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【創作小説】山田家嫁姑ソラの虹②

前作は、こちらに収めてあります⬇︎


普段から、とても静かな静かなマンションだった。

義弟の「ミツにいに」は、私たちとしーちゃんが、ドライブに出かける前夜に亡くなっていた。「急性心不全」。
まだ、53歳だった。
「ミツにいに」は、同居していた私たちの義母、しーちゃんを残して、天国へと旅立ってしまった。

ミツにいには、善い人だった。

常識的で、しょっちゅう冗談を言っていて、明るくて、けど、騒ぐ人ではない。
普段、警備員をやっていて、警備のないときは、ずっとお酒を飲んでいるような人だった。

正月など、一族の集まる場では、珍しい、美味しいお酒をみんなに紹介して、一人その場を盛り上げる役を引き受けて、義母のたった一人の孫である、「あーちゃん」などをも笑わせていた。野球や、映画、テレビの芸人の話……。

猫や、犬に好かれる人で、数年前に山田一族で「サファリパーク」へ行ったときに、「猫の家」、「犬の家」で、犬猫に好かれて顔をぺろぺろ舐められた。
それからはずっと、なぜか猫に特化して「猫と住みたい」、「猫と住みたい」と言っていた。

しーちゃんには、また、「猫と住まわせてやる」という約束を言われ、義父の死後、一緒に住むことになって住んでいた。
しかし、引っ越してから、それは、実現はしていなかった。理由は、義母の心のなかだけに収められている。

ミツにいにの死後、遺体は葬儀まで実家のマンションに安置されていた。
葬儀は次の日曜日。4日ほどある。

何日かのあいだ、私たちは、あっちへ行ったり、こっちへ行ったりで忙しく過ごしていた。
葬儀関係の場、役所、それぞれの職場、家……。

そんななかで、しーちゃんは、言うのだった。

「ねぇ、あんたたちのうちのどちらかの家族、私と同居してくれない? 」

私たちは、顔を見合わせた。
私は、てっきり、しーちゃんは、一人で住むことになると思っていた。
一人で、気楽に過ごすのが好きな老人は、私の周りに多かったから。
しかし、しーちゃんは、一人では、寂しかったらしいのだ。

義兄の「ヒロさん」と、主人の「ひで」と、私は、顔を見合わせていた。
お義姉さんと、「あーちゃん」は、その場には、いなかった。
一応、その場では、保留になり、一晩だけ、私たちはそれぞれの家に戻ることにした。
しかし、その晩、家へ帰ると……。


私たち夫婦は、当時、首都近郊の半分田舎半分都会の街に住んでいた。
私は、細々と、パートをし、主人は、警備員をしていた。

二人で、子供もなく、50何才まで、生きてきたので、気ままに2DKの借アパート住まい。しがらみも殆どなく、気楽でいい。

私の職場も、今のところうまく行っていた。何の問題もない。

何の問題もない……。

何の問題もない……。

……。

「きゃー‼︎  」

夜中にトイレに起きた私は、トイレのドアを開けて、呆然としていた。
トイレの天井からは、水滴が、次から次へと滴り落ちている。

(ポタポタ……、ポタポタ……。)



             つづく


©2024.3.20.山田えみこ


つづきは、こちら⬇




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