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フェミニズム的にオススメしたいガールズラブ漫画

百合・ガールズラブ作品とフェミニズム・ウーマンリブは相性が良い、と言われることがあります。
しかし、いざ探してみると、フェミニズム・ウーマンリブ的な作品に出会うのは意外と難しい……。
女性の権利という視点からは上手く描けていてもレズビアン当事者視点がイマイチだったり、レズビアン当事者感覚は抜群でも女性の権利的な部分は微妙……という作品であれば、結構多いと思うのですが……。

てなことで、私が読んだガールズラブ作品の中で「フェミニズム・ウーマンリブ」的だと感じた作品を紹介します。

学問として確立しているフェミニズムの中には、現実に生きる女性の声を拾わず、知的遊戯として形骸化しているものも存在します。
この記事で紹介する作品は、どちらかというと「現実を生きる女性のリアルを描く」ウーマンリブ的な観点のものに寄っています。
ご了承ください。


☆さよならローズガーデン(毒田ペパ子)

超絶名作。
20世紀初頭のイギリスで、女性として・同性愛者として抑圧された二人の女性を描いた人間ドラマです。
美しい絵、丁寧な歴史考証、キャラクターの生命感、差別の中に生きながらも希望のあるストーリー……どこを見ても二百点満点。
周囲の女性たちも、隠れてフェミニズム運動をしていたり、モブの女性描写も秀逸。
男権社会の鳥かごの中に囚われていたアリス様が、華子とともに、力強く人生を紡ぎ始める姿には感泣を禁じ得ませんでした。
映画『お嬢さん』好きは読みなさい(突然の命令)。

☆架空のレズ(わんこ)

ネームで漫画賞を受賞した、(実質)作者不詳の名作。
めちゃめちゃ漫画が上手い。プロ作家の匿名投稿ではないでしょうか。
短い作品ながら、女性差別・レズビアン差別がギッシリ詰まっていて、読むだけで胸が痛くなる……。
作中の女性蔑視エピソードは、作者コメントから「実際にあったこと」だと伺い知れます……。
これは百合・GL作品好きさんの課題図書にすべき名作なんだが、このネームで終わってしまったんだろうか……?
絶対に必要とされる作品だと思うのですが……。


☆夢の端々(須藤佑実)

変化する社会に翻弄されながら、愛慕を胸に生きる女たちの大河ドラマ。
『さよならローズガーデン』は20世紀初頭の英国が舞台でしたが、こちらは戦後から現代までの日本が描かれています。女性・同性愛者・同性愛女性への偏見の形にも差異があり、遠藤周作『白い人・黄色い人』を思い出しました。
喜代子とミツの「やりきれなさ」「悲哀」が描かれているものの、物理的に別離しても決して離れない二人の魂は、一種のハッピーエンドのように感じてしまいました。
分かりやすいハッピーエンドではない切ない話が苦手な人にも、是非読んで欲しい作品です。


☆JK×未亡人:あなたがアタシを殺すまで(irua)

同人作品。電子書籍で購入できます。
男性向けっぽい設定やキャプションを打ち出しておいて、内容はウーマンリブ的でリアルな女性の苦悶や強さを描く作家さんです。
一見すると男性に都合が良さそうな女性たちの、決して「女の属性・役割」ではない「人間」としての姿が心に迫る。
こちらの後書きでも、JK・未亡人という名称に関する差別的文脈への疑問が語られています。
同作者さんの『オタサーの姫×オタサーの姫』も良作。一流のイラストレーターさんなので、美麗な絵にも注目。


☆女だから、とパーティを追放されたので伝説の魔女と最強タッグを組みました(蛙田あめこ・りりうら世都)

エンタメとして分かりやすくフェミニズムを昇華した作品。
現実社会でニュースとして報道された性差別問題や、ジェンダー(社会的性差)規範にまつわる偏見などが、ファンタジー世界を舞台に食べやすく料理されています。
しんどい現実を重いままで、けれど面白おかしく楽しみながら読める痛快な名作。
この記事で紹介している作品は、いわゆる主流フェミニズムで取りこぼしがちな現実の女の苦悶を描いたものを紹介していますが、こちらの作品だけは『昨今のフェミニズムでよく語られている』内容だと思います。


☆欠けた月とドーナッツ(雨水汐)

天才作家。
文学的に淡々と流れる時間と、多くを語らない登場人物たち。
作品自体に派手さはないのに、現実に横たわる社会的偏見や、女性たちが抱える悩みや恋心がドラマティックに伝わってきます。
「男権社会が求める女性」を目指していたひな子の、のちに女性を好きになる前段階の微細な心象描写が秀逸。
大人の女性を文学的に描写したやや難解な作品ではあるものの、深読みせずサラっと読むだけでも、胃もたれせず軽やかに読める名作かと思われます。
同作者さんの『女ともだちと結婚してみた』でも、同様の素晴らしさを感じることができました。


□強く当事者感覚が描かれている百合・GL漫画

最後に、レズビアン当事者の感覚が上手く描かれた作品をご紹介します。どうしても紹介せずにはいられない……。

私が一押しするのは、当事者感覚をガッツリ描きながらも爽やかで読みやすい犬井あゆ先生です。若く優れた作家さんです。
『推し燃ゆ』宇佐見りん先生同様、ちょっと灰汁や尖りがなさすぎる感はあるのですが、優しさに溢れ万人が読める質の良い作品を描かれる作家さんだと思います。
この才能、大切に応援したい!

男性作者さんが描かれたガールズラブ作品で、多分「真面目に同性愛差別を調べた」であろう百合作品を読んだのです。
が……「男社会のゲイ男性に対する偏見」を、「そのまま女性に当てはめてしまった」せいで、ほぼ女社会には当てはまらない男目線(メイルゲイス)たっぷりの作品になってしまっている悲劇を何度か体験しました。レズビアンとゲイ、女と男では抱えてる問題が全く違うんだよ……。

でもそれは男性作者さんに問題があるからではなく、「自分と違う属性を描く」というのは本当に難しいことだからだと思うんです。
私だって、自分と全く逆の「ヘテロ男性」を描くのは非常に難しい。

だからこそ、「当事者の声」が反映されている作品は貴重だと思うのです。

GL(およびBL)には当事者の声が反映されるべき、とは私は思いません(個人の感想)。
ただ、知識として知っておいても損はない
当事者の命が描き込まれた彼女たちの作品が多く読まれることを願ってやみません。


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