脱原発とスペイン
スペインが2035年迄の脱原発を閣議決定。盛り上がる脱炭素や再エネ動向も含め、少し深堀したい。
記事要約
今回の閣議決定は、23年総選挙を経ての既存路線追認。
スペイン総電力のうち、原発は2割。再エネはここ20年で2割から4割に増加。原発に代わるベースロード(天然ガス)施設の拡充とコスト対策が必須。
各国各々のネットゼロへの道がある。置かれた状況が異なる日本はスペインとは違う道を選んだ。
1.既存路線の追認
スペインは、2021年に設立したエネルギーと気候に関する国家戦略枠組み下にて、2050年までにネットゼロ、再生可能エネルギー起源の電力供給 100%、総エネルギー構成における再生可能エネルギーの 97% という目標を設定している。そのため、再エネ、特に太陽光と風力の大規模な開発に注力している。他の重点分野は、省エネ、 電化、再生可能な水素を含み、目標達成に向け政府が積極的な行動を取ることで、経済を刺激し、 雇用創出と 産業競争力強化を狙っている。
欧州連合/EU加盟国は、2050年ネット・ゼロ目標を念頭に、2021-2030年間のどのような施策を講じるかをまとめる国家エネルギー気候変動計画(National Energy and Climate Plan:NECP)の策定及び欧州委員会への提出が義務付けられている。スペインはNECPを2019年に提出、そこには既に原子力発電の段階的廃止が盛り込まれている(さらにさかのぼると2006年に提出した計画でも脱原発が盛り込まれている)。
2023年に実施されたスペイン総選挙では原発の閉鎖が争点の一つとなった。閉鎖の計画を撤回することを訴えていた中道右派・国民党(PP)は、最大票数を獲得したものの、内閣を組閣できず最大野党となった。したがって、第一党から第二党へ票を下げたものの続投となった中道左派社会党サンチェス首相による第三次内閣が改めて既存路線を追認した形。
2.本当に可能?
スペインには現在7基の原子炉があり、発電容量は計7.1ギガワット。
現時点で国内の電力消費量の5分の1を賄っている。一方、急速にシェアを増しているのが再エネ電力で、2020年以降は、40%越えとなっている。
実現可能性は、原子力に代わるベース電力の確保とコスト次第と国際エネルギー機関(IEA)が2021年スペイン審査レビュー報告書で言っている。
原子炉の解体とこれに伴う使用済み核燃料、放射性廃棄物の管理費用として、総額202億2,000万ユーロ見込み。各原子炉は運転停止から3年後に解体開始。使用済み核燃料と放射性廃棄物については、各原発の敷地内に一時的な貯蔵施設を7カ所設け、50年以内に深地層処分の最終施設を設置し、ここに各貯蔵施設から移送する旨決定。
3.各国各々の道がある
ネット・ゼロを目指す上で、フランスはもちろんスウェーデンも実は原発頼みだったりする中、脱原発を閣議決定させたスペイン。国際&欧州原発潮流は以下。
太陽光や良好な風量など再エネ源に恵まれたスペインだからこその決定と見るべきか。電力料金も欧州他国に比べまだ低め(下記図参照)、エネルギー自給率を高めるという意図もあろう。
一方日本は、脱原発/弱小環境派vs原発推進派/産業界という元からある構図に、中道右派の自民党が安全基準厳格化のうえで原発再開という政治決断を下し基準を満たしたものから順次再稼働、23年時点で6発電所、11基(54基中の11)が稼働中。
再エネ派と、原発含むエネルギーミックス派。どっちが正しいか決めつける気はないが、まずは再エネ一辺倒に傾倒することでどこまで電力コストが上がるのか、IEAの言う通り、評価&モニタリングが必須。再エネ導入にせよ、EV転換にせよ、人々に過度の痛みを強要する政策を推し進めるのは、強者のエゴでしかないというのが当方の私見。
さらに、スペインは原発推進派のフランスとグリッドがつながっており柔軟性あり。さらに日本の場合ヤンチャな国に囲まれていることも考慮が必要なのは当然。そういう状況も考慮すると、なるべく選択肢を残しておきたい/手段を選んでいる場合ではないというのが、日本のPolicy makers達の本音な気がする。
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