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山菜を採って幽霊に会おう!

あいいろのうさぎ

「山菜を採りに行こうじゃないか!」

「……は?」

 春休みで部活も無いというのに先輩に呼び出され、部室に着いた途端言われたのがこれだった。

「ひかる君、聞こえなかったのか? 山菜を採りに行こうと言ったんだよ、私は!」

「声デカっ……充分聞こえてますって。そして呆気にとられているんですよ」

「呆気にとられるだって? 面白い事を言うな、君は」

「どう考えたって面白おかしいのは先輩の方でしょう……」

 先輩は顎に手を添えて少し黙った後「褒め言葉として受け取っておこう」と満面の笑みで言った。この人のポジティブシンキングは大抵の言葉を前向きに受け取る。最初の頃はどう対処しようかと思っていたが、そのうち何を言っても大丈夫なんだと理解した。

「そもそも先輩に山菜の知識とかあるんですか」

「無いな!」

「絶望的だ」

 大袈裟に涙を拭う仕草をしてみせる僕に対してガッハッハと豪快に笑う先輩。

「安心しろ! 幽霊なら出るとの噂だ!」

「先輩、少しは文脈を考えてください」

 僕は幽霊が出るかどうかの心配なんてしていない。確かに僕らはオカルト研究会だが、春休みにまで呼び出して『山菜採り』と称し幽霊に会いに行こうとしている先輩の方が心配である。っていうか、なぜ今回は『山菜採り』なのだろうか。

 僕の顔に分かりやすく疑問符でも書いてあったんだろうか。先輩は得意げにスマホを見せびらかしてきた。

「これを見たまえ!」

 見ると、そこには人を呼び込もうとしているとは思えない薄暗い山道の写真と共に『十五種類の山菜を楽しめる収穫体験☆ 泊まり込みのお客様も大歓迎!』とある。

「……よくこの謳い文句と写真で惹かれましたね」

「ああ、このいかにも出そうな写真が良いだろう?」

「しまった、話が通じない人だという事を忘れてた」

 頭を抱える僕。うっとりとサイトを眺める先輩。

「ああ、次はどんな心霊体験ができるだろうか……」

「先輩って見えてないんですよね」

「ああ! 微塵も見えないが君が幽霊と会話していると様々な現象が起きるからな。君といると楽しみが尽きないよ!」

 本当に心底楽しそうな先輩に、『この笑顔に惹かれちゃった僕の負けだよなぁ……』と思いながら予定を確認する僕。

 実はこのサイト自体呪われた人間が作成したもので、まんまと幽霊の手の平の上で転がされている事を、僕たちはまだ知らない。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 お題は「山菜採り」でした。最初は家で決まっていることとして山菜採りをしなければならない少年を書こうかと思っていたのですが、「山菜を採りに行こう!」と女の人の声が聞こえて今回のお話になりました。今作の子たち、好きです。皆様にもお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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