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みんなが知らない”でんぷん”の科学

でんぷんといえば、米やパン(小麦粉)、いも類など私たちの生活には欠かせない食材に含まれている活動のエネルギー源です。

以前、お米の味について、いくつかでんぷんの豆知識を紹介しましたが、今回はもっと深堀してみようと思います。

というのも、私たちはどのくらいでんぷんのことを知っているでしょうか?私も中学校の頃テストで紫色になるやつだって認識しかありませんでした。


ほとんどの人が知らないでんぷんの秘密

科学者は底知れぬ知的好奇心からどんなことでも調べています。私たちがあんまり興味がないようなでんぷんについても原子レベルで構造を調べているんです。

それでは、はじめにでんぷんの構造について見てみましょう。

でんぷんは食材の種類によっても形が変わり、米、小麦、ジャガイモ、タピオカなどバラエティーに富んだいろんな形のでんぷんがあります。

こちらのサイトを見ると非常に多彩なことがわかります。

ちなみに、このでんぷんの粒はアミロプラストと呼ばれる植物の細胞の中で作られるそうです。ちなみにこのアミロプラストは植物が重力を感じるためのセンサーとしての役割もあるそうですよ。


でんぷんの結晶構造

さらに細かく原子レベルで、でんぷんを見てみると、さらに複雑な世界が待っています。

でんぷんはアミロースとアミロペクチンと呼ばれる長い分子によってできていますが、植物によってこの分子の並び方が異なることが知られています。

この分子の並び方を結晶構造といいますが、植物によってA型、B型、そしてAとBが混ざったC型の結晶があるそうです。トウモロコシや米はA型がメインで、ジャガイモ(バレイショ)はB型がメインだそうです。本当に奥が深いですね。

こちらを見ると分子でできた”らせん”(筒のようなもの)が、A型とB型で異なる並び方をしていることがわかります。

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参考文献より引用

そうすると、私たちがおいしく食べているご飯はA型の結晶なのか~と思ってしまいそうですが、実はそうではありません。我々人類は炊飯器という偉大な発明によってご飯を炊いていますよね。

人間は結晶を融かして食べている

というと、ちょっと気味が悪いですよね。ご飯を炊くというのは、結晶を融かしているというのと同じことなんです。

でんぷん

このらせんがきれいに並んでいる。(結晶状態のまずいご飯)

結晶状態のでんぷんは分子が規則正しく並んでいます。ぎっしり分子が並んだ状態です。そこに、熱を加えて水分を与えることで、整列した分子がほどけて間に水分子(青丸)が入り込んできます。

でんぷん2

水が入ってらせんだったものがほどけてしまう。(おいしいご飯)

この構造の変化をα化と呼びます。以前ちょっとだけ紹介したおいしいご飯になる変化ですね。日本語では糊化と呼んだりもします。いわゆる接着剤の”糊(のり)”ですね。

床に落ちたご飯粒を踏むと足にくっついてベタベタしますよね。まさに生米の中のでんぷん結晶が融けて、糊(のり)に変化したわけです。

少し昔は、このようなでんぷんをお湯で溶かしてドロドロにしたものを本当に接着剤として使っていたそうです。ただし、原料がご飯である米であるため、虫食いがひどかったようですね。

少し話が脱線しましたが、このα化(糊化)によってでんぷんを結晶からアモルファスにします。このアモルファス(分子が乱れた状態)というのが栄養の吸収に大きな影響を与えます。

結晶状態の生米の場合は、なかなか栄養として吸収することができません。一方、温かくほっかほかのご飯はアモルファス状態のでんぷんになるので、消化酵素が良く働き、でんぷんを小さな分子に分解することができるんです。

しかし、近年先進国の人々は豊かになったがために、食べ過ぎや肥満が問題になっていますよね。そこで、このでんぷんの構造に着目したライフハックが話題になりました。

温かいふっくらもちもちのご飯はアモルファス状態で吸収されやすい、ならば冷ご飯にして蒸気を軽く飛ばしてやればアモルファスから再び結晶状態にすることができます。そうです、この結晶状態のでんぷんになった冷ご飯であれば、少々食べ過ぎても吸収されにくいため太りにくいんです。

確かに物質的に見ると、理屈はわかります。しかし、この方法はあまり鵜呑みにしないでくださいね。私は栄養や医学の専門家ではありません。なので健康にとって本当に有効な手段であるかは、ご自身で確認してください。


最後に

今回は、おそらく99%の人が知らないでんぷんの科学について紹介してみました。私自身も調べてみて、普段食べているご飯にこんな秘密があるなんて驚きでしたね。

そしてレンジで温め切れなかったご飯を食べるときは、これは結晶のでんぷんなんだなと思って食べています。


おまけ

具体的に、でんぷん結晶を見てみると、はじめから分子がきれいに並んだ結晶部分と分子が滅茶苦茶に並んだアモルファスと呼ばれる部分が混在しています。

これは分子量の大きな高分子(プラスチックなんか)では結構見られる構造ですが、このような物質を結晶性高分子といいます。

ちょっと話が難しくなってしまいましたね。おまけなんで許して…

簡単にまとめると、でんぷんには分子がきれいに並んでいるところ(結晶)と並んでいないところ(アモルファス)が存在し、結晶の部分もよく見ると並び方が2種類(A型、B型)あるということになります。

そこに水と熱を加えると(ごはんを炊くと)、結晶部分がほどけて水分子を吸着していきます。α化(糊化)というやつです。

温かくなったでんぷんが水を吸って、おいしくなる現象ですね。硬かった生米は水分と熱により柔らかくなりふっくらもっちりした食感に変わるわけです。

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参考文献

Unambiguous Ex Situ and in Cell 2D 13C Solid-State
NMR Characterization of Starch and Its Constituents


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