な真夜中に密葬される頃
茶請けのピルを噛み砕いてしまえば

もっとみる