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日本に来て60周年! 『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』(毎日読書メモ(500))

最近全然毎日じゃなくなっている「毎日読書メモ」だが、記念すべき第500回は、ルース・スタイルス・ガネット作、ルース・クリスマン・ガネット絵、わたなべしげお訳 子どもの本研究会編集『エルマーのぼうけん』『エルマーとりゅう』『エルマーと16ぴきのりゅう』(福音館)である。
『エルマーのぼうけん』は1948年にアメリカで出版され(執筆は1946年らしい)、渡辺茂男の翻訳による日本語版が刊行されたのが1963年7月15日ということで、今年で日本語版刊行60周年。福音館のサイトに特設ページもあるよ。

ということで、新聞記事になったり、広告が出ていたりしていて、最近エルマーの話題を見かけるな、とは思っていたのだが、わたしが数十年ぶりにエルマーシリーズを読み返してみようと思ったきっかけは、恩田陸『なんとかしなくちゃ 青雲編』(文藝春秋)だった。
『なんとかしなくちゃ』は、恩田陸が「週刊文春」に連載していた小説で、主人公梯結子かけはしゆいこの、成長と「なんとかしなくちゃ」と思う思考回路とその行きつく先を描いた小説で、SFでも伝奇ロマンでもミステリでもない、恩田陸の「ふつうの小説」として、読んでいてすごくすごく面白かったのだが、書いているうちに話が膨らみすぎて、一旦連載が完了してしまったので、我らが梯結子はまだ大学を卒業するところで、「青雲編」は完了してしまい、まだ続きが発表される気配はない。
で、その梯結子が子ども時代に感銘を受けた本として紹介されるのが『エルマーのぼうけん』シリーズである。
ロジカルに、自分の前に立ちはだかる困難を、自分が出来る方法で乗り越えるには、何が必要なのか、それを色々な側面から考えるヒントとしての『エルマーのぼうけん』。

エルマーは、親しくなった野良猫から、どうぶつ島で囚われの身となって、島の中の大河を渡る運搬手段として酷使されているりゅうの子どもの話を聞き、救出に向かう、その際にエルマーが用意したのは、「チューインガム、ももいろのぼうつきキャンデー2ダース、わゴム1はこ、くろいゴムながぐつ、はブラシとチューブいりはみがき、むしめがね6つ、さきのとがったよくきれるジャックナイフ1つ、くしとヘアブラシ、ちがったいろのリボン7ほん、『クランべりいき』とかいた大きなからのふくろ、きれいなきれをすこし、それから、ふねにのっているあいだのしょくりょう」だった。。

なんじゃそりゃ、的ラインナップの持ち物が、予定調和的に、エルマーの、みかん島そしてどうぶつ島での冒険譚にぴたっぴたっとはまり、効果的に使用されていき、エルマーは無事、悪逆非道などうぶつたちからりゅうの子どもを救い出す。みかん島でとってきたみかんは、旅の途中の糧食ともなり、また、自分の住む町に帰る途中、カナリア島でのもう一つのぼうけんでも役に立つ。大人になって読むと、はまり過ぎやろ、と、鼻白んでしまうくらいだが、幼少時の梯結子が心ひかれ、旅に行くなら万全の準備を、と思わずにいられなかったことには大いに共感する。
『エルマーとりゅう』の巻末で、りゅうは無事エルマーを、自分の家のある「かれき町」まで送り届け、自分は内陸にあるそらいろこうげんの家族の元へ戻ろうとするが、普段はごびごび砂漠に吹くすなあらしで人間を寄せ付けていなかったそらいろこうげんまで人間がたどり着いてしまい(地球温暖化かしらん?)、両親と13人のきょうだいがとらわれの身になっていることがわかり、りゅうはかれき町に舞い戻り、再びエルマーに助けを求める。
今回エルマーが調達したのは、「ふえが16。ぜんぶちがうねいろのもの。らっぱが16。ぜんぶちがうおとのもの。うんどうかいにつかうピストル1ちょう、それからピストルのたま。じょうぶなひもを1たば。いたチョコ6まい。いちじくジャムのビスケット3はこ。それから、まえにつかったよくいれるジャックナイフと、かいちゅうでんとう」シンプルなのか、熟慮されているのか。エルマーとりゅうは人間のいる地域を飛行して、人間に目撃されたりする危険をおかしつつ、そらいろこうげんにたどりつき、りゅうとエルマー双方の機転でりゅう(実はロシア風の名前を持っている。他のきょうだいたちも、ドイツ風、東欧風の名前が多い)の家族の救出に成功する。

おうちに帰るまでが遠足だ! エルマーが無事りゅうに見送られ、自力で自宅に帰りつき、りゅう騒動に巻き込まれていたことを親に気取られないようにするところまでがぼうけんだ!
ぼうけんの上首尾、それは、人間に構われたりしないでりゅうたちが自由に生きることを尊重することでもあり、他者の生き方を尊重することが、自分自身にとっての最善でもある、ということだ。

数十年ぶりの幸せな読書。この本が、これからこの本を読む多くの子どもたちにも多くの幸いをもたらすことを強く願う。

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