マガジンのカバー画像

白瀬 直

19
自作小説まとめ
運営しているクリエイター

記事一覧

せんぱい

 清水蘭は、私の……なんだろう。
 少し前、それこそ一緒の中学に通っていた時は友達だった。親友と言っても良かったかもしれない。
 友達になったきっかけは覚えてない。そもそも、誕生日がかなり近いのだ。生まれた病院も一緒で親が同じ町内に住んでいて、必然会う機会の多かった親同士が仲良くなって私たちは物心つく前から一緒に遊んでいて、その頃にはもう友達だった。
 誕生日は近いんだけど、その日付はちょうど年度

もっとみる

(夏)

 暑い。
 寝苦しい室温に耐えかねて、咲坂楓は目を覚ました。
 宙を舞うホコリが差し込むに陽光に照らされ輝いている。
 寝汗をかいて湿っぽくなったタオルケットをはがし、側のテーブルからペットボトルをひったくるが中身はない。蓋を閉めず雑に放るとカラカラとフローリングを転がった。
 ベッドを抜け出し、フローリングの床をまだ曖昧なままの足取りで歩く。冷蔵庫を開けて心地よい冷気を感じるも、買い置きのウーロ

もっとみる

I meets U

 ◆I

 運命の出会いなんてものは、この世には無いのです。
 小中高、数年の読書経験を経て、運命の出会いというものがフィクションの中の存在だという認識は私の中に積みあがっていました。
 登校中に曲がり角で誰かとぶつかることはありませんし、小さい頃に結婚の約束をするような幼馴染もいませんでした。休日にあてもなく街を歩いてみても、宇宙人と遭遇したり、不思議な扉が開いて異世界に行ったりはしません。頭の

もっとみる

とどめおきて

 部屋の掃除をしていて、古いUSBメモリを見つけました。
 1GBという表記に時代の流れを感じます。何が入ってるのかしらと思ってPCに繋げると、中にはフォルダが一つだけ入っていました。
 フォルダ名は「2015-01-04」という日付。開いてみると、デジタルカメラで撮影したであろう解像度の低い写真がたくさん表示されました。
 近くの公園で遊んでいる写真。運動会の写真。旅行に行った時の写真。誕生日に

もっとみる

剣聖伝説

 ――2199年9月18日。
 ラグランジュ3。災害指定コロニー「ソラフネ」。

 その日、《武蔵》は侵入者を感知し、静かに眠りから覚めた。
 全長2メートル強の機械の体躯。兜を模した頭頂部の中央にあるセンサーが赤く灯り、その稼働を周囲に知らせる。
 胸部中央にある炉に火が入り、全身を電子が走る。
 駆動系を精査。前回の休止から実に47000時間が経過していたが、前回の稼働時の点検と変わらず、全身

もっとみる

好きを仮想に映したら

 好きなVTuberは誰かなんてのはこの界隈では挨拶みたいなもので、それを話しておけば一時間はお互いの口上が止まらなくなったりするのもザラである。なので、いろんなところでいろんな人に同じ話をすることも多いのだが、そのたびに同じ人物の名前を挙げていると、その人のことをどう思っているのかという自分の気持ちについても考えることになったりする。
 わたしにとっては、女子高生型AI系VTuber「水道橋ヤヤ

もっとみる

盤上で踊る

 なぜここにいる?
 正直に言えば、初めに抱いた感想はそれだった。
 たまたま飲みに出かけた先のバーでそれを見かけた時、俺はまず目の前の光景が現実か、何度も確かめた。目を擦っても人相は変わらなかったし、腕をつねってみても痛みはしっかりと感じる。それは間違いなく現実だった。
 視線の先のテーブルには、ボードゲームに興じる二人の女がいた。その二人はそれぞれが特徴的だった。
 一人は、短い髪を白く染め上

もっとみる

理由

 子供の頃の私は何故、好きなものを好きだと言うことを、あんなに躊躇っていたのだろう。
 ひねくれていたという自覚はないけれど、何かを好きだとか人に言った記憶はほとんどない。好きだったマンガの話をした時も、クラスに一人だけいたパーマの子を羨ましく思った時も、それこそ初恋をした時も、それを隠すようなことこそしなかったけれど、面と向かって、あるいは周囲に喧伝する様に好きという言葉を口にすることはなかった

もっとみる

恋に恋したわたしだけれど

「梢って、好きな人いないんだよね」
 幼馴染の珠希にそんな言葉を向けられたのは、修学旅行初日の夜だった。
 修学旅行の夜、消灯時間を過ぎて布団にもぐってからやること。定番の極致、恋バナである。何度となく少女漫画で読んでいてなお、本当にそんなことするんだろうかと疑い半分だったわたしは、実際に始まったその談議にちょっと驚きつつ、自分から進んで入りはしないけどさして否定的に布団をかぶるでもなく聞いていた

もっとみる

不尽の高嶺

#Alice

 私が目を覚ます時、特に合図のようなものは無い。
 光も、音も、感触の刺激も無く、ただ意識を取り戻す。
 起きてまず一番、覚醒する前のまどろみを享受する。調整された室温とシーツの肌触りが心地よく、それに集中しながら頭に掛かった靄が晴れていくのを楽しむ。恍惚に、自然と鼻が鳴る。
「ふふ」
 自分の吐息とシーツの衣擦れを合図に、耳が覚醒してゆく。空気の震えは、ベッド脇で稼働する加湿器

もっとみる

Quiz

「スコットランド」
「フィンランドです」
「あ、スコットランドってイギリスか」
「ちなみにコルヴァトゥントゥリって山の中にいます」
「コルヴァ……?」
「コルヴァトゥントゥリ。耳の山って意味です」
「へー」
 吐く息は白いが雪は降っていない。季節らしい雑学を喋りながら歩くのも、職業病みたいなものだ。
「時に江崎よ、奇特だとは思わんかね」
 隣を歩く鷹村さんが呟く。芝居がかった口調はだいたいミームか

もっとみる

魔女のワックス

 未だ戦時下にあるグリダニア公国においてこの言葉を使うのは後ろめたいところもあったが、軍事上劣勢であったと言わざるを得ない四年前と比較するならば、やはり本日、グリダニアは平和であった。
 ここ二年で戦況は大きく変化した。周辺で起きていた紛争もその大半を鎮圧することに成功し、近隣国と同盟を布くことになったグリダニアの事実上の戦線は遥か西へと移った。国境周辺で頻発していたアルテマ魔族軍ゲリラの目撃証言

もっとみる

ほしいまま

 天気をほしいままにできる。彼女がそう気付いたのは、物心ついてすぐのことだった。
 彼女が楽しみにしていた催し事はだいたい晴れていたし、何か悲しいことがあった時には雨が降った。初恋を燻らせた夏には強い日差しが降り注ぎ、塞ぎこんだ冬は厚い雲が空を覆った。
 季節に関わらず、空模様だけでなく気温や、虹や、台風など様々な気象現象が彼女の心を映し続けた。
 自分の心のままに天気が変わるのを面白く思うだけで

もっとみる

待ち人

 ポケットに入れたままの携帯電話が震えたような気がした。取り出してみたが着信の履歴は無く、無骨な黒いカバーに覆われた携帯電話の液晶には時計と今日の日付だけが表示されていた。どれだけ待ち遠しく思っているのかと、自分のことながら笑ってしまう。ほんの少しの恥ずかしさを覚えながら画面を消して、ダウンジャケットのポケットにしまった。
 口から出る息は白い。天気は良く、雪こそ降っていないが氷点に近い気温。灯油

もっとみる