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苦しみ学のススメ 9

ホワイト企業大賞で行われた、5月10日のネット飲み会。
https://note.com/whitecompanyway
道頓堀ホテルの橋本明元専務の言葉は、
今、まさに、苦しみのただなかで、模索している、
まったく飾ることのないものでした。

ホテル業、しかも海外からの観光客が多数を占めるビジネス。
人が移動して、リアルに集まることで成り立つビジネス。
3店のホテルを休業にして、
100%の休業補償をして。
キャッシュインが無いのに、
キャッシュアウトはある。
このリアルな現実。

声を詰まらせながら話す、
橋本専務の話に、深い沈黙があり、
涙をにじませる方もいました。

専務の判断軸のひとつは、
「自分の家族だったら、
子供だったらどうするか」
だそうです。

昨年の台風でも稼働率が10%に激減する経験もあり、
ホテル業のリスクの高さは十分認識しているも、
やはり、今回のことは想定を越えていたでしょう。

リスクマネジメントとして、手元に8億の現金があったものの、
1月から、さらなる危機を察知、金策に走っていたという。
月間6000万円のキャッシュアウトを鑑みると、
1年半は、会社を倒産させない。
社員を守る、という思いだったといいます。

もともと、中国からのインバウンドに頼っているからだ、
という批判もあるかも知れません。
しかし、これには深い理由があります。
橋本専務は、中国人の父親と日本人の母親から生まれました。
幼い頃は、これを理由にいじめにあったこともありました。
この原体験のなかで生まれた企業理念があります。

「日本と世界の架け橋になる」

企業の揺るぎない主軸。「ややもすると、対立する国と国。分断する人と人。そのなかで、海外から来た人に日本のよいところを知ってもらいたい。日本を好きになってもらいたい。そして、日本人にも海外のよさを知ってもらいたい」。この強い思いがビジネスの原動力になっています。

「コロナ禍にどう過ごしたか、正々堂々と語れるようにしたい。」
そう、ややうつむきながらも、力強く語る専務。
「恥ずかしい話だが、一時は酒に逃げようとしたこともあった。しかし自分がしんどいときに、いかに人のために生きることができるか。人間力を高めるチャンスだと思って邁進している」と言葉をつなぎました。

緊急事態宣言が解除されたとはいえ、
人が自由に動き回り、直接会って、集まるには慎重さが要される。
第二波、第三波、違うウイルスの可能性と考えたとき、
海外からの観光客を顧客とするビジネスは、
厳しさが続くと覚悟せざるを得ないでしょう。

合理的に考えたとき、
主軸の見直しも含めた、ビジネスモデルの転換も視野に入れる必要があると言えるかも知れません。

しかし、1点の光明があります。
1週間前に始めた、中華料理のデリバリー。
予想を遥かに越える、2000セットの注文が入りました。
この企業を応援したい人がこれだけいるという事実。

合理性を越えた何か。
そう、「社徳」とでもいう、何か。
その灯火が、小さいかもしれないけど、
確実に、そして力強く灯っているように感じるのです。

対話会に同席していた橋本さんと旧知の仲、徳島のファインパーツ(ナット類など)製造業の西精工、西泰宏社長はいいます。

「私は、個人として橋本さんに1000万、貸してもいい。そういう人は100人いる。要は経営者としての信頼。だから事業が厳しくても心配していない」。

進化型組織を提唱する『ティール組織』を著した、
フレデリック・ラルーは、
「ビジョン」という言葉はあまり好んで使わないと、
同書の日本語訳解説者の嘉村賢州さんはいいます。
ビジョンというより、「コーリング」であると。

確かに、ビジョンにはコントロールのニュアンスがあるのかも知れません。
これまでの特にアメリカ型の経営では、
ビジョン・ミッション・バリューを明確化して、浸透させて、
それに則り戦略を構築することが良しとされて来ました。

混沌と混乱。
不透明で不確実な世界のなか、
これまでの王道の経営ではなく、
もっと、微細で、繊細で、控えめで、目立たないかも知れないが、
根源とつながっている、
耳を澄ますことで聞こえてくる何かが、
経営にとって、よりいっそう大切になるのだと思うのです。

戻すこと・止めること・始めることが混在しながら、時代は移っていく。
このことだけは確かでしょう。https://note.com/ensou_biz/n/nb6943cd34cde

「イヤな事だらけの世の中」にあって、
他者の幸せを羨ましがることもなく、
自分の不幸を嘆くこともなく、
幸福を求めることもなく、
それどころか、意識することもなく、
淡々と、ゆるやかに、
根源とつながって、
ただ、ここにいる。
そこに人生の意味が広がっているのかも知れません。

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