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「LOVE ACTUALLY」 真実の愛は「TRUE LOVE」。

大学生の頃、私には好きな人がいた。
ゼミの教授だった。
若くて知的で少し抜けたところも可愛くて、そしてすでに奥様がいた先生のことが大好きで、卒論の相談などとかこつけて先生とおしゃべりをしによく研究室を訪ねていた。
色んな話をした。ゼミのこと、授業のこと、課題のこと、将来のこと…
先生とのおしゃべりの時間はたとえどんなに短くても、2人きりでなくても、本当に楽しかった。

そんな中、当時の私には唯一理解できない彼の発言があった。
彼は、「LOVE ACTUALLY」という映画が嫌いだと言うのだ。
心温まるクリスマスラブストーリーの代表作とも言えるこの作品は、年齢も立場も環境もそして人種も違う様々な男女の恋愛模様を描いたもので、クリスマスというロマンチックなシチュエーションも助けて、サントラを聴いただけで気持ちが高揚するような、いわゆる万人受けする「素敵な映画」だ。

私はもちろん、他のゼミ生(女子に限る)たちもこの映画のことが大好きだったので、あんなに素晴らしくときめいて感動する名作を嫌うなんて「先生冷たい〜!」などとはしゃいでからかったりしていた。
英国の文化を研究するゼミということもあり、この作品について話す機会は幾度かあった。

先生は、この映画のことを「あざとい」と言って嫌っていた。
白人も黒人も、英国人もアメリカ人も、立場が違っても言葉が分からなくても、人はみんな愛し合うことができる、世界は愛に溢れているというメッセージを「綺麗事だ」と言ったのだ。

当時、世の中の、社会の何たるかも知らない甘ったれの私は「そんなことない!世界中のみんなが人種や立場や言葉に関係なく愛し合えるんだ」と本気で心から信じていた。

あれから10年以上経った今。
あの時、彼の言っていたことに納得している自分がいる。
あの映画で語られていることは綺麗事だ。
人は今も世界中で争い合い、差別をし、偏見に満ちた目で他者を批評し、立場の違う人間との大きな価値観の差を埋めることができず、傷つけあっている。
いつまでもいつまでも、他者を理解すること、赦すこと、愛することができず、今日も誰かが誰かを攻撃し、その復讐、復讐、復讐…終わりのない争いで傷つけあっている。
「LOVE ACTUALLY」で描かれていることなんて、映画の中の作り物。
あんなにキラキラした美しいものは現実にはないし、あってもそれもまた作り物。本物ではない。
社会の厳しい荒波に揉まれに揉まれまくった私の心は荒みきり、半ば諦めのような気持ちでそのような考えを持つようになっていた。

だが、クリスマスの今日、「LOVE ACTUALLY」を観た私は初めてこの映画を観た時と同じように大量の涙を流した。
いや、「同じように」というのは少し違うかもしれない。
十何年もの歳月をかけて、傷ついたり、成長したり、現実を知ったり、自分を知ったり、諦めたり、期待したり、また諦めたりしながら形を変えた私の心は、あの時と同じものを観たとしても同じ感情を生むことはない。
それでもこの映画で描かれている「愛」に涙せずにいられなかった。
それは人間が心から追い求めているものであり、理想であり、そうであれると今でも信じているからなのかもしれない。
確かに綺麗事であり、美しい部分だけを切り抜いた都合の良い映画かもしれない。
それでも、それが分かっていてもやっぱりその「愛」の美しさに、暖かさに、深さに感動してしまう。

「綺麗事」「夢物語」だと嘲笑うのは簡単だ。
それでも、何度観ても、涙が溢れてくるのは、やはりこの「愛」をずっとずっと追い求めてるから。

先生はそうだっただろうか。
「嫌いだ」と言ったのは、それもやはり「愛」についてしっかりと考えたからなのではないだろうか。

ごちゃごちゃ考えてしまったけど、やっぱり私は「LOVE ACTUALLY」が好きだ。
都合良く描かれた、汚れのない、夢物語の…だけど本当に美しいこの愛の物語を踏みつけて捨てる程まだ私は愛に諦めがついていないみたいだ。

空港を夢中で駆けて、大好きな彼女に想いを告げる少年の心を胸にしまい、荒んだ世の中を生き抜いていきたい。


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