ブックレビューvol.2 何もかも憂鬱な夜に

●出会い

もう何年前になるだろう。数年前にオススメの本をネットで探してたときにこの本の存在を知って、買ったはいいものの結局読まずに何年も捨てることもできずに鎮座していたのがこの本です。買ったけどもう読まないとおもう本は過去にだいぶ処分した中で、しぶとく生き残っていたのは、何か意味があったのでしょう。

いつか私を救ってくれるという期待と共にずっと捨てずに残しておいて良かったです。

「深い河」のように読み返すほどかと言われればそうではないかもしれないけど、読んで多くの気づきがある本でした。

今回も最後までお付き合いいただけると幸いです。

●こんな方におススメです

・ちょっと重めの本が読みたい気分の方
・自分に中二病気質があると察している方
・生と死、罪と罰というテーマに関心がある方

●感想

色んな感想を持ったけど、個人的には犯罪心理の面白さを感じた1冊だったようにおもう。

この本のテーマ的には、罪と罰とか生と死、死刑制度について語られるって後ろの帯には書いてあるけど、そこらへんの感想はきっとすでにいろんな人がレビューに書いているだろうから、あえて私はそこを外して。

自殺に走る人の心理とか、犯罪してしまう人の心理って、きっと生で触れることはなかなか無いと思うんだけど、そういう人の言動や心理というものがものすごく巧みに表現されていたとおもう。

特に、主人公の親友が自雑する直前の日記は、追い込まれた人の心理ってこうなんだ、というのがものすごくリアルに表現されてた気がする。

他にも、死刑囚が最後に刑務官に語る事件の真実の部分も、こんなにリアルに表現できるんだ、っていうくらい言動のおかしさも含めてものすごくリアルで(私は現実的にそういう人と接したことはないから、リアルかどうかは実際には判断できないんだけど、でも、なんかすごいリアル感があるな、と思った、というのが正しい表現かもしれない)、この人の表現や言葉の使い方がすごく好きになった。

色とか匂い、微妙な人間の心理みたいな、普通は感覚でしか感じ取れないものを言葉にして表現するのがすごく上手い作家だな、と感じた。

心理的なことをいろいろ勉強した今だからこそ、自殺に逃げざるをえない人も人殺しに走る人も、根本的にはインナーチャイルドで、みんな傷を抱えているんだろうな、ということがわかるけど、

そういう人がいること自体は全然問題じゃなくて、私はむしろ、そういう人たちにスポットライトを当てることによって、世の暗部を描き出すことにすごく共感できる。

深い河のレビューにも書いたけど、綺麗事とか、みんな幸せになれるとか、そういうことを語るばっかりじゃなくて、こういう小説みたいに、救いようのないところまで追い込まれてしまった人の気持ちを描き出すことで、それに救われる人もいるんじゃないかなっておもうんだよね。

もっとわかりやすく言えば、成功体験とかシンデレラストーリーばかりじゃなくて、こういうふうな負の感情を描き出すことによって、私もこういう気持ちになったことあるな、と共感する人がたくさんいるだろうし、自分では落ちてると思ってたけどそこまでじゃないな、と思う人もいるだろうし、たくさんの人が自分の感情をあっていいものと認めるきっかけになるんじゃなかろうかと思う。

だから、あえてこういう負の部分をこれでもかというほど描き出してえぐり出す小説が私は好き。

太宰治の小説とかは私の中でその典型。

なんとなく、落ち込んでる時って、私は綺麗事を言われるより、ただただその感情を認めてもらったり共感してもらう方が楽になれる気がするから、そういう時にあえてこういう小説を読むのは、個人的にはすごくいいと思う。

落ちてる時とか救いようのない気分の時に読むことをお勧めします。

余談だけど、巻末レビューを又吉が書いてて、ぶっちゃけ又吉のレビューだけでもこの本買う価値あったと思うくらいすごいよかった。

個人的にはこの本の作者の言葉遣いよりも又吉の文章の方が好きだなって思ったくらい。

おまけにしてはもったいないくらいものすごくいいレビューだったと思うので、

又吉の世界観好きだわーと思う方は、又吉の本読むのもいいけど、この本買って巻末レビュー読むのでもいいと思う。

とはいえ、又吉の本同様、著者の文体も普通に好きだなと思ったので、他の著作も色々読んでみようと思う。

普通じゃない人の心理をここまで緻密に描けることが一番の衝撃だった。

おまけ。死刑制度とか法について。

私は死刑制度がどうとか、そういうことを語るつもりはありません。

昔からあんまりそこに興味ないというか、そのテーマなら世の中に論じてる人や研究してる人が山ほどいるから、あえて私がやらなくてもと思うし、普通にあんまり興味がないからです。

でも、法律を仕事にしてる人間の端くれとして、少しだけ法律を運用するってどういうことか、について触れておきたいと思います。

この本の中でも、法律には明確な線引きがなくて、死刑一つとっても、どこからが死刑でどこからは違う、という明確な線引きはなくて、結局は個別に判断される、曖昧さが災いすると語られる部分があるけど

法に線引きがないというのはその通りで、むしろそこが、法の面白さであり法律家の腕の見せ所なんじゃないかと思う。

曖昧さはむしろ残って然るべきで、その曖昧さがあって、人の判断に委ねる部分が残るからこそ、一つ一つのケースでより「社会的に正しい」とされる判断が下るんだと、私は思ってます。

「社会的に」と書いたのは、法によって下された判断が必ずしも人間心理的に正しいとか正義だとは言い切れないから。

私は、法が社会を裁いているというよりは、むしろ法を運用する法律家が社会を裁いていると言っても過言では無いと思います。

言葉ってそれくらい、人によってどうとでも解釈を変えられるものだし、

ある1つの法律に対して、それをどう解釈するかとか、どんな事実を拾って当てはめるかは、本当に人の裁量になることが多くて

起こった事件は一つでも、導き出したい結論によってその事実の中でどこにスポットライトを当てるのか、その結果どんな法を適用するのかを選び抜ける所に、法の面白さがあると思います。

明文化された法なんて、大して役に立たないもので、実際はそれを運用する弁護士とか裁判官の裁量というか、そっちの方がよほど大事だと個人的には思ってます。

死刑制度も同様の基盤のもと、大いに曖昧さを残している制度なので、

そんな目線で、関係者それぞれの立場や状況、心理状態などを加味した上で自分だったらどういう判断をするかな、と考えながら読むのも面白いと思います。

このテーマについては本当はもっと語りたいことがあって、例えば被害者が精神鑑定で黒になれば罪は軽くされるべきなのか、病気だってことを理由に罪が軽くなるなら、みんな病気ってことにしちゃえばいいことになるわけで、それが社会的に認められるべきなのか、とか、そういうテーマも結構好きです。

この話は、またどこかで、別の本を読んだ時にでも機会があれば書きたいと思います。


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