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母から押しつけられた洋服

自分では使わない、いらないものだけれど、捨てるには惜しいからと、他者に押しつける人がいる。子どもが着ていた洋服などは、その際たるものかもしれない。中には掘り出し物があったりするから、お下がり洋服などは、「捨てるかどうかはこちらで判断するから」と言って、なんでもかんでも引き受けてきた。お下がりを回してくださる家庭状況によるのか、状態がいいものばかりのときもあれば、そうでない場合のときもある。

お下がり品でなくても、趣味に合わないものをいただくことがある。そういうときは、二束三文にしかならないがリサイクルショップに持ち込んでみたり、手間ばかりかかって実利は少ないがネットに出品してみたり、段ボール箱に「ご自由にどうぞ(FREE)」と書いて屋外に出してみたり、使ってくれそうな友人に差し上げたり、あの手この手で処分してきた。

わたしの実家に行く度に、子どもは何かしら持たされて帰ってくる。あるとき、子どもは、わたしの母からだと言って、わたしにセーターを渡した。「わたしは着ないセーターだ」と瞬時に判断した。ネットに出品しようかと思ったが、未使用品のわりには、保管期間が長すぎるためか、なんとなく汚れている感じがする。出品するなら洗濯しようと思って、面倒だと感じながらもセーターを洗った。洗濯水はずいぶんは汚れていた。洗ってみると、なんだかスッキリした。やっぱり、なんとなく汚れていたんだと思った。ところが、一度洗濯しちゃうと、未使用品で出品することに躊躇するようになった。
「うーん、どうしようかなー」
子どもに頼んで、実家に持っていってもらおうか思ったが、それはそれでなかなかいいタイミングがこない。

そうこうするうちに、年末となった。パートナーは律儀なのか、わたしが行かなくても、わたしの実家にお年始に行く。ここは、パートナーに協力してもらおうと考えた。
お年始に出掛ける直前になって、持って行ってくれるように頼んだ。ところがパートナーは、「さすがにイヤだよ」と言い出した。まさかの想定外!
どうやらパートナーは、子どもに貰ったものだと思ったらしい。袋に入れた中身をチラッと見て、子どもが着るものだと思ったようだ。

実は、母がわたしのこのセーターを提示するのは、今回が初めてではない。初めてわたしに提示したのは、確か、わたしが高校生の頃だ。その時点でわたしは「それは着ないから、いらない」と断っている。
何年か前に、珍しく実家に行ったときも、「これどうかしら」と提示してきた。そのときも「それはいりません」とハッキリ断った。
思い出していないだけで、たぶん他にも何回かわたしは「いらない」と断ってきている。

母に返却することを躊躇したパートナーを納得させるために、30年も前から拒否し続けてきていること、それでも変わらず母は押しつけてきていること、自分が買ってきたセーターなら自分で着ればいいと思っていること、いらないなら自分で捨てるのが筋だと思うことなどを話した。

お年始に行ったパートナーがセーターを出して渡そうとしたところ、実家にいた子どもが「あ、これは!」と気づいて、「あとでうまく渡しておく」と引き受けてくれたらしい。

その後、実家からは特に何も言ってこない。というか、別の問題が発生して、それどころじゃない。

いずれにせよ、約30年間にわたって、ある1枚のセーターを押しつけようとしてきた母との攻防は、ようやく終わりを告げたような気がする。

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