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毎日読書メモ(250)『モダン』(原田マハ)

実家に帰って、父の本棚にあった原田マハ『モダン』(文春文庫)を読んだ。ニューヨークのMoMA(近代美術館)を舞台にした、5つの短編からなる作品集。主役はMoMAそのものである同時に、MoMAで働く人々。原田マハの他の作品と同様、史実と違うフィクションを物語の中心に据えてはいるが、狂言回しとなる美術作品はすべて実在のものなので、検索しなくてもわかるアンドリュー・ワイエス『クリスチーナの世界』、ピカソ『アヴィニヨンの女たち』『ゲルニカ』などを除いては、絵のタイトルを検索して、どんな絵か確認しながら読み進める。
MoMAという美しい美術館への憧れがあり、ニューヨークに旅行した時に訪れた思い出は30年以上たった今でも色褪せないが、美術館そのものの歴史については、殆ど考えたことがなかった。複数の短編に出てくる、初代館長アルフレッド・バー・ジュニアのエピソードが心を打つ。戦前の思い出が扱われる物語で、MoMAがバーの元で目指した、新しい美術館の在り方が、現在につながっていることも腑に落ちる。
アメリカの美術館業界のヒエラルキーとか、日本から研修に行った学芸員のお客様的な待遇とか、なるほどねぇ、と思う要素も色々。そして、ニューヨークの911、福島の311、二つの惨劇が、この作品全体に通奏低音のように沈んでいることも感じる。
解説の朽木ゆり子も書いているように、直接美術研究と関係のない、警備担当のスコット・スミスを主役とした「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」が特に印象的。スコットが常連となっているバーの名前が「頼むから静かにしてくれ」Will You Please Be Quiet, Please?なのも、村上春樹経由でレイモンド・カーヴァーをよく読んでいたので、絶妙なくすぐりと感じる。
美術館そのものに物語があることをあらためて感じさせてくれた作品だった。またいつか、MoMAに行きたいよ。

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