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10月に読んだ本ベスト3



 この間街を歩いていると美容院が現れた

 中を覗くと、毛根の奥深くまで隙間なく、綺麗に、金色に染め上げた髪を靡かせた美女が、手際良く、また別の金髪を生み出そうかというところであった。

 ふと入り口に目をやると家族連れがご入店するところだ

 8、9歳だろうか。

 いいなあ。私がそのぐらいの時なんて親に力尽くで庭に首根っこ掴まれ、バリカンと共に御臨終。エンタメの少ない学校内での貴重なエンタメとして重宝され拝まれていたぞおい。



 そんな自身の過去をブツクサ呪っていたのも束の間驚き驚き驚き驚嘆。

 カット代1万2千円…?私の普段行く美容院の4倍はするではないか。

 まあいいさいいさ。アイツは坊主になった事でしか浴びれない脚光の明るさを知らずに棺桶ドボンさ。

 この場合、こういう子供は大抵ロクなガキにならない。

 そしてロクな青年、ロクな大人にならない。

 お前みたいなヤツは面白い事をやろう。面白い事をやろうと言い続けているうちに己の頭頂部が面白い事になって、鳩に餌をやり続けて、横にいる面白い後頭部仲間に注意されて、その生涯を面白くなく終えて仕舞えばいいのだ。やーい。


 なんて面白くない事を言っていたら10月が終わった。という事で自ら振り返るためにも読み終えた本の個人的ベスト3をご紹介。



 第3位  

 空港にて(村上龍さん)



 2000年に発売された村上龍さんの短編集。
 国外へ飛び立つことを唯一の希望とする人々が登場し、今いる環境の不満や劣悪さを婉曲的に絶妙に描いている。

 今作の推したいポイントは没入感。
 メインの軸として主人公の主観で周りに起きている細かい描写が描かれる。その合間に時間軸が過去に遡り徐々にどのような過去を持ち、どのようにして国外へ飛び立ちたいかが明かされる。この仕組みで情景を鮮明に想起する事ができ、物語に没入していくと共に主人公の想いに、読者である私も少しづつ照らし合わせていってしまう。
 主人公が淡々と今起きていること、そして周りを取り巻く現状、過去の出来事を吐き出していくのが逆に国外への強い思いを引き立てていて強く感じ取る事ができる。素晴らしいです。



第2位 

正欲 (朝井リョウさん)

 激薬。

 多様性を盾に身を潜める愚者を、盾もろとも突き破る聖槍。

 差別される側とする側。
 二体立構造は人間が作り出す社会からは恐らく2度と消えることはないのだろうな…なんて思ってしまう。

 声に出せずに飲み込んだ声。そのエネルギーの正誤を問わず、朝井リョウさんの描くその"声"はただならぬ熱を帯びている。それは今作に限った話ではなく、どの作品でも共通している。惹き込まれる要因の大きな一つだと個人的に思う。


第1位

熱源(川越宗一さん)

 激アツ。
 2022年直木賞受賞、かつ本屋大賞第9位。そりゃあそうだわと納得の内容。

 1900〜1945年ごろの所謂北方領土を舞台に、生まれ故郷を奪われた者たちの生きるべき光を描いている。

 登場する人種は多種多様で、アイヌ、ロシア、日本、ポーランド、などが主。
 生まれながらに追従する身分としてその出自から疑われ、拠り所もなく生きるために生きる人々。各々が生き抜くための、各々の魂を動かすもの。熱。
 生まれは違えど樺太で出会った者たちは生きるための熱に触れ合い、またその魂に熱を灯す。

 時代考証も細部まで行き届いている。そして何より凄いのが民族意識の乏しい日本人にも多大なる共感意識を今作では生んでいるという点ではないだろうか。

 長々と歴史を深掘りするのではなく、登場人物と共に厳しい樺太の環境を生き抜き、その過程で彼らを知る。気づいた時にはその身は樺太に置かれている。
 映像ではなく、文体でしか摂取できない世界が確実に込められている。語り継がれるべき名作だろう。

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