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みやもとさんのはなし


みやもとさんというのは
パンをつくるひとです。


わたしは週にいちど
ちいさなパン屋さんの店ばんをするのです。


みやもとさんの作ったパンを売るためです。


そのパンは、どこのパンよりも誠実で、まっすぐで
わたしは大好きでした。



正確にいうと、
みやもとさんのパンに出会ってから
わたしはほんとうのパン好きになりました。



おおさかにいたそのとき


迷ってばかりのわたしに 、みやもとさんは
たくさんの話をしてくれました。


パン作りのためにフランスにいったあとは、


日本中のパン屋さんを南から北まで
4年間かけて渡り歩いて


パンをつくるのをやめたこともあります。



でもしばらくしてほかのパン屋さんにふらりと
はいってみると、


まずいのだな。




そうして


「なんやこれ 俺がつくらなあかんやんけ」と
おもったそうです。




みやもとさんは片目がありません。


みやもとさんから直接聞くまで、

わたしは気付かないほどで
はなしをしているときに気になることはありませんでした。





みやもとさんは工房からおみせにきては、
いつでもいろいろな話をしていきました。


パン職人希望の若いおんなのこがきたときは


わたしのいちばんすきなクルミとレーズンのパンを
食べさせていて、

うれしかった。



そして
みやもとさんは、その女の子に、



「いいか、パンをつくるのはさいしょはたのしいねん。
それからたのしくなくなるんや。


そのあとのもっとあと、
もういっかいたのしくなるときがくる。

そしたら一人前や。」



といいました。




わたしが週にいっかい


本を読みながら
パンをつまみぐいしながら


ひとりきりで店番をしていたそのあいだに



なんどか、
みやもとさんのないはずの片目がひらいていたことがあって



なにか
特別なことがあったのか

さいしょはシュジュツをしたのかなと思ったけれど
閉じているときもあって



結局
いちどもそれをきくことはないまま

わたしはおおさかを離れることになりました。



そのあとも何回か


みやもとさんのぱんを買いにいったりしたけれど




さいごのほうに
工房に行って


「フランスいくことにしたんです」とゆったら


みやもとさんは
また
たくさんたくさんいろんなはなしをしてきたのだけれど


そのときわたしは
いろいろなことをちょっといじわるに言われて、
なんだか気分がわるくなったのです



でも帰りぎわ

さいごに、
ぽつりとみやもとさんがいったのは


「ええなあ、俺ほんとはいつか
フランスに店だしたいねんな」

だったのでした




そのあとしばらくして、

たぶんみやもとさんは私がフランスにいくことや

わたしが若くてジユウだったことや


いろいろなことが
うらやましかったんだろうと

そんな風におもいました



みやもとさんは
いつも、そういっていたんだ




それから
わたしは


ほかのおみせのパンもたくさん食べて

フランスでフランスのパンもたくさん食べて



たーくさんたくさんおいしいパンはあったけれど



たぶん
みやもとさんのつくる
クルミとレーズンのパンが

いちばんおいしいと


いまでも、そう思っている。




2007年1月5日 nene table B.C.




◯2017年7月 回顧

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