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ストームグラス 未来の天気を知る不思議なオブジェ

みなさんはストームグラス(天気管)というものをご存じでしょうか

19世紀、船乗りたちが海上の天気を調べるために使っていたといわれる天気予報の道具です。
樟脳、硝酸カリウム、塩化アンモニウムがエタノール水溶液の中に溶けたものがガラス管の中に入っており、液中の結晶の形から未来の天気を予測できるといわれています。

一般にストームグラスの様子と天気の関係は次のように言われています。

✓ 天気が晴れるなら、ガラス管内の固形分は完全に底に沈み、液体は澄みきる。
✓ 雨に変わる前は、沈殿物の量が徐々に増え、星のような形のものが透明の溶液中を浮遊する。
✓ 嵐やひどい風の前には、固形分の一部が溶液の表面まで達し、大きな葉のような形になる。溶液は濁り、発酵しているように見える。この現象は天気の変わる24時間前に見られる。
✓ 冬、特に雪や霜のときには、管の高い位置まで沈殿物が積もる。内容物はとても白く、浮遊する点状のものが見られる。
✓ 夏、とても天気がよく暑くなるときは、沈殿物は管の非常に低い位置までしか積もらない。
✓ 風や嵐が接近してくるときは、接近してくる方向の反対側のガラス管の壁に沈殿ができる
Wikipediaより引用

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%82%B9

しかし、これらには現在科学的な根拠がありません
実際、自宅にあるストームグラスを観察しても、噂通りにはなっていません。

科学的な考察

ここからは少し真面目に考えていきたいと思います。
いくつか論文を調べてみてもあまり積極的に研究されている内容ではないようです。
当然、現代の技術に置き換えられて、科学的な根拠がなければ、それを研究するのはかなりのマニアということになります。
とはいえ、そのようなマニアックな研究が将来的に私たちの生活を豊かにする可能性を持っていることも事実です。(知の追及は大勢がやる必要はないですが、なくてはならない事柄だと思います。)

地球科学系の論文では、惑星とか宇宙とかの規模の現象にストームグラスの活動が対応しているといわれています[1]。
結晶成長において電磁場の影響は確かに効いてくるのは事実ですが、私たちが普段受けている程度の自然のレベルで、結晶が大きな変化を起こすとも考えにくいです。惑星科学は私は全く知識のない分野なので真偽のほどはわかりませんが、年単位の実験の規模には圧倒されますね。

もう少し規模の小さなお話ですが、ストームグラスの結晶のでき方について調べた研究もあります。こちらのほうが直感的に理解しやすい話になります。
まず、ストームグラスの中の結晶は何の結晶なのでしょうか?X線を用いた結晶の成分を調べた結果では、きれいな樹枝状の結晶は主に樟脳であることが明らかになりました[2]。
また、ストームグラスは5種類の物質(樟脳、硝酸カリウム、塩化アンモニウム、エタノール、水)でできており、この組成比が結晶の形態(形)に大きな影響を及ぼします。

実際に、5種類すべて入ったものと3種類(樟脳、エタノール、水)入ったものは、2種類(樟脳、エタノール)入ったものと比較するときれいな樹枝状の結晶ができるようです[3]。すべて入ったものと3種類入ったものは若干の違いはあるものの顕著な違いは見られないようです。そうなると、ますます硝酸カリウム、塩化アンモニウムの存在理由が気になりますね。

毎日見ている個人的には、温度による影響が最大の要因に感じます。(実際に温度による影響は論文でも示されています)しかしながら、たまに暑いのに結晶ができていたり、寒くても結晶ができていないことがあります。全ての現象には理由があるので、このような不思議な挙動にもきっと理由があるはずです。

まだストームグラスの不思議の解明にはほど遠いようですが、ロマンがあっていいですね。


最後に

今では、ストームグラスは科学的な代物ではなくなっていますが、毎日結晶の様子が変わることから、観賞用の置物として楽しまれています。
ストームグラスを買おうと思うと1000~10000円ぐらいするちょっと値が張るオブジェなのですが、実際は自宅で作ることができます。原材料としては非常に安いものです。おそらく市販の物が高いの理由は、ガラス細工に結構お金がかかってるのではないでしょうか

参考文献

[1] E. A. Baranovsky et al., Effect of Solar Activity and Geophysical Disturbance on Physical–Chemical Processes in Liquid Medium: Preliminary Analysis of StormGlass Activity, IZVESTIYA, ATMOSPHERIC AND OCEANIC PHYSICS, 46 (2010) 925-934.
[2] Y. Tanaka et al., Pattern formation of crystals in storm glass, Journal of Crystal Growth 310 (2008) 2668–2672.
[3] T. Mitsuya et al., Cyclic growth and dissolution of camphor crystals in quinary,ternary,and binary solutions: A study on crystal behavior in storm glass, Journal of Crystal Growth 401 (2014) 233-237.

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