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中之又神楽を撮る。(写真膨大)

 宮崎県の中央部にある木城町、その山間部に中之又集落はある。500年以上の歴史を持ち、長年この地で舞われてきた神楽は、この度、米良山地に伝わる他の五つの保存会とともに、国の重要無形文化財に認定された。

 2010年に初めてこの地を訪れて、それから毎年。2020はコロナ禍のため地域、関係者のみでの実施ということで、この地に縁のある同僚に尋ねてもらったところ、来ても構わないとは言われたが、咳もしていたし、やはり行かず。一年抜けてつまりは13回目の中之又となる。

 比較的暖かい日ということもあって、防寒もほどほど、と言っても、夜中には颪が吹くから例年と同じくらいは用意して、そうしたらやはり夜が深まるに連れて、かなり冷え込んだ一晩だった。うっかり眠り込んでしまうと、防寒が弱目の下半身から冷えが体の芯にまで伝わってくる。それを焚き火であたためる。そんな、繰り返しをしているうちに空が白んでくる。ああ、夜が明けたぞ、というころに、舞も戸開きが行われる。写真を撮るのもだが、その何となく苦痛ですらある一晩を過ごすのが、僕の目的のようにもなっている。同じく一晩を外で明かした人たちと、勝手ながら連帯感のような気分を抱かせてもらう。あなたも朝まで? いやー、お好きですなあ。どちらから? へえ、私はほとんど地元のようなものでして。となるとお帰りになるのも大変ですな。そんなふうに話しかけるのはごく少ないのだけれど。
 実際、福岡や大阪といった地名が聞こえてくることもある。実際、今年隣に座っていた男性は福岡からで、話しぶりから各地のこのような行事を見て回っているようだった。

神楽で見かける人たち

 そう実際、この前行った神楽で見た姿を、ここでも見かけるなんてことはこれまでもよくあった。
 今年は、地元近くの神社で見事な笛を吹いていた女の子とその家族に出会った。

 笛と言っても、そのメロディラインはとても難しい。小学校で縦笛を吹くのとはちょっと違う。楽譜で示せるリズムとは違うと思う。それを吹きこなすこともそうだが、他に参加している子どもたちとは明らかに立ち居振る舞いが違う子だったのでよく目立っていた。

 その子は、先月に行われた尾八重神楽でも見かけた。

磐石の舞で、尾八重では子どもがその神様が背負うカゴをつかんで引きずり倒すというのが繰り返されるが、それをやっていたのがこの子だった。ここ最近はやっている、と聞いたので、

2023 南方神社
2021 尾八重神社
2023 尾八重神社

2021のときの子と、もしかすると同じ子なのだろうか。だいぶ顔つきは違うけれど。

 ともあれ、神楽が大好きで、中之又の実施日を1週間間違えて、先週は出発する準備までして日が違うことに気づき、せっかくだからと県西の神楽にまで足を運んだのだそうだ。この日も中之又は途中まで。そのあとは西米良の神楽に梯子するのだという。お子さんも好きなのだろうが、おそらくはご家族も好きなのだろう。お父さんはもちろん舞手だから分かるが、お母さんの方も子供のために、という感じではなさそうだ。家族みんな神楽好きとなれば、冬の時期の行楽はもう神楽一色になりそうである。

 お母さんによると、女の子は自分も舞いたいのだという。基本は男性が舞うのが慣わしなので、色々壁があるらしいが、大きな問題がないのであれば、このご時世、その意欲こそ買いたいもの。彼女が見事な舞を披露する日が来ることを楽しみに待ちたい。

 この日は午後3時ごろに到着。昨年5時過ぎに来てみればもうカメラマンで席が埋まっていたのをみて、早くきて、久しぶりに明るいうちの神社周辺を見てみようと思っていた。昼には着いてやるとか考えていたが、3時くらいになったのは…Amazonプライムのせいだ(笑)
 すでに知り合いのカメラマンもいて、3時はちょうど御神屋の準備も終盤といったところであった。こんな雰囲気を味わえるのも早めに来たからだ。

機材はカメラ3台

 毎年カメラ2台で撮影してきた。多分に一台の方が、三十三番を整理するには楽だが、基本が単焦点レンズでの撮影をしているので、画角違いのボディを使いまわすことに重きを置く。今年はX-T5にタムロンの18-300 Pro2に xf18mm f1.4 ライカM240にsummilux 75mmか50mmをつけて撮ることにした。昨年はほとんどをマニュアルフォーカスで撮り切ったが、それと比べてかなり楽ちんである。

 それからフラッシュ。直当てしないようにオフカメラで使うのだけど、以前揃えていたCanonのフラッシュが一個大破。コマンダーの機能があったフラッシュだった。90exがあるので430exをスレーブにすればいいし、マニュアルならメーカー違いでも使えるのだけど、noteで見かけたフラッシュがコマンダー機能も付いていてなかなか使い勝手が良さそうということで、こちらのフラッシュを購入した。

それから激安のフラッシュで有名なものも買ってスレーブで使ってみたが、光スレーブなので他の方のフラッシュに反応してしまい、迷惑なので、結局一灯で撮影することにした。考えればわかるのに結局無駄な買い物をしてしまったよ…。
来年に向けて、もう一台フラッシュ q20を買うかどうか迷うところだが、光量以外は小型なのも含めとてもいいものだと思う。

神社周辺

くねくねとした道を登って行くと、そこに中之又神社がある。木城町の中心部から40分くらいだろうか。
文化財指定されたものの大きな何か変化があるわけでもなく。あったのはこの看板のみ。個人的にはそのそっけなさがいいと思う。
周囲はこんな感じだ。
御神屋が完成間近
うどんとそばを出す店が脇にできる。半袖の小学生が柚子の皮をぎこちなく刻んでいた。
鳥居にかかる旗。
神事が行われ、神様の御坐す神輿が運ばれてくる。

社の中で神事が行われて、子供達による浦安の舞が披露されてからしばらく時間があく。この間、舞手の方々は直会で食事をしている。
日が沈むにつれて少しずつ人が増えて来たなと思っていたが、気づけば近年にない人だかりとなっていた。地元のテレビ局も来ていた。

神社の脇を流れる川に、竹灯籠が優しい光を放っている。一度他の神楽を観た方なら、ここの神楽がおもてなしの精神に溢れていることを、そこここで知ることができるはずだ。
こんな灯も。道中、神社に近くなると、道の脇に星型の飾りが目に入ってくる。(前掲載)これも宮司さん一家が中心となって行なっているおもてなしなのだろう。


神楽を見る。

さて、舞が始まりました。
鬼神。最初に御坐します神面。
大社舞。この神社の御祭神。
畳に落ちているのはお賽銭。冠の中に入るよう目掛けて投げ入れる。
子どもたちが輪投げに興じていた。小さな子たちがあちこちでワイワイしている様子がいい。年によっては巫女さんの格好をしている子もいたりしてこれがかわいい。
天神舞
鹿倉舞
稲荷舞
弓将軍
荒神舞
神主との問答がある。舞の後なのでそうとう寒いはずだ。
獅子取り荒神
獅子舞の後に荒神が現れて、捕り物を披露する。この獅子の動きがゆったりなのだが、かなりきついっぽい。
磐石ばんぜき
換算450mmが使えるので、こんなアップでも撮れる。が、レンズ性能の限界か、100mm以上はピントをなかなか合わせてくれない。
神和気かんなぎ舞
女性の神様だが、ふだん中の人は男性。しかし今年は女性だったと思う。やはり根本的に動きが違う。
なんかおったまげ〜って感じに撮れてしまって、ちょっとクスリとしてしまう。


 神楽は、まず地舞というのがあって、面をつけていない人が舞うのだが、場を清める意味合いを持つ。その後に面をつけた所謂神さまが登場するという繰り返しによって構成されている。つい、面をつけた舞にカメラを向けがちだが、弓将軍や神崇など、かっこいい舞もあって、そしてそういう舞は夜中に舞われるものが多く、今回は、神崇を寝落ちして見ることかなわなかった。この神崇は、かつて山村留学をしていた人たちが舞を担っていて、この10年でもう手練れの領域に入ってきているなあと感じていたからちょっと残念である。いびきかいてたんじゃないかな。申し訳ない。

住吉舞
動きがゆーったりなので、レンジファインダーでも撮りやすい、ありがたき神様。
手力雄舞
戸開男舞
所謂、天照大神の籠った岩屋を開く神話だが、各所赴きが違うのが面白い。高千穂の観光神楽で見るそれは実際に扉に見立てた板を取り外す、尾八重では面を顔半分に被った人の前の植物をどかす、銀鏡地区のそれは実際に扉があって、それを開くと鎮座している人(天照大神、お面はしっかりかぶっている)がいる、など。
こちらは尾八重神楽。神様は面をこんなふうにかけておられる。


再び戸開男舞に戻る。

戸開きが終わる頃にはちょうど日が昇ってくる。夜が明けるのと戸が開くのがちょうどシンクロして、一晩を寝ずに明かした(寝たけど)
その気だるさが体の芯にくすぶっているのを実感する。日が出てくると、如実に気温が上がってくるのも感じられ、灯が心許ない時代、いかに太陽が偉大な存在だったかをまざまざと思い知る。

繰り下ろし舞
注連に繋がった縄をくるくる絡ませて、そして、ほどき、最後は引きちぎる。
成就神楽。観客も一緒に舞う。右と左が入れ替わる時にみなして持っている榊ではたき合うのが楽しい。もうへろへろで、今年は参加しなかった。昔はかなーり激しかったとか。


宮神楽 舞上

 途中抜けているところもあるがおおよその流れで掲載した。もっと正確なものは、他の方のブログに詳しく、途中の台詞などまで掲載されているものもあるので検索されると良いかと思う。研究、というくらいに詳しくて、参考にさせていただいている。

 とにかく年に一度ここに来ると、生き返った気分にさせてもらえる。(実際は日曜日の昼は使い物にならないくらい体がぐだぐだになる)

 昨年は朝ごはんまでご馳走になった。あれ、美味かったな。今年は片付けがあらかた終わったところでお暇したが、いつも朝山をおりるときは少し寂しい。その寂しさがまた来年も行きたいという気持ちにさせる。来年もまたこの地に足を運びたい。

中之又神楽で展示できないものか。

10数年通っているとそんなことを考えるようになった。宮崎の神楽を撮る神戸の写真家さんがいるが、特に尾八重神社との繋がりが強いらしく、尾八重はその方の写真で神楽の本も出されている。生田神社での神楽奉納といった行事にも繋げているようだ。

地元の小さなギャラリーでカメラ趣味の方の写真展などを見ていると時折中之又の写真を見かけたりする。あくまでいろんな作品のなかの一つとして。そんなのを見ると、神楽だけの写真展をやってみたいなと考えるようになった。

そうして、それは、いや、僕の写真展ではなく、中之又の写真展をしたらどうだろうとか考えるに至った。まあ、勝手な想像で一方的な願望に過ぎないのだけれど。ただ、かなりカメラマンがやって来ていてその中には僕のように毎年参加されている方もおられるのだから、そんな人たちでやったらいろんなバリエーションが生まれて面白いのではないかなと考えた。
まあ、いつかそんな機会があったら、という話に過ぎないが、いろんな人の神楽展、そんなのがあったらまずは自分が見てみたいと思う。

最後に、これまで撮って来た過去の写真(たくさんっ)を載せて、終わりたい。長々とした記事になってしまった。ここまでお読みいただき、感謝申し上げます。

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