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熱い以上に温かく

あいいろのうさぎ

 見慣れた実家。でも実際来るのは今年の八月以来で、緊張する必要なんてどこにもないのに、少し心がピリッとする。十二月の夜闇の中、センサーライトが私を迎え入れた。

「ただいまー…」

 控えめに挨拶すると、耳の良い子供たちが奥からバタバタバタッと出てくる。

「奈津ちゃんこんばんは!」

「こんばんは!」

 甥っ子の俊太と姪っ子の風花。まだ保育園に通っている彼らは会うたびに元気に挨拶してくれる。

「こんばんは。久しぶりだね」

「うん! あのね、お鍋もう出来るところだよ!」

「あ、奈津! 遅いわよ! お鍋もう出来ちゃうでしょうが!」

 同じことを言われているのに姪に言われるのと母に言われるのとではこんなにも受け取り方が違うのか……とある種の理不尽を噛みしめながら洗面所へ向かう。手洗いうがいを済ませたら俊太と風花に引っ張られつつリビングに入る。

「お、来た来た。おかえり」

「うん、ただいま」

 鍋がこれから出来上がるところだというのに、もう酒が入って顔を赤くしている兄。父もその奥で飲んでいる様子だ。俊太と風花は「お母さん奈津ちゃん来たー!」と姉の足元でじゃれつく。

「ほら、ボサッと立ってないで座んなさいよ。もう取り分けるところなんだから」

「はいはい」

 空いている席を探す。けれどお誕生日席しか残っていない。

「え、私あそこ座るの?」

「最後に来たから諦めて」

 姉が苦笑いで言う。まあ確かに俊太と風花を姉から離すわけにもいかない。子供たちのいる前でお誕生日席に座るのは何か恥ずかしいような気がするけど、仕方ない。次回からは渋ってないで早めに実家に着くようにしよう。

 席に着いた途端、姉が鍋に箸を伸ばす。俊太が「つみれ! いっぱい!」と言うと「お野菜も食べなきゃダメなんだよ!」と風花が言う。「そうだぞ、野菜もしっかり食べろ! じゃないとおじちゃんみたいに大きくなれないからな!」兄が無駄に立派な体で自慢げに胸を張ると、俊太は可愛いもので「えぇ! お母さん、お野菜も入れて!」と慌てる。その様子を見ている母と父も、どこか幸せそうだ。

 取り分けが済んで、父が乾杯の音頭をとる。

「かんぱーい!」

 とそれぞれの声が鳴り響いて、私もお酒を一口。それからつみれを口に入れる。

 熱い。でもそれ以上に、あったかい。


あとがき

 目を通してくださってありがとうございます。あいいろのうさぎと申します。以後お見知りおきを。

 今回のお題は「家族の鍋パーティー」でした。肝心の鍋はそんなに食べていませんが、“あったかい”感じを表現できていればいいな、と思います。今作もお楽しみいただけていれば幸いです。

 またお目にかかれることを願っています。




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