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【創作小説】コクるときは 刻々と近づく⑨

ここまでの話は、マガジン「私の創作小説」に収録されているものを見ると、便利です。

由奈は、町の教会の懺悔室で懺悔(ざんげ)をしていた。

教会の牧師さんは、昔からの呑んだくれのちょっとフラフラしたとこのある、フザケた牧師さんだけど、由奈は、懺悔を聞いてもらいたい気分だった。
大昔のことを思い出したのだ。

由奈は、幼い頃 いじめっ子だった。
周りが、いい人ばかり過ぎて 少しワガママだったかもしれない。

小学校3年までは、結構 周りの弱っちいと見える子を片っ端からいじめていたのである。
その被害者の中に、今 由奈の恋している翔くんがいた。

翔くんは、由奈と幼稚園の同級生で、由奈のせいで登園拒否までしている。

由奈は、小学生高学年になると、自分のしてきたことに気がついて、すっかり 自分を責めて 消極的になってしまった。

由奈は、自分のしたことで 自信をなくしているのだ。
何ごとも自分から進んでやる気にはなれない。

「平和にいよう」と、ふんわりした子になっていた。

そんなとき、中学2年になって、また翔くんと同じクラスに。そして、由奈はすっかり背が伸びて大人に近くなった翔くんに 恋をしてしまった。

自分が、いじめた子なのに。

(ごめん、翔くん。ごめん、私がいじめた皆……)

由奈は、ずっと後悔し、罪人のように罪を詫びて生きてきた。

それが、いつの間にか 由奈をふんわり ソフトな感じに見せていた。

大抵の人は、由奈を「いい人」と思い。
「やさしい、思いやりのある人」と見た。

由奈は、また周りに恵まれてきたが、いつも罪の意識を持っていた。

(翔くん……)。

懺悔をする由奈の手の甲に フタホシテントウがつるつると這っていた。


「おい、翔」
「ん? 何」
翔くんの家である。
親戚の光司叔父さんが、呑みに来ていた。翔くんのお母さんがおつまみを造るのが上手いので、ちょくちょく呑み屋代わりにやってくる。

光司叔父さんは、じつは町の教会の牧師さんだ。

「この間、お前のクラスの由奈ちゃんが、懺悔に来てなー」
翔くんは、慌てて遮った。
「叔父さん! また、懺悔ばらすの!? 絶対言っちゃいけないことでしょ!? 」
「いや、言わせてくれ。わしゃ〜、人が良い方向へ向かうようにしかやらん」
そう言われると、翔くんも話を聞かなきゃならない感じになる。
「あの子なー、ずっと後悔してるんだよ。自分を責めてる」
翔くんは、黙って聞いている。
「翔をいじめたこともな。それで、自分から自信を持って行動できなくなっている」
翔くんは、お猪口にお酒を注いで聞いている。

「いつかは、変わらんといけんよ。いつまでも、過去に囚われて罪の意識で生きてちゃいけん」

「……」

もうすぐ、由奈、綺羅、怜、翔の学年の終業式。あと、3日で4人は離れ離れ。3年になったら、由奈は、私立へ進学するために猛勉強にとりかからなければならない。



               つづく

©2023.10.27.山田えみこ

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