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(研究室紹介2022)農学のための微粒子工学:材料合成から環境・生物応用まで

学生一人ひとりが独自テーマを設計し、調査・実験を行う。卒論や修論では、テーマ設計や装置構築に何カ月もかかり、最終発表に結果が間に合わない場合もある。問題解決能力より課題設定能力を育成すること、意味のある失敗を経験してその失敗から学びを得ること、枠を超えて思考を広げることが重要であると考える。


1.研究室の概要

2007年1月に(国立大学法人)東京農工大学で研究室を立ち上げ、これまで50名以上が卒業・修了し、多種多様な分野で活躍している。現在(2022年)は14 名の学生(卒論生3名,博士前期5 名,博士後期6 名)が在籍している。

2.研究内容

微粒子工学が専門である。気中または液中に浮遊する粒子の挙動に着目し、粒子材料の省エネ型の製造法とその量産化やナノ粒子の粒径計測・熱分析法を提案してきた。

研究室の教育研究方針は、地球規模の社会問題(資源、水、食料生産、気候、生態系)に対して、学問として工学は何をすべきかを考えることである。これまでに以下のアプローチで、研究を進めてきている。

2.1 力の釣り合いを利用した材料プロセス技術

静電気力等の外力の制御技術を駆使した微粒子の合成・固定化法を開発している。一例として、パルスDC電気泳動(PEPD)法が挙げられる。水系では電気分解により生成する気泡の挙動が課題となるが、PEPD法では均一な粒子膜の形成により加熱後でも膜の亀裂がほとんど観察されない。PEPDを展開し、水中の多孔性(直径100nm以下の穴)の基板の穴の内部に粒子を固定化する技術も開発した。

他にも、高温表面からの対流に液滴群を導入することによる液滴の微細化現象を発見した。この現象を応用してサブミクロン以下の金属酸化物の粒子が合成できた。

2008~2013年に実施した大型プロジェクトにおける技術ロードマップとその展開

2.2 農学系テーマのための微粒子工学と移動現象論

2008 年科研費新学術領域研究「粒子人間植物影響」において、2年間で成長する樹木の葉表面に大気汚染物質モデル粒子を沈着させる植物微粒子暴露装置を設計・構築した。この暴露装置の開発において、多くの副産物の技術が生まれた。例えば、気中浮遊のナノ粒子の集積化とラマン分光法との組み合わせでは、新しい概念の「有機分子層」の検出法を提案している。その他に、葉の構造をヒントにし、吸引ポンプを用いない大気環境中微粒子の捕集装置の開発を行っている。

大気環境の研究から偶然の発見もあった。ロウソク炎に板を導入したところ、水にもアルコールにも分散するスス粒子が発見された。この粒子の応用は、親水性と疎水性の膜の合成技術およびサブミクロン粒子を脱離可能とする超音波洗浄法の開発につながった。

大気環境研究がきっかけとなり,植物内外での物質移動,土壌・バイオマス中の液体輸送の制御,循環型食料生産システム(内閣府・ムーンショット型農林水産研究開発事業)等で複数の農学系研究室と連携している。

水にもアルコールにも分散するスス粒子が発見された

3.研究室の特徴

学生一人ひとりが独自テーマを設計し、調査・実験を行う。卒論や修論では、テーマ設計や装置構築に何カ月もかかり、最終発表に結果が間に合わない場合もある。問題解決能力より課題設定能力を育成すること、意味のある失敗を経験してその失敗から学びを得ること、枠を超えて思考を広げることが重要であると考える。

研究室内の研究テーマが多様であるということは、そのテーマについては研究室でのセミナー発表者が最も詳しいといえる。発表を聞く学生は、事前に内容をあまり把握しない状態で質問をする「質問力」が鍛えられるし、先輩だからと言って知識の蓄積があるわけではないため、先輩・後輩に関係なく活発な質疑応答が展開される。研究室内の多様性を維持するために,ある割合で外国人留学生または異分野(物理学や生物学等)出身の大学院生を受入れてきた。常に数名の博士後期学生および外国人研究者が在籍することも特徴である。研究成果より学生の成長を心がけ,国際的にも学際的にも活躍できる人材育成のプラットフォーム形成を目指している。

「化学工学」誌に投稿した研究室紹介の文章(2022年)Open access: https://www.scej.org/docs/publication/journal/backnumber/Bulletin086060284.pdf
Mirror site: https://empatlab.wordpress.com/2022/06/01/lab-intro-scej/

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